生ワクチンと不活化ワクチン (4)成分のみを使って細胞性免疫応答を誘導する
生ワクチンと不活化ワクチン (4)成分のみを使って細胞性免疫応答を誘導する
「生ワクチンと不活化ワクチン (2)効果の違いはどこにあるのか?」 の下段に以下のような事を示しました。
(A) 理想のワクチンとは
余計な副反応を伴わずに病原体を攻撃する完全な免疫反応、すなわち液性免疫も細胞性免疫もどちらも誘導することができるワクチンです。
より理想的なワクチンは、病原体成分だけで細胞性免疫を誘導することは出来ないのでしょうか?
実は病原体タンパク質の一部分(抗原)を使って、その病原体が感染した細胞を認識するT細胞を活性化する事が既にわかっています。
(B) 病原体成分のみを使って細胞性免疫応答を誘導できるワクチンについて
生体にとって、病原体を弱毒化したままでは、液性免疫も細胞性免疫も誘導できますが、弱毒化していても感染力はあるため、時に発症してしまうことがあります。そこで、病原体の成分のみで病原体が感染した初期に反応する免疫応答を誘導する方法があれば、病原体が感染したときのような免疫応答(液性免疫と細胞性免疫)を誘導でき、感染のリスクのない理想的なワクチンになります。
その方法として現在、注目されているのがリポソームを使う方法です。
(C) リポソームを用いるワクチンの効果
抗原をリポソーム表面に化学結合させて、ワクチンとして用いると抗原特異的な抗体が産生されるだけでなく、抗原特異的な細胞障害性T細胞も誘導されます。
(D) リポソーム・ワクチンの効果の機序
すなわち抗原物質をリポソームの表面に結合させたものをワクチンとして接種すると、CD4陽性T細胞だけでなく、CD8陽性T細胞にも抗原情報を提示している事が明らかにされました。この免疫応答の経路が前回述べたクロスプレゼンテーションであり、抗原特異的なキラーT細胞が誘導されると言うものです。
すなわち、抗原物質をリポソームに表面に結合させる事で、生ワクチンの効果と同様に液性免疫と細胞性免疫を誘導できるワクチンとして利用できる可能性が注目されています。
<用語の説明> リポソームとは
リポソームとはリポ(脂質)で出来た小胞(ソーム)を言います。脂質はリン脂質で、親水部分を表面に、内部は疎水部分同士が向き合った小さなカプセル状の構造をしています。(下記の画像は、KOSEさんのサイトから引用させて頂きました)
上図のような脂質二分子膜で構成される閉鎖小胞で、古くから生体膜モデルとして利用されてきました。これまでも、リポソームの内部空間(内水相)に薬物を閉じ込め、患部に送りこむ薬物輸送システムやウィルスベクターに代わる遺伝子導入システムとしての応用が盛んに行われています。
細胞性免疫を誘導するワクチンとして利用するには、
リポソームの表面に抗原性物質を結合させなければなりません。また、リポソーム表面のみならず中心内部にDNAワクチン(DNAに抗原物質を結合させたもの)を入れることで、ワクチン効果を検討している研究も進められており、今後のワクチン開発の進歩に期待したいと思います。
DNAワクチンとは
シトシンとグアニンと言う核酸塩基が並んだ塩基配列(CpG配列)を持ったDNAには、免疫刺激効果があることが知られています。これを利用し、シトシンとグアニンのDNAにワクチンを作りたいもの(例えばAβ)を結合して、ワクチンを誘導(DNAーAβワクチンと言います)します。
CpG配列のpとは、シトシンとグアニンがホスホジエステル結合と言う化学結合の結合状態を意味しています。
病原体の成分のみを使って細胞性免疫応答を誘導する方法についてご説明しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。この方法の理解のために、免疫応答の概要について学びました。ワクチンも私達の身体にとっては異物です。この異物を利用することで感染症にかからないように工夫したものがワクチンです。感染力のない病原体の成分をリポソームの表面に結合させたものをワクチンとして用いると、免疫細胞が病原体と間違えて、細胞性免疫と液性免疫を誘導することが出来そうです。