医者を青くするもの (105)蓮10 -蓮の実4-
医者を青くするもの (105)蓮10 -蓮の実4-
前回までの続きで、下記の報告から「蓮の実の日焼け防止効果」に関する研究についてご紹介します。
タイトル:Photoprotective Effect of Lotus (Nelumbo nucifera Gaertn.) Seed Tea against UVB Irradiation.
訳:「UVB照射に対する蓮の種の光防護効果」
研究者:Kim SY, Moon GS.
研究機関:Department of Food and Life Science, Inje University, Gyeongnam 50834, Korea. 韓国の仁済大学校食物化学と生命科学研究室。
公表雑誌:Prev Nutr Food Sci. 2015 Sep;20(3):162-8.
基礎的事項 -皮膚の構造について-
皮膚の構造は、下の図のように、上(表面)から、表皮、真皮、皮下組織で構成されています。
この内、皮膚の上皮組織と言った場合、主に表皮を意味しています。
さらに、表皮は、上から、角質層、顆粒層、有棘層、基底層に区分されます。
方法 -上皮組織の厚さと角質層の厚さの測定-
無毛マウスに水又は蓮の種茶(LST)を毎日与え、週3回のUVB照射を行った6ケ月後、及びさらに2ヶ月間、UVBを照射した「水-UV群」及び「LST-UV群」の上皮組織の厚さ(図3)と角質層の厚さ(図4)を測定ししました。
結果1 -無毛マウスの上皮組織の厚さに及ぼす蓮の種茶の効果-
下の図3の縦軸は、上皮組織の厚さ(μm)を現しています。
横軸は、それぞれ次のマウス群を意味しています。
1) 実験群マウスには、飲料に蓮の種茶(LST群、lotus seed tea、蓮の実茶)を与えた、
2) 対照群マウスには、飲料として飲用水(水群)を与えました。
6ヶ月後、両群を5匹ずつのグループに分け、2ヶ月間次の飲料を与えました。
3) 水群は、UVB照射なしの水を与えた水群と紫外線(UVB)照射した水(水UV群)、
4) LST群は、蓮の実茶を与えたLST群と蓮の実茶に紫外線を照射したLST-UV群に分けました。
<結果の解釈>
上の図3から、次の事が解ります。
1) 上の図で左側2つの棒グラフは、8ケ月間、水又はハスの種茶(LST)を与えながら週3回のUVB照射を受けた無毛マウス表皮の上皮組織の厚さは、水群とLST群で差は無かった。
2) 上の図で右側2つの棒グラフは、6ケ月後から2ヶ月間、UVB照射した水-UV又はLST-UVを与えると、上皮組織はどちらの皮膚でも厚みを増した。しかしながら、水-UV群とLST-UV群では差が見られなかった。
結果2 -無毛マウスの角質層の厚さに及ぼす蓮の種茶の効果-
<結果の解釈>
下の図4の縦軸は、角質層の厚さ(μm)を現しています。横軸は図3と同様です。
下の図4の結果から、次の事がわかります。
1) 8ヶ月間、水又はLSTを与えながら週3回UVB照射した無毛マウスの角質層の厚さには差が無かった(下の図4の左側2つの棒グラフ)。
2) 6ケ月後から2ケ月間、UVB照射した水(水-UV)又はハスの種茶(LST-UV)を2ケ月間与えた無毛マウスの皮膚の角質層は、水群及びLST群よりも角質層の厚さが増していたことを示しています(下の図4の右側2つの棒グラフ)。
3) さらに、水-UV群とLST-UV群の角質層の厚さを比較すると、統計的にLST-UV群の角質層は水-UV群よりも薄かった。・・・・と結論付けています。
→上記二つのグラフの結果から、この報告を行った研究者は、ハスの種茶には、表皮の角質層の保水効果を有する物質が含まれている可能性を指摘しました。
さらにその保水効果を発揮する物質はUVBの照射によって、保水効果を失う事が示されました。
<私見>
これまでご説明してきた
(102)蓮7 -蓮の実1-
(103)蓮8 -蓮の実2- 及び
(104)蓮9 -蓮の実3- さらには、今回上に紹介した
(105)蓮10 -蓮の実4- の結果は、いずれも蓮の実茶が紫外線照射された皮膚の水分量を普通の水よりも効果的に保持できるという説得力のある結果ではないと判断されます。
残念な結果ですが、果たしてこの報告を読んだ人のどれくらいの人が、この研究者の結果の解釈にうなずけるのか疑問に思われます。
例え実験結果が期待した結果ではなかった場合でも、結果の解釈に関しては納得できる解釈をすべきであり、結果の解釈に「曲解」が折り込まれることは研究者としての「科学的冷静さ」が疑われないでしょうか。
その理由は、以下の2点が上げられます。
1) 著者も述べているように、蓮の実茶に含まれる保水物質は、紫外線によって保水効果を失うと述べています。
2) 加えて、図4の右側2つの棒グラフを比べると、LST-UVの方が明らかに角質層の厚みの変化よりも、より表面の図3の上皮組織の厚みは、水-UVと比較して変化がないからです。