医者を青くするもの (95)イチジク5
医者を青くするもの (95)イチジク5
「イチジク3」では、下記の報告からイチジク樹液のエキス及びイチジク樹液に含まれるフロクマリンに対するパッチテストでは、いずれに対しても皮膚炎を起こすことはありませんでした。
また前回の「イチジク4」では、イチジク樹液及びフロクマリンに対する光パッチテストの結果についてご紹介させて頂き、0.001%の8-メチルソラレン<8-MOP>とイチジク樹液のエタノール抽出エキスに対する光パッチテストで、紫外線A(UVA)を照射し皮膚部位で皮膚炎が増強された事を示しました。
タイトル:Photoallergic contact dermatitis to 8-methoxypsoralen in Ficus carica.
訳:「イチジク中の8-メトキシソラレンに対する光アレルギー性接触性皮膚炎」
研究者:Bonamonte D, Foti C, Lionetti N, Rigano L, Angelini G.
研究機関:Section of Dermatology, Department of Internal Medicine, Immunology and Infectious Diseases, University of Bari, Italy.
公表雑誌:Contact Dermatitis. 2010 Jun;62(6):343-8.
従って、「イチジク4」の結果から、イチジクによる光接触性皮膚炎は、イチジクの樹液に含まれるフロクマリンによって誘導される事が確認されました。
今回は、光パッチテストで炎症を起こした部位の病理組織学的検討結果についてご説明します。
組織学的病理検査方法
4人の患者の生検試料は組織学的試験のために光パッチ・テスト反応後2日目に8-MOPに0.0001%に反応した皮膚組織を採取し、HE染色して顕微鏡で観察しました。
組織学的病理検査の結果
0.0001%の8-MOPに対して光パッチテストで接触性皮膚炎反応(++)を示した患者さんの皮膚を生検し、染色後、病理学的に組織像を顕微鏡下で観察しました。
その結果、表皮と血管周囲で、真皮中のリンパ組織球浸潤による海綿状態の組織像と
不全角化症及び好酸性壊死が観られ、角化細胞は観察されませんでした。
<病理学的用語の説明>
海綿状態とは:リンパ球の表皮内浸潤によって細胞間浮腫が生じた状態。
角化とは:表皮を構成する細胞の大部分である角化細胞(ケラチノサイトともいう)が生まれてから垢(角片)となってはがれ落ちるまでの課程を角化といいます。
不全角化とは:角化細胞は徐々に垢(角片)となってはがれ落ちますが、炎症によっては角化細胞の形成が急速に進むため、脱核が追いつかず、結果的に組織像で核が残っている状態を言います。また角化組織そのものも薄くなり、角化組織の形成が上手く行っていない(不全)状態を指します。
好酸性壊死とは:感染症部位、アレルギー局所に集まった好酸球は、貪食作用、殺菌作用を備えています。これは好酸球中の顆粒から特殊な蛋白を出して、アレルゲンを処理したり、好塩基球から出されたヒスタミンを分解(不活性化)してアレルギー反応を和らげる働きもあります。この好酸球機能が発揮されるよりも早く、周辺組織が壊死を起こすことで、好酸球も死んだ組織像を意味します。
<私見>
イチジクには高血圧予防、動脈硬化予防、脳梗塞予防、心筋梗塞予防、便秘改善作用がある事から、イチジクの葉はお茶として利用されてきました。
また、イチジク樹液に含まれるフィシンと言う蛋白分解酵素を利用したイボ取りなどの民間療法もありました。
しかし、上記タイトルで明らかにされた研究結果から、上に述べた高血圧や動脈硬化あるいは便秘に対する改善を期待してきましたが、光過敏症を誘発する事から、その使用には気をつけて頂きたいと思います。
加えて、下記左側のフラノクマリンの構造に似た右側のアフラトキシンB1は、アスペルギルス属のカビが産生するカビ毒として知られています。
アフラトキシンは、肝臓ガンを発症させることで極めて毒性が強いことが知られており、2007年2月6日、欧州医薬品庁 (EMEA)は、フラノクマリン類の安全性について評価しました。
その報告書の詳細は、別の機会に紹介させて頂ければと思います。
→ 上のリンク先情報でフラノクマリンに関する所は、「(補足)フラノクマリン構造を持つハーブ・アンゲリシンの評価」としてご紹介させて頂きます。