医者を青くするもの (36)ローズマリー7
医者を青くするもの (36)ローズマリー7 -カルノシン酸の空間記憶に及ぼす効果は?-
前回までの報告とは異なる研究報告を紹介します。
下の報告は、アルツハイマー型認知症モデルラットで空間記憶に及ぼすローズマリーに含まれるカルノシン酸の効果を調べた実験です。
タイトル:The effect of rosemary extract on spatial memory, learning and antioxidant enzymes activities in the hippocampus of middle-aged rats.
訳:「中年ラットの海馬における空間記憶、学習および抗酸化酵素活性に及ぼすローズマリー抽出物の効果」
研究者:Rasoolijazi H, Mehdizadeh M, Soleimani M.
研究機関:Assistant Professor of Anatomy, Department of Anatomy, School of Medicine, Iran University of Medical Sciences, Tehran, Iran. 他。
公表雑誌:Med J Islam Repub Iran. 2015 Mar 9;29:187. eCollection 2015.
なお、この論文で示されている中年ラットとは、9ヶ月齢のラットです。
(A) 背景
ローズマリーのエキスは、様々な抗酸化活性、細胞保護作用及び認知障害改善活性を有していると考えられます。
その理由は、これまでに述べた
「(30)ローズマリー1 及び (31)ローズマリー2 」で、「実験的アルツハイマー型認知症モデルラットにおけるカルノシン酸の神経保護作用」について顕微鏡観察で明らかにし、
さらに「(32)ローズマリー3、 (33)ローズマリー4、及び(34)ローズマリー5」で、「アミロイドβを注入したアルツハイマー型認知症のモデルラットにおけるカルノシン酸の保護的役割」の証明をご紹介してきました。
しかしながら、カルノシン酸を投与されたアルツハイマー型認知症モデルラットで、実際に記憶が改善しているのかどうかは明らかではありません。
そこで本研究の主な目的は、中年ラットにおける記憶及び海馬の抗酸化状態を改善するためのローズマリー・エキスの空間学習能力の評価をモリス水迷路試験により検討した。
特にカルノシン酸には記憶力を改善する作用、神経細胞の保護作用も報告されており、軽度のアルツハイマー型認知症患者における症状改善の可能性が示唆されているからです。
(B) 方法 ・・・・・アルツハイマー型モデルラットのグループ分け
中年のラットは一群8匹として、次の4群に分けた。
1) ローズマリー抽出物(50 mg/ kg)を12週間経口投与。
2) ローズマリー抽出物(100 mg/ kg)を12週間経口投与。
3) ローズマリー抽出物(200 mg/ kg)を12週間経口投与。
4) 対象群は、ローズマリー・エキスを溶解した水を12週間経口投与した。
(C) モリスの迷水路試験で何がわかる?
1) 下の図のような、直径 210 ㎝ の円形のプールで一箇所だけ浅くなっています。ここでラットを泳がせます。水槽の高さは50㎝で、水の高さは25㎝です。プールの一箇所だけは浅瀬になっており、その前に目印があります。
2) 始め、ラットはデタラメに泳ぎますが、浅いところ(プラットホーム)に到達するとそこで泳ぎを止めることができます。
3) しかし、水は不透明になっており、どこに浅瀬があるのかは周りの景色から判断しなければなりません。これを迷水路と言います。
4) 同じテストを何度も繰り返すと、ラットは回りの景色から浅瀬の位置を覚え、浅瀬に到達する時間がだんだん短くなります。
5) 実験的に海馬を破壊されたラットは、同様のテストを繰り返しても浅瀬の位置を覚えることはできません。
6) この実験から、海馬は「空間における自分の位置」の学習(空間学習)に関与していると考えられています。
(D) 評価方法 ・・・・学習及び空間記憶の評価するためのモリス水迷路試験
ローズマリー・エキスを12週間経口投与した後、5日間連続してモリス迷水路試験のために5回の試行を毎日行って学習させました。
そして空間学習の記憶の評価は、5日間の学習後の翌6日目に行ないました。
ビデオカメラでラットの水泳経路と水泳距離及び水泳速度も記録しました。
(D) 結果
<グラフの説明>
上のグラフの縦軸は、モリス迷水路に60秒間置かれたラットが、目標の浅瀬(1/4区画)の区画に滞在した時間を示しています。必ずしも浅瀬(プラットフォーム)に乗ったかどうかではなく、円形プールの浅瀬がある1/4の区画にいた時間を調べています。
1) 横軸左端のNormal の棒グラフは、実験的にアルツハイマー型認知症を誘導するため、海馬に相当する部位にアミロイドβを注入したラットに、ローズマリー投与の対象として水を12週間投与されたラットが目標の浅瀬の区画に滞在した時間を表しており、約17秒であった事を示しています。
2) 左から2番目の棒グラフは、ローズマリー・エキス50mg/kgを12週間投与されラットの浅瀬区画における滞在時間が、約21秒であった事が示されています。
3) 左から3番目の棒グラフは、ローズマリー・エキス 100 mg/kgを12週間投与されラットの浅瀬区画の滞在時間が、約23秒であった事を示しています。
棒グラフの上の*マークは、対照群(Normal)に比べて統計的に有意差(ローズマリーエキス投与の効果)があったことを示しています。
4) 右端の棒グラフは、ローズマリー・エキス 200mg/kgを12週間投与されラットの浅瀬区画の滞在時間が、約18秒とわずかに低下していた事を示しています。
このグループでは対照群との間に統計的な有意差はありません。
<結果の解釈>
上の結果から、対照群(Normal)に比べて、ローズマリー・エキス 100 mg/Kg の経口投与群では、目標の浅瀬区画で過ごす時間が明らかに長かったことが統計的に証明されています。
この結果から、ローズマリーに含まれるカルノシン酸は、空間認識における記憶の改善に有効性を示す可能性を期待でると考えられます。
<私見>
上の実験で有効性が示されたローズマリー・エキス100mg/Kgは、ヒトの体重に換算しますと、
体重1Kgで、0.1グラム(100mg)ですから、
体重10Kgで、1グラム。
体重50Kgで、5グラムに相当しそうです。
但し、ローズマリー・エキス200mg/Kg投与されたラットでは、Normalのラットとの間に差が認められず、その効果はやや微妙な印象を否めませんが、わずかであっても認知症改善の可能性を示唆する結果と考えられます。