医者を青くするもの (108)蓮13 -蓮の実7-
医者を青くするもの (108)蓮13 -蓮の実7-
蓮の実に含まれる抗酸化物質の効果の一つとして、認知症の症状改善効果に取り組んだ下記の研究報告をご紹介します。
タイトル:Cognitive Enhancing and Neuroprotective Effect of the Embryo of the Nelumbo nucifera Seed.
訳:「蓮(ハス)の種の肧成分による認知力向上と神経保護効果」
研究者:Kim ES1, Weon JB2, Yun BR2, Lee J2, Eom MR2, Oh KH、他。
研究機関:Biological and Genetic Resources Utilization Division, National Institute of Biological Resources, Hwangyeong-ro 42, Seo-gu, Incheon 404-708, Republic of Korea.
Department of Medical Biomaterials Engineering, College of Biomedical Science, Kangwon National University, Hyoja-2 Dong, Chuncheon 200-701, Republic of Korea.
公表雑誌:Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:869831.
<アルツハイマー病とアルツハイマー型認知症について>
アルツハイマー病は、以下の2つのタイプがあります。
(1) 家族性アルツハイマー病で完全な常染色体優性遺伝を示す遺伝性の認知障害。
(2) アルツハイマー型認知症でアルツハイマー病の中でほとんどを占め、老年期(60歳以上)に発症する認知症を指しています。
しかし、このサイトでは、両者についての厳密な区別は行いません。同義語として扱い、広義の認知症として使用します。
背景
アルツハイマー病(AD)は、記憶障害をもたらす神経変性疾患です。
その原因は、アミロイドβの沈着、神経原線維変化、および神経細胞死の3つを主な特徴としています。
蓮(ハス)は、アジアでは薬用植物として知られており、葉、花、種および根茎を含め、伝統的な薬用植物として使用されて来ました。
日本でも蓮の種の胚は、伝統的に発熱を軽減し、出血を止めるために使用されてきました。
その薬用成分は、ビスベンジルイソキノリン(下図左)、ベンジルイソアルカロイド、アポルフィン(数中央)、などが知られています。
主要なビスベンジルイソキノリンは、蓮の種の活性化合物です。
青色楕円構造は、イソキノリン構造(下図)です。
赤色楕円構造部分は、ベンジル基(下図)です。
上のビス-ベンジル-イソキノリンの構造には、イソキノリン構造とベンジル基がそれぞれ2つあることをビスと表現しますので、ベンジル-イソキノリンが2つあると言う意味で、「ビス」が前に付いています。
ついでにご紹介しますと、「ビスベンジルイソキノリン誘導体」の医薬品には、いくつもの薬効がすでに明らかにされており、厚労省により認可されています。
アポルフィン プロシアンジン カテキン
蓮(ハス)の各部分は、アルツハイマー病に関連した効果を示すことが報告されています。
例えば、たとえば、蓮の種は抗酸化力によりマウス胚線維芽細胞を細胞障害から保護します。
そして、蓮の種子はアセチルコリンエステラーゼ活性を阻害することによってスコポラミン誘導性認知症を改善します。
<スコポラミン> ・・・・商品名「ブスコパン」
胃や腸、膀胱などの筋肉の激しい運動や痙攣などに伴う痛みを抑える薬です。
ブスコパンは、胃や腸、膀胱の平滑筋の収縮やけいれんを抑えることで、胃酸の分泌を抑え、胃炎や下痢、胆管炎、胆石などによる腹痛を和らげ、尿路結石症や月経困難症にも有効です。
商品名であるブスコパンの名前の由来は、「臭化ブチルスコポラミンN-butylscopolamine」の下線部を組み合わせて、ブスコパンBuscopanと命名されたそうです。
化学構造は下の図の通り、Br-が臭素と言う元素です。
<スコポラミンによる認知障害の誘導>
スコポラミンは、脳内アセチルコリン系神経伝達を遮断して、 学習、記憶行動を含む認知機能に影響を及ぼします。
つまり、神経伝達物質としてのアセチルコリンの分泌量が不足すると、記憶力の低下や認知力の障害、感情の平坦化等を引き起こします。
アルツハイマー型痴呆では、脳内のアセチルコリンの低下が認められています。
従って、スコポラミンを投与することで、アセチルコリンの伝達を遮断して、アルツハイマー型認知症のような認知障害を誘導することが出来ます。
蓮による認知機能改善効果を調べた具体的な研究方法については次回ご説明させて頂きます。