医者を青くするもの (22)ニンニクの胃がん抑制効果2
医者を青くするもの (22)ニンニクの胃がん抑制効果2
前回の「(21)ニンニクの胃がん抑制効果1」よりも、もう少し具体的に「ニンニクの胃がん抑制効果」に関する調査報告をご紹介します。
しかしながら、今回も論文の全文をネット上で無料では閲覧できませんでしたので、一部のみのご紹介です。
論文内容に関する詳細は不明ですが、研究者自らがデータを収集したという報告ではなく、過去の医学文献データベースから類似の研究を絞り込み、総合的に統計処理を行った報告です。
従いまして、その内容は統計学的な理解が求められることから、今回は、統計学的な解説に重点を置いて、内容を解かり易くご紹介できればと思います。
タイトル:Meta-analysis:does garlic intake reduce risk of gastric cancer?
訳:メタ解析、「ニンニクの摂取量は、胃癌のリスクを減らすか?」
公表雑誌:Nutr Cancer. 2015;67(1):1-11.
研究者:Kodali RT1, Eslick GD.
研究機関: The Whiteley-Martin Research Centre, Discipline of Surgery , The University of Sydney, Sydney Medical School, Nepean , Penrith , New South Wales , Australia.(シドニー大学の外科学教室)
以下の内容は、上記リンク先の「要約」を統計学的に理解しやすいように具体的な用語説明を行って見ました。
(A) 要約
1) 過去20年の間、ニンニクが胃がんのリスクを減らせるかどうかに得ついて様々な疫学調査が行われました。
ニンニクはアリルスルフィドを含む多数の硫化物を含有しており、これらの成分に抗腫瘍効果が認められているからです。
今回、研究者らは、 ニンニクの摂取量が胃癌のリスクを減らすかどうかを調べるためにメタアナリシスを実施しました。
<メタアナリシス(メタ解析)とは>
過去に独立して行われた複数の研究データを収集・統合し、統計的方法を用いて解析する手法をメタ解析と言います。採用するデータは、信頼できるものに絞り込み、それぞれに重み付けを行ない、個別の調査データよりも普遍的なデータの規則性を見出そうとします。
2) メタアナリシスとは、様々な研究データの中から厳選し、総合的に統計解析する事です。
実際には、ニンニクの摂取量と胃がんの発がん率に関する研究を医学研究データベースを用いて検索し、対象となる研究を絞り込みました。そして14件の症例研究、2つの無作為抽出研究と 1つのコホート研究をメタ解析の対象としました。
<アリルスルフィドについて>
アリルスルフィドについては、以下のリンク先を参照して下さい。
補足(1)犬のタマネギ中毒の原因
補足(2)犬のタマネギ中毒の機序
<コホート研究とは>
ここで言うコホート研究とは、ニンニクを摂取したグループと摂取しないグループの間で胃がんの発がん率に差があるかどうかを調べた研究です。
3) 研究者らは、 胃がんのリスクをニンニク摂取量で比較するために、上に示した調査研究のデータを合算し、ニンニクの摂取量の比でグループ分けしました。
これを統計学的に言い換えますと、合算する事を「プールする」と言い、データをニンニク摂取量でグループ分けして、摂取量の比で分類することをオッズ比を調べると言います。
以上を統計学的に一言で言うなら「プール(合算)したオッズ比を計算する」と言います。
<オッズ比の説明>
オッズと言いますと競馬の人気馬ほどオッズが低い、つまり多くの人がその馬の馬券を買っている事を意味しているようです。
ここではオッズ比を説明の例として、ニンニクを摂取したヒトと非摂取のヒトの胃がんの発がん数を以下のように分類し、相対リスクとオッズ比を説明します。
胃がん 胃がん無し 合計
摂取群 ア イ ア+イ
非摂取 ウ エ ウ+エ
ニンニク摂取群における胃がんの発症率は、 N1=ア/(ア+イ) となります。
非摂取群における胃がん発症率は、 N2=ウ/(ウ+エ) と表せます。
そして2つのグループの発症率の比は、N1/N2 となり、これをニンニク摂取による胃がんの相対リスク(相対危険度)と言います。
また、ニンニク摂取群の疾患オッズ比は、N3=ア/イ として表せます。
ニンニク非摂取者のオッズ比は、 N4=ウ/エ となります。
そしてニンニク摂取群と非摂取者群とを比べた胃がんのオッズ比は、N3/N4 で表せます。
発がん率が低い場合には、オッズ比と相対リスクは近似値を示します。
これを相対リスクの式に当てはめてみますと、以下の通りです。
ニンニク摂取による胃がんの相対リスク ≒ オッズ比
=ア/(ア+イ) ÷ ウ/(ウ+エ) ≒ ア/イ ÷ ウ/エ
=ア/(ア+イ) ✖ (ウ+エ)/ウ ≒ ア/イ ✖ エ/ウ
この事からオッズ比は相対リスクの近似値(推定値)と考えられます。
ニンニク摂取群の相対リスクあるいはオッズ比が、
1より大きければ、ニンニク摂取により胃がんの発症が増加した事を意味し、
逆に1よりも小さい場合には、胃がんの発症リスクが減少した事を意味しています。
但し、ニンニク摂取群と非摂取群の家族歴にも胃がんの発がん率に差がない事を前提としています。
<信頼区間> ・・・信頼区間が「1」をまたいでいるか? あるいはまたいでいないか?がポイント!
