認知症 (15)認知症ワクチンの開発研究の進展
認知症 (15)認知症ワクチンの開発研究の進展
前回の下記論文を解説します。
「DNA Immunization Against Amyloid beta 42 has High Potential as Safe Therapy for Alzheimer’s Disease as it Diminishes Antigen-Specific Th1 and Th17 Cell Proliferation.」(Cell Mol Neurobiol. 2011 Apr 6.)
上記の論文タイトルは、認知症ワクチンに関するもので、「アミロイド・ベータ42に対するDNAワクチンがアルツハイマー病に対する安全な治療としての可能性が高い ( アミロイド・ベータ42に対する抗体が抗原特異的Th1とTh17細胞増殖を減らす)」と言う論文ですが、次の2点についてあらかじめお断りさせていただきます。
1) 内容が複雑なためアミロイド・ベータ42の「42」についての説明は、割愛させて頂きました。
2) 内容の理解の助けとなるよう<>内には簡単な解説を付けさえて頂きました。
研究の背景
これまで、認知症に対するDNAワクチン(AβーDNAワクチン)で予防接種が行われたいくつかの研究成果では、Th2細胞が免疫反応を起こして、抗原物質であるAβに対する抗体が作られる事が証明された。<Th2細胞の反応は液性免疫が誘導されたことを意味しており、Aβに対する抗体が産生されたことからワクチンとしての効果を発揮できる可能性が期待されています。>
目的
そこで今回、 AβーDNAワクチンで免役されたマウスのリンパ球を取り出し、Aβ抗原で刺激するとT細胞の反応が見られるかどうかを調べました。このときAβ抗原をDNAではなく、アジュバント(免疫賦活物質)としてサポニンに結合させてワクチン接種したマウスリンパ球の反応性と比較しました。<Aβ-DNAワクチンを接種されたマウスのリンパ球を取り出し、試験管内で、抗原であるAβに対して免疫応答するかどうかを調べた。抗原であるAβをアジュバントに結合させて抗体の産生を誘導する通常の免疫法とAβーDNAワクチンの効果を比較した。>
免疫期間は短期(3回の予防接種)と長期(6回の接種)で接種を行った。
結果
AβーDNAワクチンを接種されたマウスのリンパ球は、Aβ抗原に特異的な抗体の産生と抗体の種類、及びサイトカインの分析結果は、次の通りでした。
1) Aβ-DNAワクチンで免役されたマウスの血清中には、十分なAβに対する特異的抗体価の上昇が認められた。 <Aβ-DNAワクチンを接種されたマウスの血清中に液性免疫が誘導され、Aβに対する抗体の産生を確認した。すなわちDNAワクチンが効果を発揮して抗体が出来たことを意味しています。>
2) その抗体の種類はIgG抗体で Aβを効果的に減少させられると判断された。また、Aβ抗原を結合させたサポニンで免役した場合よりも短期間に高い抗体価が得られた。 <抗体の種類も目的のIgG抗体で、Aβとの反応が期待される事を意味しています。>
3) 抗原特異的Th1細胞とTh17細胞増殖反応は見られず、インターフェロンγ(ガンマ)あるいはインターロイキン17も見られなかった。この結果はAβ-DNAワクチンがマウスの体内で自己免疫疾患を引き起こす可能性が低く、脳で免疫系の炎症性反応を引き起こす危険性が少ないことを意味している。
<Th1細胞が関わる細胞性免疫やTh17細胞による自己免疫反応は誘導されていない事を意味しています。(注)>
4) 従って、AβーDNAワクチン接種により産生されたAβに対するIgG抗体は、アルツハイマー病患者の脳で効果的にAβと反応して、認知症を予防できる可能性が高いと考えられる。
(注1) について補足します。 もしTh1細胞の増殖が見られるとどうなるか。Th1細胞は細胞性免疫を誘導しますので、Th1細胞が活性化した他のリンパ球によりAβの付着した脳細胞を破壊する副作用を現す可能性が考えられます。
同様にTh17細胞の増殖が見られたなら、Th17細胞は自己免疫に関わるため、Aβに対する自己免疫疾患が引き起こされる可能性が考えられます。例えば関節の滑膜に対する抗体が出来ると関節リウマチになりますし、細胞内の核物質に対する抗体が出来ると全身性エリテマトーデスと言う自己免疫疾患疾患(自分の身体の中にあるに物質を自分のリンパ球が破壊し、炎症を起こす疾患)になります。
<私見>
DNAワクチンを使ったワクチン開発
これは、まだ始まったばかりです。このDNAワクチンを使って認知症におけるAβに対する抗体を誘導することで、Aβが蓄積するのを防ぎ、認知症予防に役立てようとの目的で、この分野の研究は日々進んでいると思います。
他方、認知症に対するDNAワクチンでAβの抗体を誘導する以前に、より一般的なインフルエンザウイルスに対するDNAワクチンの開発さえも、まだ実用化には至っていません。さらに、マウスではうまくいったと思われる研究でもヒトに応用できなかった研究成果は無数にあります。
今回の研究成果は、マウスではワクチン接種による細胞性免疫や自己免疫疾患の誘導の危険性は避けられそうですが、ヒトに応用できるかどうかはまだまだ先になると思います。認知症ワクチンの実用化には、まだ10年はかかると思いますが楽しみにしたいと思います。 以上で認知症のシリーズをいったん終了させていただきます。
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