白血球 (5)白血病の分類
白血球 (5)白血病の分類
白血病における急性、慢性は一般的に用いる意味とは異なります。
造血細胞が腫瘍化して分化能を失い、顕微鏡で観察したときの見た目が幼若な血液細胞の形態の白血病細胞ばかりになる場合を急性白血病、
白血病細胞が分化能を保っている場合を慢性白血病と呼んでいます。
また、腫瘍の起源となった細胞が骨髄系の細胞かリンパ球系の細胞かによって骨髄性白血病、リンパ性白血病に分類しています。このことから白血病は主として以下の4種類に分類されます。
(1)急性骨髄性白血病、(2)急性リンパ性白血病
骨髄(球)系又はリンパ球系の幼若な分化・成熟能のない白血球が増殖した場合を急性骨髄性白血病あるいは急性リンパ性白血病と言います。急性~白血病では、白血球が成熟していませんので白血球としての機能がありません。また、急性~白血病が長引くと慢性~白血病になるのではありません。
(3)慢性骨髄性白血病、(4)慢性リンパ性白血病
骨髄系又はリンパ球系の細胞が分化していますが、ある白血球(骨髄球系、リンパ球系)が末梢血において増殖した場合をいいます。慢性~白血病では、白血球が分化していますので白血球としての機能はありますが、機能のバランスが損なわれています。そのため特定の白血球の機能のみ突出して亢進しているため免疫系のバランスは破綻しています。
上記以外にも○○白血病という病名で呼ばれていない、血液の癌がいくつかございますので、主な癌を紹介させて頂きます。
(5)多発性骨髄腫
血液細胞の1つである「形質細胞」のがんです。形質細胞はBリンパ球が成熟した段階の細胞で、免疫グロブリン(抗体)をつくっています。正常時の形質細胞は骨髄に1%未満ですが、ガン化して骨髄で殖えることにより(通常10%以上)、さまざまな症状を引き起こすようになります。ガン化した形質細胞(骨髄腫細胞)は骨髄の至るところで殖えることから多発性と言う名前が付いています。Bリンパ球の腫瘍であるため、特定の免疫グロブリンが増えます。骨髄で分化しているという意味では慢性リンパ性白血病と言えます。骨髄の腫瘍なのにリンパ性という理由は用語説明を参考にして下さい。
(6)悪性リンパ腫
リンパ系の組織から発生する腫瘍です。リンパ系組織とは、リンパ節、胸腺、脾臓、扁桃腺と、リンパ節、リンパ管、リンパ液を言います。リンパ系組織を構成する主な細胞は、Bリンパ球と呼ばれる白血球であることから、Bリンパ球の腫瘍(Bリンパ腫)と言えます。リンパ系組織は全身に分布しているため、全身のリンパ組織が腫れてくる病気です。そして良性が存在しないことから悪性という名前が付けられました。この病気の解明が進み、B細胞リンパ腫のみならず、T細胞の前駆細胞のリンパ腫やホジキンリンパ腫などに分類されています。ある程度分化していることから慢性リンパ性白血病に分類されるとも考えられます。
(7)成人T細胞白血病
HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルスのタイプ1)と言う名前のウイルスがCD4陽性T細胞に感染する事で、T細胞が分裂増殖し、リンパ腫なども伴う白血病です。この白血病についてはワクチンが開発されつつありますので、別に解説させて頂きたいと思います。T細胞に分化していることから、慢性リンパ性白血病に分類されますが、上記の(4)とは異なり原因がハッキリしてることから、別に分類されます。
上記の白血病は、様々な分類法があり、統一されていません。またこれらの白血病はガン化した白血病細胞の種類によりさらに細かく分類されます。それぞれの白血病がどのような症状をなぜ生じるかについては、別の機会に述べたいと思います。
<白血球シリーズの目的>
この白血球のシリーズを始めた目的は、白血病と放射線被曝について少しでもわかりやすく解説しておきたいという目的で始めました。なぜなら、原爆により最も早期に発症した癌が白血病であり、白血球をつくり出す骨髄は放射線感受性が高いことが知られているからです。
他方、成人T細胞白血病のワクチン治療のニュースが報道されたことを受け、この成人T細胞白血病についても解説を加えたいと思います。
<用語の説明>
(a) 骨髄球(こつずいきゅう)
血液細胞を造るもとになる細胞である造血幹細胞から白血球の顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)への分化の過程の最初の段階にある細胞を指しています。通常は骨髄球は骨髄内に存在し、(白血病や癌の骨転移などの場合を除き)末梢血中には存在しません。
(b) 骨髄系とは
顆粒球系という意味で用いられる用語です。正常な場合には好中球、好酸球、好塩基球のどの顆粒球に分化・成熟していく細胞で、まだ未分化な細胞を指して骨髄系細胞あるいは骨髄球系細胞としています。分化した顆粒球は、自然免疫という産まれながらの自然抵抗力を発揮する細胞です。
(c) リンパ球系
リンパ系組織(胸腺、骨髄、脾臓、扁桃、肝臓、虫垂、小腸内のパイエル板)と リンパ管、リンパ節から成ります。これらの組織をリンパ系組織、これらの中にいる細胞(リンパ球とマクロファージ)をリンパ球系細胞と言います。
(d) リンパ管
血管(静脈)と平行に 走っている流れの遅い管で、組織から白血球によって処理された老廃物や処理できなかった癌細胞などを取り込み、リンパ組織や リンパ節でろ過(完全処理)し、再び静脈に戻します。ろ過装置であるリンパ節やリンパ組織にはリンパ球やマクロファージなど白血球 が多数存在します。 このリンパ球系細胞は、獲得免疫(生まれつき持っていなかったが、感染やワクチン接種で抵抗力を獲得した免疫能)に関与します。
(e) リンパ球の分化と成熟の場所
骨髄系細胞もリンパ球系細胞も同じ骨髄の造血幹細胞から分化を開始します。しかし、骨髄系細胞が骨髄で成熟するのに対して、リンパ球は成熟の場所が異なります。
すなわち、リンパ球は胸腺で成熟するT細胞と、骨髄で成熟するB細胞があります。そしてT細胞は主に末梢血を循環し、B細胞は各リンパ系組織に定着します。
このT細胞は、異物(抗原)に対して自己と非自己を認識する細胞に成長し、細胞性免疫の働きを担います。それに対してB細胞は、異物(抗原)に対して抗体を産生する液性免疫を担う形質細胞になります。