生ワクチンと不活化ワクチン (3)免疫応答の概要
生ワクチンと不活化ワクチン (3)免疫応答の概要
免疫応答の概要
1.液性免疫(抗体産生)の機序
病原性物質が生体に入ると、その病原性物質(異物)を身体から排除しようとして食べてしまう細胞が生体内にはあります。それをマクロファージあるいは貪食(ドンショク)細胞と言っています。
この貪食細胞(マクロファージ)は、食べた病原性物質(異物)の情報をT細胞(Tリンパ球)に渡します。これを抗原情報提示と言い、この情報を受け取ったT細胞(ヘルパーT細胞あるいはCD4陽性T細胞)は、B細胞に抗体をつくることを命令し、B細胞が抗体を産生します。このようにして液性免疫が成立します。
2.細胞性免疫(細胞障害性T細胞)の機序
抗体は細胞外にある異物やウイルスの除去を促しますが、細胞に入り込んで感染しているウイルスには効果がありません。
他方、細菌やウイルスのような病原体が身体の細胞に感染しますと、感染細胞の抗原情報はCD8陽性T細胞に提示され、細胞障害性T細胞(キラーT細胞)を誘導し、細胞性免疫が獲得されます。
病原体に特異的な細胞障害性T細胞(キラーT細胞)は、貪食細胞からの病原体の情報の提示を受け取るとキラーT細胞は活性化して増殖分化し、病原体が感染し病原体の抗原を細胞表面に提示している感染細胞に接近し、レセプターを介して粘着します。
その時にキラーT細胞は、次のような方法で感染細胞を破壊します。
細胞障害性T細胞のキラー機能(感染細胞の壊し方)
(a)パーフォリンと言う生物活性物質を産生し感染細胞に孔を空けて破壊し、この孔を通ってグランザイムと言う物質が細胞内に入ります。グランザイムは細胞内に入ると、DNAが切断されてアポトーシス(細胞死)を起こします。
(b)接合することによってFasレセプターを刺激し、ウイルス感染細胞をアポトーシス(細胞死)に追い込み感染しているウイルスもろとも破壊します。
3.クロスプレゼンテーション
貪食細胞はCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)に抗原情報を提示する一方で、CD8陽性T細胞(細胞障害性T細胞)にも情報を提示する事がわかってきました。これをクロスプレゼンテーション(交差による抗原情報提示機能)と言います。
クロスプレゼンテーションは貪食細胞が貪食して分解した抗原情報を、CD8陽性T細胞にも渡す事で外来の抗原ペプチドの情報を受け取った事で細胞障害性T細胞(キラーT細胞)に変身できることがわかってきました。
すなわち、病原性物質は貪食細胞が貪食し、病原体は他の細胞にも感染するが、貪食細胞にも感染が起これば貪食された抗原の一部が吐き出されて、他の細胞表面に付着し、あたかも感染を受けた細胞として細胞障害性T細胞(CD8陽性細胞)に認識される事で、キラーT細胞が誘導されると考えられています。
言うなれば、兄弟で兄(貪食細胞)が食べたお菓子の食べカスが、弟の顔(他の細胞の表面)に付いているのをお母さん(CD8陽性T細胞)が見つけると、弟(他の細胞)をしかりつけるようなものですね。もちろん兄の顔にもお菓子が付いていれば、兄も叱られます。この時、お母さん(細胞障害性T細胞)は兄弟達を自殺に追い込むほど怒るのです。食べ物の恨みは怖いですね(例えとしては、ちょっと違うかな?)。
用語の説明
アポトーシス:あらかじめプログラムされた細胞死(細胞の自然死)の事を意味します。細胞膜に変化が起こり、DNAが断片化して、細胞がいくつもの断片に分かれます。オタマジャクシがカエルになるときに尻尾がとれる現象もアポトーシスによって起こっています。
Fas:Fasとは一言で言いますと、細胞表面にある「自爆スイッチ」のようなものと考えられます。細胞障害性T細胞には、このFasレセプターと言うボタンを押すためのサイトカイン(細胞死を誘導することからデス因子と言っています)を放出して、感染細胞を自爆に追い込みます。
次回は、病原体の成分のみを使って細胞性免疫応答を誘導する方法についてご説明します。その方法の理解のために、今回はご一緒に免疫応答の概要について学びました。ワクチンも私達の身体にとっては異物です。この異物を利用することで感染症にかからないように工夫したものがワクチンです。