発熱 (2)感染による発熱の仕組み
発熱 (2)感染による発熱の仕組み
前回の、(1)体温を保つ仕組み では脳の「視床下部にある体温中枢」が体温を保っていることをご説明しました。
また、小児における発熱の原因は、その多くが病原体(細菌やウイルス)の感染によるものであることをご説明しました。
そこで今回は、末梢(ノドや鼻)における感染では、どの様にして体温中枢は体温を上げるのか?についてご説明したいと思います。
(A) 病原体に感染するとなぜ、熱が上がるのか? (下の図を参考にして下さい)
- 体内にウイルスや細菌が侵入すると、体内では病原体を排除しようとする仕組みがあります。 この仕組みを免疫(機構)と言い、主に白血球がその役割を担っています。
- 生体が感染にさらされると、感染部位に白血球が集まり、病原体を攻撃する様々な炎症性サイトカイン(インターロイキン)が産生されます。
- このサイトカイン(インターロイキン)が、他の白血球を刺激することで免疫機構を活性化します。
- 次に、白血球が産生したインターロイキンが脳の血管内皮細胞に発熱物質(プロスタグランディン)を作らせます(インターロイキンは蛋白質でできており、分子量が大きくて脳の組織内には入れません)。
- この発熱物質(プロスタグランジン)が体温調節中枢に作用してサーモスタットの温度設定を上昇させる仕組みになっています。
- 体温調節中枢が刺激されると、末梢の体温調節器官(筋肉、肝臓、肺、皮膚、血管)が司令を受けて動員されます。
- また、感染部位では白血球が病原体と戦い、全身状態は病原体と臨戦態勢に入ってい行きます。
<まとめ>
このように身体の局所で病原体に感染しても、感染部位に集まった白血球が産生したサイトカインが脳の血管内皮細胞からプロスタグランジンを出させて視床下部にある体温中枢を刺激することで、全身が感染に対応しようとして発熱しますので、生体の防御反応の結果と見ることも出来ます。
(注意) 上の図では、サイトカインが体温調節中枢を刺激するように書かれていますが、サイトカインが作用するのは脳の血管内皮細胞です。
<用語説明>
サイトカインとは
サイト(細胞)とカイン(低分子物質)を意味しており、細胞が産生する低分子の生理活性物質を指します。
インターロイキンとは
インターは「間」、ロイキンは「白血球(leukocyte から-leukin)」を意味しており、白血球から産生される細胞間(inter-)の情報伝達を担う物質を指しています。 上のサイトカインとインターロイキンは同じものです。
プロスタグランジンとは
ヒトの前立腺 (プロスタータ) から初めて発見されたことに由来して命名された物質ですが、生体内のあらゆる細胞で産生され、強力な生物活性、情報伝達機能があり、局所ホルモンとして作用したり、脳の受容体を刺激して全身状態にも影響を及ぼします。
(B) 熱の高さや持続期間にいろんなパターンがある理由は?
侵入してくる病原体の数や種類により、白血球の戦い方や動員されるサイトカインの種類が異なるためです。
また、熱が出なくても、喉(ノド)が炎症を起こして痛くなるような白血球の局地戦もあります。
加えて、身体の反応性も体調によって異なります。
不規則な生活や疲労の蓄積で身体の自然抵抗力が低下した際には、免疫機構を担う白血球の働きも低下していますので、風邪が長引き、治りにくい事につながります。
普段から規則正しい生活と疲労を蓄積しない生活を守れるよう、各ご家庭のお母さんはご家族の体調管理にも気をつけていただけたらと思います。
(C)発熱は何のため?
発熱は病的な状態なので、すぐに解熱剤を飲んで「熱を下げるべき」との考えがありました。
その一方で、発熱は、身体を守るための生体防御機能のひとつとして理解されるようになってきました。
このことから、発熱が軽度で、ほとんど苦痛がない場合には、「解熱剤の利用は控えるべき」とするとする考え方が、長期的に身体の免疫力を高めると考えられています。
また、感染により高熱が出るヒトほど、ガンにかかりにくいとする研究報告もございます。 ・・・・その理由は、正常細胞に比べてガン細胞のほうが熱に弱く、高熱でガン細胞が死滅すると言う細胞レベルの実験報告によるものです。
熱が出るヒトほど病原体と戦う力が備わっているのかも知れません。