認知症と生活習慣の関係 (10)認知症+脳梗塞
認知症と生活習慣の関係 (10)認知症+脳梗塞でホモシステインは上がるか?
前回の「(9)認知症に関係するホモシステインとは」では、ホモシステインについてご説明しました。
その理由は、牛乳・乳製品には、認知症発症との関連が指摘されている血漿ホモ システインを低下させる作用があるビタミン B12 やインスリン抵抗性を改善する作用のあるホエイ 蛋白だけでなく、認知症の発症リスクを低下させ るミネラル(カルシウムやマグネシウム)も含ま れている事を説明しました。
そこで今回は、ホモシステインと認知症に関連する研究報告の一つをご紹介します。
タイトル:Plasma homocysteine and risk of coexisting silent brain infarction in Alzheimer’s disease.
訳:「アルツハイマー型認知症において無症候性脳梗塞を共存するリスクと血漿ホモシステイン」
公表雑誌:Neurodegener Dis. 2005;2(6):299-304.
研究者:Matsui T, Nemoto M, Maruyama M, Yuzuriha T, Yao H, Tanji H、他。
研究機関:Department of Geriatric and Respiratory Medicine, Tohoku University Graduate School of Medicine, Sendai, Japan. 東北大学大学院、老年科と呼吸器内科。
はじめに
脳血管疾患は、アルツハイマー型認知症でしばしばみられます。
そしてこのような脳血管疾患を伴う認知症では、血漿ホモシステイン濃度が高いことが明らかにされています。
これらのことから認知症で血漿ホモシステインの値が高い場合、まだ症状の見られない脳梗塞(無症候性脳梗塞)のリスクとの関連性が指摘されています。
目的
そこでアルツハイマー型認知症と無症候性脳梗塞が合併している患者さんで、血漿ホモシステインが高いかどうかを測定することにしました。
<無症候性脳梗塞とは>
無症候性脳梗塞とは、CTやMRI検査を受けた際、脳梗塞の既往がない方に偶然に発見された脳梗塞を「無症候性脳梗塞」と言います。
その多く(約80%)は、高血圧が長く続いたために、脳の中を走る細い動脈が詰まることで起こるラクナ梗塞(穿通枝梗塞、穿通動脈梗塞)と呼ばれるタイプの脳梗塞です。
ラクナとは、「小さい窪み」という意味です。
そして、脳を走る血管には脳の表面を走る皮質動脈(皮質枝)と、表面(皮質枝)から脳に入って行く穿通動脈(穿通枝)があります(下図参照)。
従って、ラクナ梗塞とは、穿通動脈(穿通枝)の閉塞による梗塞で、 5-15mm程度の小梗塞を意味し、これが無症候性脳梗塞の原因とされています。

方法
外来患者さんのMRI検査による診断でアルツハイマー病(平均年齢73.3歳)と診断された143人を2つのグループに分けました。
結果
無症候性脳梗塞は、アルツハイマー病患者さんの32.9%(47人/143人)でMRI検査により確認されました。
アルツハイマー病 |
アルツハイマー病+無症候性脳梗塞 |
|
人数(%) |
96人(67.1%) |
47人(32.9%) |
ホモシステイン濃度 |
11.7 ± 4.7μmol/L |
14.0±4.5 μmol/L |
上の表に示した通り、アルツハイマー病+無症候性脳梗塞の患者さん47人の血漿ホモシステイン(14.0±4.5 μmol/L)は、アルツハイマー病患者さんの血漿ホモシステイン・レベル(11.7 ± 4.7μmol/L)に比べて統計的に高いことが示されました。
この結果は、高い血漿ホモシステイン濃度は、アルツハイマー病に無症候性脳梗塞が進展している危険性が高いことを示唆しています。
その理由は、「アルツハイマー病+無症候性脳梗塞」患者群の血漿ホモシステインのオッズ比(相対リスク) = 4.61、
血漿ホモシステインの 95% 信頼区間(CI) = 1.74−12.2 から、
統計的にオッズ比が「1」よりも大きく、その信頼区間が「1をまたいでいない」結果は、無症候性脳梗塞が合併するアルツハイマー型認知症では血漿ホモシステイン値が高いことが証明されたと判断されます。
なお、この解釈には、こちらで「オッズ比と信頼区間」について参照してください。
しかしながら、アルツハイマー病患者さんの脳脊髄液中のタウ蛋白あるいはアミロイドβと血漿ホモシステイン・レベルとの間に相関関係は認められませんでした。
結論
無症候性脳梗塞を合併するアルツハイマー病患者さんでは、血漿ホモシステインが重要な役割を果たしている可能性が指摘されます。
上の結果から、無症候性脳梗塞では、降圧薬よりもむしろホモシステインを低くする治療が、アルツハイマー病における脳梗塞の予防が期待される可能性が考えられます。