血液検査 (9)中性脂肪からわかる事
血液検査 (9)中性脂肪からわかる事
(A) 中性脂肪とは
中性の脂肪を中性脂肪というのではありません。この言葉からイメージされる脂肪は中性の脂肪酸かも知れませんが、それも少し違います。
脂肪酸のカルボキシル基と言う酸性を示す構造部分がグリセリンとエステル結合し、カルボン酸ではない事を意味しています。「カルボン酸」ではないために「中性」と表現しているに過ぎません。
もう一度定義しますと、
脂肪酸とグリセリンがエステル結合すると、水分子がとれて結合し、脂肪酸の酸性の性質がなくなる事から、中性脂肪とい言っています。
下記の示性式に示した脂肪酸(R1,R2,R3)のグリセリンエステルを中性脂肪あるいはトリグリセライド、あるいは単にトリグリと言います。
下記の示性式のR1、R2、R3は、脂肪酸が三つ結合している場合をトリグリセライドと言います。
上の式で右側のR1、R2、R3として結合する脂肪酸は、動物ではステアリン酸、パルミチン酸など二重結合のない飽和脂肪酸が、植物ではオレイン酸、リノール酸、リノレン酸のような二重結合を持つ不飽和脂肪酸が多く含まれます。
従って、動物性の中性脂肪は室温で固体状態である中性脂肪が多く、
植物性の中性脂肪は室温で液体の場合が多いと言う性質の違いがあります。
上の示性式で、中央の-O-よりも左側の部分はグリセリン分子で、グリセリンの場合、-O の右には水素(-H)が結合している事から、グリセリンでは、-OHとなるので、グリセリンにはアルコールの性質があります。
<中性脂肪の役割とは?>
この中性脂肪は、生体内ではエネルギー貯蔵物質としての役割を担っています。
しかし、このエネルギー源としての役割は、過剰摂取と運動不足により、皮下脂肪となり肥満原因の一つとされています。
(B) 中性脂肪は何から作られるか?
食事からグリセリンは摂取していません。では中性脂肪は何から作られるのでしょうか?
脂肪は、食事を通して直接摂取されるほか、過剰に摂取した炭水化物から肝臓内で新たに合成されます。 ここで言う炭水化物とは、お米、うどん、パン、トウモロコシや甘い物(お菓子やアメ)を指しています。
従って、食事による糖質(炭水化物)や脂肪酸の過剰摂取が中性脂肪増加の主な原因となります。
天ぷらや唐揚げなどの油物を一切摂取しなくても、炭水化物や糖質、甘い物の摂取が多い場合、中性脂肪は上昇します。
また、糖尿病の際、肝臓に多量の糖が運ばれると、中性脂肪の合成が亢進し、血中で中性脂肪が増加します。そして 肝臓での中性脂肪産生量が血中に出される量よりも多くなると、肝臓に中性脂肪が蓄積し脂肪肝となり、体内では皮下の脂肪組織が増えます。
肥満も考えようによってはエネルギーを蓄えているとも言えます。
(C) 中性脂肪で何がわかるのか?
中性脂肪が余分になり、血液中に増加してくると、動脈硬化を進める一因になります。そのため、中性脂肪の測定は、動脈硬化性疾患(狭心症、心筋梗塞、脳卒中など)の状態を把握した入り、予防するために重要です。
中性脂肪の値が高い場合には動脈硬化の危険度が高く、低い場合には栄養障害や栄養障害を引き起こす病気が考えられます。
(D) 異常があったらどうするか?
中性脂肪値が高値を示す人の大半は、肥満や食べすぎ、運動不足、飲酒によるものです。
この状態が続くと、心筋梗塞、脳血管障害など、動脈硬化症の原因になりますので、食生活や生活習慣を見直して、運動を取り入れる事でエネルギー代謝をコントロールすることが大切です。
飲酒している人は禁酒するか、週2回程度に節酒します。肥満や運動不足の人は、運動する習慣をつけ、炭水化物や糖質(炭水化物)、脂肪の多い食事を控える事で、改善が期待されます。正しい食事療法を行なうだけでも、中性脂肪を約30%も減らすことができますので、頑張りましょう。
(D) 中性脂肪を下げるには
上記の「(B) 中性脂肪は何から作られるか?」で示したように、中性脂肪の原料は、糖と脂肪酸でした。
従って、原料となる糖と脂肪の過剰摂取をひかえる事です。
(1) 食べ過ぎに注意する 食べ過ぎは肥満の元凶であり様々な病気を引き起こします。肥満や運動不足の人は、運動する習慣をつけ、炭水化物や脂肪の多い食事を控えるなどといった努力で、改善できます。
(2) アルコール類、タバコを控える 適度なアルコールは血液中のHDL(善玉)コレステロールを増やしますが飲み過ぎは中性脂肪を増やすので注意が必要です。また、喫煙はHDL(善玉)コレステロールを減少させます。週1~2回程度は節酒しましょう。
(3) 糖分をとりすぎない 甘いお菓子や果物、清涼飲料水は体内で中性脂肪に変わります。
正しい食事療法を行なうだけでも、過剰な中性脂肪を減らすことができますので、頑張りましょう。お互いに。
(E) 中性脂肪を下げる薬
アザラシを主食とするグリーランドの先住民族イヌイットは、心血管系疾患による死亡率が非常に低いことが疫学調査により明らかにされました。彼らの血液を調べたところ、魚やアザラシの脂肪に多く含まれるイコサペント酸(EPA)が血中に多く含まれていることがわかり、脂肪酸が注目されました。その結果、EPAを多く摂取することにより、心血管系疾患を予防できることが示唆されました。
また、日本でも千葉県の沿岸漁業地域と内陸部の都市近郊農業地域において、3年間にわたる疫学調査が行われ、漁業地域と農業地域における魚の摂取量が比較されました。その結果、1日平均魚介類摂取量およびEPA摂取量は、漁業地域において明らかに高値でした。
さらに、漁業地域と農業地域における虚血性心疾患、脳血管障害の訂正死亡率を比較しました。その結果、両疾患による死亡率はともに漁業地域において近郊農業地域と比較して低い傾向が認められました。
このEPAは、青魚に豊富に含まれている事から、日々に1g以上のEPAが推奨されています。
実際には、調理法によっても異なりますが、魚を100g程度摂取すれば必要なEPAがとれるようです。
このEPAが製剤化されたお薬がエパデールやエパアルテと言うお薬です。