耳の話し (3)耳垢の化学分析
耳の話し (3)耳垢の化学分析
今回は、耳垢の化学的な分析研究をご紹介します。
但し、下の論文が無料で公開されている部分は要約のみでしたので、今回は論文の概要のみの紹介です。
研究タイトル:Cerumen composition by flash pyrolysis-gas chromatography/mass spectrometry.
研究者:Burkhart CN1, Kruge MA, Burkhart CG, Black C.
公表雑誌:Otol Neurotol. 2001 Nov;22(6):715-22.
上記タイトルの訳:フラッシュ熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析による耳垢の組成
<用語説明>
フラッシュ熱分解ガスクロマトグラフィ
フラッシュ熱分解とは、急速熱分解の意味で、急速に試料を高温にすると、分解より蒸発が優先する現象を利用して、試料を瞬時に気化させることで煩雑な前処理を必要とせずにガスクロマトグラフ分析を行う装置です。
これは不溶性あるいは不融性の試料でも、微量のガスを発生させることで、高分子化合物の分析に用いられます。
また、加熱により発生したガスを直接分析できることから、微量の揮発性有機物の解析にも適しています。
ガスクロマトグラフィ/質量分析
様々な物質で構成される耳垢の成分をガスクロマトで分離させます。
次に、分離した成分の質量を分析する質量分析装置を組み合わせることで、混合物(耳垢成分)の分離と分離された成分の定性分析を行います。
(A) 目的
フラッシュ熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析によって耳垢の化学組成を調べた。
(B) 方法
収集した耳垢試料耳垢の詰まった患者さんから採取し、デオキシコレートに溶かした。
(C) 結果
デオキシコール酸に溶かされた耳垢成分には、次のような物質が含まれていました。
1) 芳香族炭化水素として、C5-C17直鎖炭化水素、
2) ジテルペノイドとステロイドの混合物。
他方、デオキシコール酸に溶かされなかった成分には、次の物質が検出された。
1) 芳香族化合物としてベンゼン誘導体、フェノール、ベンゾニトリル。
2) C5-C25直鎖炭化水素、窒素化合物、フェノールが多く見られ、
3) ジテルペノイドも検出された。
(D) 結論
界面活性剤であるデオキシコレートを用いることにより、
1) コレステロール生合成の中間代謝物である スクアレンと
2) ジテルペノイドが非結合状態で検出された。
3) ところが、ステロイドと炭化水素は窒素結合又は他の結合によって高分子物質に結合しているように思われた。
この研究は、耳垢除去の方法として、デオキシコール酸の利用を提案します。
<用語説明>
ジテルペノイド、スクアレン
これらはいずれもステロイド合成経路で生合成される中間体で、細胞膜を構成するせいぶんです。
ベンゼン誘導体、フェノール、ベンゾニトリル
これらが生体系で生合成される代謝系は考えられません。検出された原因は不明です。
<私見>