「ニンニク非摂取群における胃がん発症リスク」に対する「ニンニク摂取群における胃がん発症リスク」の比を検討する場合、次の3つのケースがあります。
1) ニンニク摂取群と非摂取群の胃がんの発がん率が同じ場合には、オッズ比は1となる。
・・・・・この場合、ニンニクの摂取により、胃ガン発症のリスクに変化はないと考えられます。
他方、ニンニク摂取群と非摂取群の胃がんの発がん率が異なる場合には、次の2つの場合が考えられます。
2) オッズ比の信頼区間が「1」より大きい時、ニンニク摂取群のリスクは非摂取群のリスクより大きい。
・・・・・この場合、ニンニクの摂取により、胃ガンのリスクが高まると考えられます。
3) オッズ比の信頼区間が「1」より小さい時、ニンニク摂取群のリスクは非摂取群のリスクより小さいと判断されます。 ・・・・・この場合、ニンニクの摂取により、胃ガンのリスクが低下すると考えられます。
4) <オッズ比と信頼区間のまとめ> ←重要なポイントです!
従って、オッズ比の信頼区間が、「1」を含む場合は、ニンニク摂取群と非摂取群の胃がんの発症リスクは同じであること、あるいは差がないことを意味し、否定できなくなります。
それに対し、「1」を含まない場合には、「ニンニク摂取群と非摂取群のそれぞれの胃がん発がん率はどちらかの群で大きいか、または小さい事を意味します」。
(B) メタ解析の結果
合計8,621例のニンニク接種例と14,889のニンニク非摂取例(コントロール)のメタ解析の結果、ニンニクの摂取量と胃がんの発がんリスクに関連性が見られました。
上の<オッズ比と信頼区間のまとめ>を参考に、メタ解析の結果をゆっくり見ていきましょう。
1) ニンニクの摂取量が多い上位1/4の群は、最も胃がんの発症リスクが低く、
オッズ比は0.49で95%信頼区間:0.38-0.62 でした。
2) ニンニクの摂取量が最も低い下位1/4の群のオッズ比は、0.75で、95%信頼区間:0.58-0.97 が得られ、ニンニク摂取量が少なくても胃がんの発がん率を下げていました。
3) ニンニク摂取量の多い群と少ない群の2つを比較した場合では、統計的に差は見られず、あくまでもニンニク非摂取群との比較でのみ、胃がんの発症リスクを下げていることが判明しました。
4) ニンニク摂取群全体と非摂取群全体との比較でも、胃がんの発症リスクの低下が認められ、オッズ比は、 0.77で、95%の信頼区間:0.60-1.00 が得られました。
5) これらの結果から、ニンニクの摂取量は、胃癌の発がんリスクを減らしていると考えられます。
<私見>
上にご紹介した「胃がん発症リスクに及ぼすニンニクの効果について」の統計解析のご理解は、いかがでしたでしょうか。
ゆっくりとお読み頂ければ、難しくはないはずです。
すこしでもご理解頂ければ幸いです。
結果的に、「ニンニクの摂取量は、胃癌の発がんリスクを減らしている。」と言えそうです。