血液検査 (30)透析開始の時期は?
血液検査 (30)透析開始の時期は?
肝心要(かんじんかなめ)の「肝心」は、以前は「肝腎」だったそうです。
この肝は肝臓を、腎は腎臓を意味していますが、要は「最も大切な部分」を指しますので、ヒトの身体で最も大切な部分は肝臓と腎臓と言うことになりそうです。
肝臓は原材料である栄養を加工し、身体を維持・形成する工場の役割が、また腎臓は老廃物を処理する役割がありますので、身体の機能を維持していくためにはどちらも大切な臓器です。
しかし、もし腎機能が低下した際には、老廃物を処理する働きを人工透析によって維持していく必要がございます。今回は、この透析開始の時期予測について、これまで学んできた検査項目から考えてみたいと思います。
これまで、腎機能に関しては、以下の項目を説明して来ました。
(27)クレアチニンからわかる事
(28)尿素窒素からわかる事
(29)糸球体濾過機能からわかる事
そこで今回は、腎機能が低下した場合、これまで学んできた上記の検査データから、透析開始の時期を予測してみたいと思います。血液検査の腎機能検査の結果から、簡単に透析開始の時期まで予測できてしまいます。
(A) 透析開始の時期予測
クレアチニンとクレアチニン・クリアランスが反比例することから、これをグラフにしてみましょう。
クレアチニンの値からクレアチニンの逆数(1/Cr)を計算します。
下のグラフのように横軸に年数(期間)を、縦軸にクレアチニン濃度の逆数(1/Cr)をとります(下図参照)。
クレアチニンの正常値を大ざっぱに1mg/dl としますと、
下のグラフの 1/2(50) とは、クレアチニン濃度が2mg/dl の場合、(1/クレアチニン=1/2=0.5(50%)に相当します。これをクレアチニンの検査の際に計算します。
そして、8mg/dl のクレアチニン濃度では、1/8(12)は、1/クレアチニン=1/8mg/dl =12.5となります。
腎機能が正常の10-15%以下になると、透析や移植が必要です。
日本では、「透析導入の基準」(厚生労働省)があります。
上記リンク先中程の「慢性腎不全透析導入基準」の
1)臨床症状、2)腎機能、3)日常生活障害度の組み合わせで導入時期を検討します。
腎機能が正常の15%以上の場合でも、尿毒症の症状や高カリウム血症、心不全、糖尿病などがあり、それらの治療によっても腎機能が改善しない場合は透析が必要と判断します。
(B) 透析導入を遅らせるには
腎臓病はあまり自覚症状がないため、知らないうちに症状が悪化してしまいます。
慢性腎不全の場合、腎不全が進行して腎機能が低下すると、透析治療が必要になります。
慢性腎不全でも透析治療の開始時期を少しでも先に延ばす事も可能です。
そのために必要な事は、食事療法と薬物療法です。腎不全の食事療法の基本は、蛋白質と塩分を控えながら、エネルギー不足とならないようにすることです。
食事療法
蛋白質は代謝・分解されると窒素を含んだ老廃物となり腎臓で濾過され尿として排泄されます。クレアチニンも尿素窒素も蛋白質の代謝産物でした。
しかし、腎不全ではこれらの代謝産物の濾過が、うまく出来ないために排泄が困難となります。
その結果、腎臓の糸球体に負担がかかって、糸球体が破壊されます。
腎機能低下の状態で蛋白質を多く摂取すると、排泄が追いつかずに腎臓に負担がかかり、腎臓を傷つける原因になります。これらのことから腎不全の食糧療法では、蛋白質の摂取を減らすことが必要です。
塩分制限
塩分を摂りすぎると喉が渇いて水分を過剰摂取します。その結果、身体に水分が溜まり、むくみがでたり、高血圧になります。 腎機能が正常な人でも、長期間、高血圧を放置すると、腎機能障害を生じます。
腎不全でナトリウムの排泄能が低下しているところに、塩分を摂りすぎてしまうと、さらに高血圧となり腎不全を進行させますので、塩分制限をおこない高血圧にならないようにすることが大切です。
エネルギー摂取は十分に行う
ヒトは何もしないで静かに横になっているだけでも生命を保つ為に、一定量のエネルギーが必要です。
蛋白質摂取を抑えた食事制限で、エネルギー量が不足すると身体を作っている蛋白質が壊され、老廃物が増えます。蛋白質の老廃物が増えると、上に述べたように腎臓に負担がかかります。
従って、身体の蛋白質が壊されないようにエネルギーを充分に摂取する事も必要です。
薬物療法
腎不全の進行を遅らせるため、及び腎機能低下による貧血等の合併症を改善するために薬が用いられます。 降圧剤、利尿剤、貧血の薬、高脂血症の薬、ビタミンD製剤などが使われます。
また、過労やストレスも腎不全の進行を早める原因になりますので、自分の年齢・体力・残りの腎機能にあった生活や適度な運動、栄養摂取を心掛けましょう。