医者を青くするもの (112)蓮17-蓮の実11-
医者を青くするもの (112)蓮17-蓮の実11-
以前の「「(109)蓮14 -蓮の実8-」では、下記の報告から蓮の胚エキスを投与した実験的認知機能障害マウスで学習能力障害や認知機能障害の改善効果を示した実験をご紹介しました。
また、前々回の「(110)蓮15 -蓮の実9-」では、「空間認識機能の改善効果」が見られた実験をご紹介しました。
さらに前回の「(111)蓮16-蓮の実10-」では、「学習と記憶調べる受動回避試験」により、「学習と記憶の改善効果」を調べた実験をご紹介しました。
これまでスコポラミン(商品名:ブスコパン)を投与されたマウスでは、脳内アセチルコリン系神経伝達を遮断して実験的に認知障害を誘導していましたが、蓮の胚エキスが上に示したような「学習障害の改善、記憶障害の改善及び空間認識機能の改善効果」があるなら、神経伝達物質アセチルコリンは遮断され、アセチルコリンエステラーゼにより分解されていると考えられます。
これらを整理しますと次の様に現せます。
アセチルコリン → アセチルコリン受容体に作用 ・・・神経伝達により記憶や学習が保持される。
アセチルコリン → アセチルコリンエステラーゼにより分解される ・・・・認知機能障害が発現
アセチルコリン → アリセプトがアセチルコリンエステラーゼを阻害する ・・・・認知症改善
アセチルコリン → スコポラミンがアセチルコリン受容体を遮断する ・・・・認知機能障害発現。
アセチルコリン → 蓮の胚エキスがスコポラミンを排除する? ・・・・認知機能改善?
そこで今回は、蓮の胚エキスの認知機能障害改善効果は、次のどちらか?または両方か?を調べた部分をご紹介します。
a) アセチルコリンエステラーゼを阻害して、認知機能を改善している? それとも
b) アセチルコリン受容体に結合したスコポラミンを排除しているか?
タイトル:Cognitive Enhancing and Neuroprotective Effect of the Embryo of the Nelumbo nucifera Seed.
訳:「蓮(ハス)の種の肧成分による認知力向上と神経保護効果」
研究者:Kim ES1, Weon JB2, Yun BR2, Lee J2, Eom MR2, Oh KH、他。
研究機関:Biological and Genetic Resources Utilization Division, National Institute of Biological Resources, Hwangyeong-ro 42, Seo-gu, Incheon 404-708, Republic of Korea.
Department of Medical Biomaterials Engineering, College of Biomedical Science, Kangwon National University, Hyoja-2 Dong, Chuncheon 200-701, Republic of Korea.
公表雑誌:Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:869831.
方法2 -スコポラミン誘導性認知障害マウス- ←前回の「(109)蓮14-蓮の実8-」で示した内容です。
3週齢の雄ICRマウスは、次の7群に分け、各群のマウスは7匹ずつとしました。
1) 対照群(生理食塩水処置群)、Control
2) スコポラミン(1ミリグラム/ kg、皮下投与)を単独投与群 ・・・・認知障害誘導群。
3) スコポラミン+ドネペジル(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、1ミリグラム/ kg)投与群
・・・・スコポラミンの認知障害をドネペジルが改善する認知改善群です。
4) スコポラミン+ハスの胚エキスを投与した群(3mg/Kg):以下、ハスの効果を見る群。
5) スコポラミン+ハスの胚エキスを投与した群(10mg/Kg)
6) スコポラミン+ハスの胚エキスを投与した群(30mg/Kg)
7) スコポラミン+ハスの胚エキスを投与した群(100mg/Kg)
方法4 脳におけるアセチルコリンエステラーゼ活性の測定
モリス迷水路試験及び受動回避試験後、各群のマウスは安楽死させ、脳の海馬を取り出してすりつぶし、アセチルコリンエステラーゼ活性を測定した。
結果4 アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性に対する蓮の胚エキス(ENS)の効果
<図4:マウス海馬のアセチルコリンエステラーゼ活性の測定結果>
