切除不能癌の治療法2015 (3)ガン組織内に酸素を増やす方法
切除不能癌の治療法2015 (3)ガン組織内に酸素を増やす方法
前回の「(2)放射線治療の問題点」では、放射線によるガン治療の問題点の概要をご説明させて頂きました。
今回は、前回示した放射線によるガン治療の問題点を、下に示した研究者達がどのようにしてガン治療の問題点を克服しようとしたのかについての概要をご紹介させて頂きます。
タイトル:Phase I study of a new radiosensitizer containing hydrogen peroxide and sodium hyaluronate for topical tumor injection:a new enzyme-targeting radiosensitization treatment, Kochi Oxydol-Radiation Therapy for Unresectable Carcinomas, Type II (KORTUC II).
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訳:「局所腫瘍注射に関する過酸化水素とヒアルロン酸ナトリウムを含む新しい放射線増感剤を使った第一相臨床研究:
新しい酵素標的放射線増感治療、切除不能細胞癌に対する高知医大オキシドール-照射療法、Type II(KORTUC II )]。
公表雑誌:Int J Oncol. 2009 Mar;34(3):609-18.
研究者:Ogawa Y1, Kubota K, Ue H, Kataoka Y, Tadokoro M, 他。
研究機関:Department of Diagnostic Radiology and Radiation Oncology, Medical School, Kochi University (高知大学医学部 放射線腫瘍学、診断放射線学研究室)
(A) 酵素標的・増感放射線療法
ガン組織は大きくなるに従い、ガン組織内部ほど多くの抗酸化酵素であるペルオキシダーゼやカタラーゼを多く産生し、低酸素状態をの環境を作ることでガン細胞自体が生き延びようとします。
従って、ガン組織の内部ほど酸欠状態となっています。
そのため、リニアックのエックス線や電子線による治療効果は、大きく低下します。
そこで放射線治療の効果をより有効に発揮させるには、ガン組織内に酸素を供給すると共に抗酸化酵素を不活性化させることが必要となります。
「抗酸化酵素を不活性かさせると同時に酸素を発生させる薬剤」について、上に示した研究報告の著者らが見つけ出したのが「過酸化水素」です。
この約3%水溶液は皮膚の殺菌剤として使われている「オキシドール」です。
すなわち、この「酵素標的・増感放射線療法」ではオキシドールをベースとした放射線増感剤を使いました。
そこで進行した皮膚ガン表面に露出した病巣に、放射線治療のたびごとに幹部をオキシドールを浸したガーゼで覆って治療を行いました(KORTUC II) )。
(B) 酵素標的・増感放射線療法タイプIIとは
酵素標的・増感放射線療法タイプII(KORTUC II :切除不能細胞癌に対する高知医大オキシドール照射療法II )とはどの様な治療法であるかをご説明します。
皮膚表面に病巣が露出したガンに対して、皮膚病層の患部にオキシドールを浸したガーゼで被ってから放射線治療を行いました。
他方、表面に露出していないガンに対しては、オキシドールを注射すると急速に酸素が発生し痛みを生じるため、ヒアルロン酸を混ぜることにより穏やかに酸素を発生させることで、痛みを軽くする事が可能となりました。
週に1~2回の割合で、超音波検査で観察しながらガンの患部に薬剤を注入します。
現在、治療の対象となるガンは、皮膚や骨・軟部組織の進行がん、高齢者の乳がんや手術を希望されない乳がんの方に行っており、良好な治療効果をあげています。
次回、この方法を用いた治療成果について書かれた報告をご紹介します。