認知症と生活習慣の関係 (6)認知症に関連する栄養素
認知症と生活習慣病の関係 (6)認知症に関連する栄養素
下記の調査研究は、福岡県久山町で50年以上にわたり継続中の生活習慣病の疫学調査(久山町研 究)の成績から、地域高齢住民における 認知症有病率の時代的変化とその危険因子および 防御因子についての知見を明らかにしようと取り組んで研究です。
今回は下記の報告から「認知症に関連する栄養素の解析」についてご説明します。
タイトル:「地域高齢住民における認知症の疫学:久山町研究」
小原 知之、清原 裕、神庭 重信
九州大学大学大学院医学研究院精神病態医学
九州神経精神医学,第60巻,第2号,93-91.平成26年8月15日発行
「認知症に関連する栄養素の解析」を行った理由は、地中海式食事法のような分化の異なる他国のメニューの違いを議論しても意味がなく、その栄養成分の摂取割合を比較することで「より一般論として有効な認知症に関連する栄養成分」を明らかにする必要があると考えられるからです。
方法 -食事の栄養素と認知症の関連性を調査する-
<表3の食事パターンを栄養素別に分類し、認知症発症との関係を多変量解析した>
次に下に示した表3の食事の栄養素と摂取量を分類し、認知症発症に関連する栄養素を抽出する目的で縮小ランク解析法と言う多変量解析を行ないました。その結果、栄養素別に食事をQ1~Q4の食パターンに分類しました。
結果 認知症に関連する栄養素の解析法
<表3の食事パターンを栄養素別に分類し、認知症発症との関係を多変量解析した>
このように食事の栄養素と摂取量を分類し、認知症発症に関連する栄養素を抽出する目的で縮小ランク解析法と言う多変量解析を行ないました。その結果、栄養素別に食事パターンをQ1~Q4に分類しました。
<食事パターンの4分類について>
久山町の食事パターン(Q1〜Q4)の分類は、以下の報告に示されています。
「Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study(Am J Clin Nutr,97:1076‐1082,2013.)」の「表1.栄養素(応答変数)と食事パターンを抽出間のピアソンの相関係数」。
この報告の表1が示している通り、久山町の高齢者が摂取している19食品群の栄養素から、以下の脂肪酸3つとミネラル類4つ(ビタミンC、カリウム、カルシウム、マグネシウム)の合計7栄養素が「縮小ランク解析法と言う多変量解析」で認知症に関連する栄養素として抽出されました。
なお、このリンク先の表1には、食事パターン1~7まで分類されていますが、上のタイトルの報告の図4では、その中のQ1~Q4について認知症の相対的危険リスク(ハザード比)を比較しています。
結果 認知症に関連する脂肪酸3つとミネラル類4つにはどのようなものがあるか?
<認知症に関連する脂肪酸3つとは?>
1)二重結合のない脂肪酸:飽和脂肪酸(SFA)
これは動物性脂肪に多く含まれ、摂取が多いとコレステロールを上昇させ動脈硬化を促進します。乳製品や肉類に豊富です。
2)一つだけ二重結合がある脂肪酸:一価不飽和脂肪酸(MUFA)
この代表はオレイン酸で、オリーブオイル、 油脂、肉類に多く含まれます。
3)二つ以上二重結合がある脂肪酸:多価不飽和脂肪酸(PUFA)
リノール酸とリノレン酸で、青魚、豆製品、油揚げ、がんもどきに豊富です。
<認知症に関連するミネラル類4つとは?>
認知症に関連する4種類のミネラル類が豊富な食品は、こちらを参照して下さい。
ビタミンC(果物・野菜)、
カリウム(野菜・果物)、
カルシウム(乳製品、小魚)、
マグネシウム(大豆、魚介、海藻)。
<私見>
今回は、「縮小ランク解析法と言う多変量解析」を使って、久山町の高齢者が摂取する19食品群から認知症に関連する栄養素を抽出した結果をご紹介しました。
ここで「縮小ランク~・・・」と言う統計手法や「栄養素を抽出した」と言う表現そのものが解りにくいと思いますので、次のような例からおおざっぱにご説明します。
例えば、「野球でホームランを打つ能力と関連する要因(運動能力)は何か?」を様々なデータから調べようとします。
あくまでも例えですが、ここで言う「様々なデータ」とは、背筋力、握力、動体視力、俊敏性(反復横跳び回数)、連結能力、反応能力、リズム能力、他。・・・・これらが要因で、変数とも言います。
これらの要因の一つ一つの運動能力と野球選手のホームラン数とは、相関関係はありません。
しかしながら、動体視力と連結能力と反応能力の3つの要因が合わさると、ホームラン数との相関関係が高かったと仮定した場合、これら3つの運動能力が「抽出された要因である」と表現します。
また、このときの3つの要因は、「互いに相互作用がある」とも表現します。
このような変数あるいは要因を調べる多変量解析手法では、コンピュータプログラムで変数増加法、あるいは変数減少法、または変数増減法がすでにプログラムされていますので、いくつもの要因の中からホームラン数に関連する要因を取り出す(抽出する)事が自動的に計算できます。
・・・・元巨人軍の王貞治選手の動体視力は、駅のホームで通過する新幹線の車内にいる知り合いの姿が見えたと言う伝説?があると聞いたことがあります。
余談ですが、「動体視力向上Labo」と言うサイトで動体視力を試すことが出来ます。
と言うことで、「縮小ランク~」とか「抽出した」と言う統計用語を具体的に知らなくても良いのではないでしょうか。