下の図4は、受動回避試験3日目の結果を示しています。
縦軸は、アセチルコリンエステラーゼ活性を現しています。
この%は、上記<方法2の1)>の対象群のアセチルコリンエステラーゼ活性を100%として相対的に現しています。
左から2番目のVehicleは、上記<方法2の2)群>で、スコポラミン単独投与群で、認知障害を誘導しています。
左から3番目及び6番目まではハスの胚エキスを3~100mg/Kg投与された群です。
そして右端は、上記<方法2の3)群>で、スコポラミン+ドネペジルを投与された群で、スコポラミンの認知障害を改善した群です。
<図4:マウス海馬のアセチルコリンエステラーゼ活性の結果の解釈>
上のマウス脳海馬のアセチルコリンエステラーゼ活性の測定結果から、次の事が解ります。
1) 対象群(左端のマウス群)のアセチルコリンエステラーゼ活性を100%とすると、
左から2番目のスコポラミン誘導性認知障害マウス群では、170%もの活性が見られました。
スコポラミンは、下記のようにアセチルコリンの神経伝達を遮断して、アセチルコリンのレセプターを塞いでいますので、アセチルコリンが沢山存在しても、神経伝達が阻害されています。
しかしながら、アセチルコリンによる神経伝達を可能にしようとして、アセチルコリンエステラーゼ(活性)は増加しています。
<スコポラミンによる認知障害の誘導>
スコポラミンは、脳内アセチルコリン系神経伝達を遮断して、 学習、記憶行動を含む認知機能に影響を及ぼします。
つまり、神経伝達物質としてのアセチルコリン受容体に作用できず、神経の情報伝達が阻害され、記憶力の低下や認知機能障害、感情の平坦化等を引き起こします。
アルツハイマー型痴呆では、アセチルコリンを分泌する神経細胞をβアミロイドが死滅させ、結果的に脳内のアセチルコリンの低下が認められ、神経の情報伝達が出来なくなっています。
同様に、スコポラミンを投与することで、アセチルコリンの伝達を遮断して、アルツハイマー型認知症のような認知障害を誘導することが出来ます。
2) 右端のドネペジルは、抗認知症薬として知られており、下記の説明の通りアセチルコリンエステラーゼ活性を阻害しますので、スコポラミン単独投与群対(図4の左から2番目の棒グラフ)に比べてアセチルコリンエステラーゼ活性は抑制され、左端のコントロールに近いアセチルコリンが神経伝達に関わっていると考えられます。
<ドネペジル>
ドネペジルは、商品名アリセプトの一般名の抗認知症薬です。
このお薬は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼを阻害する作用があります。
結果的に、神経伝達物質であるアセチルコリンの神経伝達を高めることで記憶障害をはじめとする認知症の改善が期待されます。但し、アルツハイマー型認知症ではアセチルコリンが減少している状態ですので、神経伝達を促進するアセチルコリンが増えるわけではございません。
3) 左から3~6番目の棒グラフは、いずれも蓮の胚エキス3~30mg/Kg投与されたマウス群です。
上記のスコポラミン単独投与群(図4の左から2番目のグラフ)に比べて、3~10mg/Kgの蓮の胚エキスを投与された群では、アセチルコリンエステラーゼ活性が大きく阻害されています。
さらに、対象群のアセチルコリンエステラーゼ活性に近づくほど、スコポラミンのアセチルコリンレセプター阻害を改善したことがわかります。
→上記の結果から、スコポラミン誘導性認知障害マウスに蓮の胚エキスを投与して改善された学習及び記憶機能の改善の理由は、蓮の胚エキス成分が、アセチルコリンのレセプターを阻害したスコポラミンの作用を改善している事が示唆されます。
→言い換えるなら、アセチルコリンレセプターに対する結合力は、スコポラミンよりも蓮の胚エキス成分がより強い事が示唆されます。
まとめ ・・・蓮の胚エキスによる認知機能改善効果の機序について
上記では、「蓮の胚エキスが次のような作用で認知機能を改善しているのか?」を考えてきました。
a) アセチルコリンエステラーゼを阻害して、認知機能を改善している? それとも
b) アセチルコリン受容体に結合したスコポラミンを排除しているか?
その結果として、蓮の胚エキスのアセチルコリンエステラーゼ活性は、対象群とほとんど変わらないまでに、アセチルコリンがレセプターに作用し、スコポラミン誘導性認知機能障害が改善されたと考えられます。
従って、 a) のように蓮の胚エキスは、アセチルコリンエステラーゼ活性を阻害しているのはありません。
つまり b) の働きで、スコポラミンが作用(阻害)しているレセプターに作用し、アセチルコリンが神経細胞の受容体に作用できるように「駆けつけ警護(サポート)」していると考えられます。
アセチルコリン受容体を守っているのでしょう。