気圧と血圧 (10)エベレスト・ベースキャンプにおける降圧剤の効果1
気圧と血圧 (10)エベレスト・ベースキャンプにおける降圧剤の効果1
今回から「高度と血圧の関係」について、高度5400メートルのエベレストのベースキャンプまで出かけるという大がかりな研究をご紹介します。
タイトル:Changes in 24 h ambulatory blood pressure and effects of angiotensin II receptor blockade during acute and prolonged high-altitude exposure: a randomized clinical trial.
訳:「急性および長期の高高度の暴露で24時間血圧の変化とアンジオテンシンII受容体遮断の効果」
研究者:Parati G, Bilo G, Faini A, Bilo B, Revera M, 他。
研究機関:Department of Health Sciences, University of Milano-Bicocca, Milan, Italy. イタリアのミラノ・ビコッカ大学、健康科学研究室。
・・・・関係ありませんが、ミラノと言えば、サッカーで活躍している長友佑都(ゆうと)選手がイタリアのクラブチーム・インテルミラノのある町です。
Department of Cardiovascular Neural and Metabolic Sciences, S.Luca Hospital, Istituto Auxologico Italiano, IRCCS, Milan, Italy.
Department of Cardiovascular Neural and Metabolic Sciences, S.Luca Hospital, Istituto Auxologico Italiano, IRCCS, Milan, Italy.
公表雑誌:Eur Heart J. 2014 Nov 21;35(44):3113-22.
エベレスト
背景 -高高度環境下における身体の変化-
<高高度低酸素環境と血圧の調査研究データばらつく原因>
高度と血圧に関する多数の研究にも関わらず、それらのデータには矛盾が見られ、一定の評価に定まっているとは言い難いと判断されます。
その原因は、それらの研究の多くの問題点は、急激に高高度にさらされた状態で血圧測定を行っています。
従って、身体が高高度にどの程度順応できているのか不明です。
<高高度環境下で起こる様々な身体の変化>
例えば、急激に高高度にさらされることで、低酸素状態となるため、酸素で飽和されたヘモグロビンの割合は急激に低下し、酸素を補おうとして心拍数と呼吸数が上がります。
また、気圧は高度に応じて指数関数的に低下し、酸素分圧も高度に応じて指数関数的に低下し、身体が過呼吸をして順応が始まると、血液はアルカリ側に傾く呼吸性アルカローシスになります。
さらに高度になれば、頻脈となり、心臓から拍出される血液量は減少します(1回拍出量の減少)。
他方、身体機能は抑制されるため食物の消化効率は低下し、糖の分解量が減るため身体の乳酸産生は少なくなり、血漿の体積が減り、ヘマトクリット値や赤血球の質量が増え、、肺動脈圧力は増加します。
<血圧計や血圧測定の時間の問題>
加えて測定に使用される血圧計は、携帯式血圧計が使用されていること、測定環境の要因が考慮されていないこと、昼夜の特性にも触れられていないことなどがデータバラツキの原因として考えられます。
結果的に、低圧、低酸素環境におかれた被険者に対して、降圧剤の安全な使用、従来の血圧と携帯式血圧測定の違いなどについてはほとんど明らかではありません。
<高血圧の人は高高度でどうなるか?>
多数の人々が影響を受けるのは、一時的に高高度にさらされることで高血圧を示すとされていますが、まだ次の3点について明かではありません。
(i) 海面の高度から次第に高度が上がるときの通常の血圧計と携帯式血圧計の違い。
(ii) 高高度では気圧が低く、低酸素の厳しい条件下で降圧剤は有効かどうか?
(iii) 高高度で血圧が上がるとされていますが、その理由については必ずしも説明されていません。
これらを調べるために、この研究の参加者の一部には降圧剤として一般的に使用されているアンギオテンシン受容体遮断薬が投与され、偽薬群参加者の血圧と様々な高度で比較しました。
他方、低酸素環境下ではアンジオテンシン変換酵素活性が低下する事が指摘されています。
アンジオテンシン変換酵素活性が低下するとアンジオテンシン Ⅱが減少することから、血圧が下がりることが考えられます。
これらの情報から、高血圧の人が高高度で降圧剤が有効なのかについても解明されていません。
従って、これらの問題について、高高度心血管研究所のヒマラヤ・チームの調査結果をご紹介します。