医者を青くするもの (102)蓮7 -蓮の実1-
医者を青くするもの (102)蓮7 -蓮の実1-
今回から、蓮(ハス)の実(種)の効果に関する科学的な報告をご紹介します。
初めに紹介するのは、下記の報告から「蓮の実の日焼け防止効果」に関する研究です。
タイトル:Photoprotective Effect of Lotus (Nelumbo nucifera Gaertn.) Seed Tea against UVB Irradiation.
訳:「UVB照射に対する蓮の種の光防護効果」
研究者:Kim SY, Moon GS.
研究機関:Department of Food and Life Science, Inje University, Gyeongnam 50834, Korea. 韓国の仁済大学校食物化学と生命科学研究室。
公表雑誌:Prev Nutr Food Sci. 2015 Sep;20(3):162-8.
蓮(ハス)の種子の多くの機能の内、最も興味深い効果は、日光および日焼けに対する皮膚の保護作用効果です。
この研究では、紫外線B(UVB:波長315〜280nm)照射に対する蓮の実のお茶の皮膚保護作用に焦点を当てました。
背景
<紫外線について>
UV(紫外)線は、波長により、次の3つに分けられます。
UVA(長波長:320〜400 nm)、太陽光の内、5.6%が大気を通過する。
UVB(中波長:280〜320 nm)、太陽光の内、0.5%が大気を通過する。
UVC(短波長:200〜280 nm)。太陽光はオゾン層で遮られている地表には通常は到達しない。強い殺菌作用がある。
紫外線の波長が短いほどエネルギーが高く、皮膚損傷を起こしやすい事が知られています。
従って、環境破壊でオゾン層が損なわれると、短波長のUVCが地表に到達することで皮膚への影響は深刻になりつつあります。
<紫外線の皮膚への影響> ・・・順を追って解説します。
1) 大気中に存在する酸素は安定な構造分子ですが、紫外線のエネルギーを吸収して励起すると、安定な酸素が活性酸素に変えられます。
2) 他方、ヒト皮膚の脂腺に生息する 嫌気性菌であるニキビの原因菌( アクネ菌) は、
ポルフィリン類を産生し、皮脂の分泌と共に、皮膚表面に移行してきます。
3) このアクネ菌が紫外線の照射を受けると増殖し、ニキビを悪化させます。
このとき増殖したアクネ菌は、ポルフィリンの産生を増やしてしまいます。
4) 増えたアクネ菌が増産したポルフィリンに紫外線が照射されると、強い光増感物質として作用し、活性酸素を発生します。この活性酸素が皮脂を酸化して炎症を悪化させます。
5) 活性酸素の強い酸化力は、メラニン色素の生成を促しシミの原因にもなります。
その結果、ニキビの炎症が治まっても「ニキビ跡(ニキビ痕)」や色素沈着を起こしてしまいます。
6) また活性酸素は、皮膚の脂質や蛋白質の過酸化を促進し、リポフスチン(老人性色素班脂質)の原因となります。
7) 正常なヒトの皮膚がUV照射を受けた際の急性症状は、紅斑、浮腫、日焼け、色素沈着過剰などです。この時、角質層はその弾力性を失ない、肌荒れになり、しわを作る肌に変化し、角化細胞(ケラチノサイト)は厚く脱水状態となります。
<紫外線予防>
現在、紫外線による皮膚の損傷を防ぐには、日焼け止めや焼け止め成分の入った化粧品を使用することでしわを予防しています。
しかしながら、これらの方法の欠点は、使用される皮膚の部位に領域が制限されることであり、その効果は一時的であることです。
近年、食生活を通じて健康な肌を維持する紫外線に対する保護効果のある食品に焦点が当てられた研究が増えてきました。・・・例えば、緑茶、紅参(こうじん)、ヨモギ、ごま油などです。
紅参(こうじん)とは
高麗人蔘の種類の一つで、蒸すと人参の皮やヒゲの部分が赤くなることで「紅蔘」と呼ばれています。
<蓮(ハス)の利用>
ハスは、食用の根、種子、および葉を目的に栽培されています。
芽、花、果実、葉、茎、および根茎のような様々なハス植物の各部分は、癌、うつ病、下痢、心臓障害、高血圧症、および不眠症の治療のために漢方薬として使用されています。
それらは高い栄養価と多くの機能を持っていますが、ハスの種の効果の一つは、皮膚に対する保護効果です。
その根拠は、ハスの種を粉状にしてエタノール抽出された物質が、炎症やガンの治療効果を示し、その理由がDNAの酸化を阻害することで損傷を抑制していることが明らかにされたからです。
以来、ハスの種のエタノール抽出物は、UVB照射に対して皮膚の保護効果を持つことが明らかにされ、また抗シワ効果が注目されてきました。
これらの報告から、蓮が皮膚に有益であると考えられるようになり、蓮抽出物がシワのケアを目的とした化粧品開発が行われています。
今回紹介する報告は、ハスの種(実)から作ったお茶を機能性飲料とし飲用することで皮膚に対する保護効果が発揮されるかどうかを調査しました。
具体的な研究内容については、次回以降ご紹介させて頂きます。