不妊治療 (9)番外編 卵黄嚢の神秘
不妊治療 (9)番外編 卵黄嚢の神秘
今回は不妊治療とは関係ありません。余談です。
以下の写真は、前回の(8)体外受精の手順 で示したものです。
今回は、一般的にはあまり聞いた事もなく、馴染みのない「卵黄嚢」についてご説明します。
<上の図の説明>
8週目の胎児。右側のリングが卵黄嚢。その左上部が頭、その下が胴体で、周囲の黒い部分が羊水。卵黄嚢と胎児は卵黄管でつながっており、卵黄嚢の中の栄養を取り込んで初期の成長が保たれます。
卵黄嚢の水平位で左側の子宮内膜の胎盤とつながっているように見える部分が臍帯(さいたい)です。
(A) 卵黄嚢の神秘
卵黄嚢は鳥の卵の黄身に相当する器官で、胎児の初期の発育に必要な栄養を蓄えています。卵黄嚢は胎盤が完成するまでの間、胎児に栄養を供給する役割と造血の役割があります。
この卵黄嚢は、胎盤から臍帯を通して栄養が供給されるまでの間の「臨時のお弁当」のようなものです。
宇宙なら、宇宙食に相当しますが、このお弁当の中身は不明です。こんなに小さなお弁当でも12週頃までの正味一ヶ月間くらいは、このお弁当を頼りに胎児は成長します。
しかも生存のための単なる栄養ではありません。なぜなら胎児を成長させてくれるのですから宇宙食よりも遙かに優れたお弁当と言えると思います。
私達の赤血球には核がありませんが、卵黄嚢で作られる胎児の赤血球には鳥の赤血球と同じように細胞核があります。胎児の成長と共に卵黄嚢にあった様々な幹細胞が、胎児に移行して造血機能が胎児側に備わるとされています。 すなわち、上の写真で見られる胎児の身体は、入れ物(器)に過ぎず、生命としての源は、卵黄嚢から供給されているように思われます。
しかし胎盤ができる頃になると卵黄嚢は退縮し、卵黄管の一部はへその緒となって、胎児と胎盤をつなぎます。胎児の成長に伴い、臨時のお弁当だけでは栄養が足りなくなり、胎盤を通して栄養を吸収するようになります。いつまでも科学的な解明が困難な「新しい命の誕生」を感じさせてくれると言う意味で「神秘性」を感じられないでしょうか。
(B) 胎盤
胎盤は、母体由来の基底脱落膜と胎児由来の絨毛膜有毛部とから構成され、胎盤と胎児は臍帯で連絡されています。
(C) 胎盤の主な機能
胎盤の主な機能は次のようなものです。
1) 母体側と胎児側の代謝物質交換
2) ガス交換
3) 胎児側への免疫学的支援
4) ホルモンを産生し、妊娠を維持する。
臍帯(へその緒)から絨毛間腔側に向かって臍動脈が流れ、絨毛を経由するうちに、ガス交換、栄養吸収、老廃物の放出が行われ、臍静脈を経由して胎児側に戻ります。
(D) 後陣痛と後産の役割
胎盤は分娩時、胎児のあとに後産(こうさん、あとざん)として娩出(べんしゅつ)されます。胎盤は羊膜・臍帯と共に後産として子宮から剥離して出てきます。
この後産は、分娩後、子宮が徐々に元の大きさに戻ろうと収縮しますが、その時に生じるのが後陣痛です。
また、子宮が収縮することにより、子宮と胎盤に栄養を届けるために発達した血管を収縮させ、子宮からの出血を止める大切な役割があります。
後産は、分娩後数時間以内に痛み出し、出産当日や翌日あたりに強く、3日後頃には次第に落ち着いてくることが多いとされています。
そして、妊娠および分娩によってもたらされた母体や生殖器の変化が、分娩の終了から妊娠前の状態に戻るまでの期間を産褥(さんじょく)あるいは産褥期と言います。
この期間は一般に6週間から8週間といわれていますが、個人差や出産ごとでも異なるとされています。
この期間に、妊娠時から急速に体内濃度が高くなっている体内ホルモンのプロラクチンが乳腺を刺激して乳腺葉を発達させ、オキシトシンは乳腺筋肉を刺激して乳汁を分泌させます。これらが任産婦を母性行動へ誘導するとされています。
参考情報