原爆による死者数 (4)先制不使用に対する日本の姿勢
原爆による死者数 (4)先制不使用に対する日本の姿勢
オバマ大統領の核兵器の先制不使用宣言
米紙ワシントン・ポスト(電子版、The Washington Post)は2016年7月10日、オバマ政権が残り半年の任期中、核兵器の先制不使用宣言を含む核政策の大幅な変更を検討している事を伝えた。
核兵器の先制不使用宣言とは
他国に核兵器で攻撃されない限り、核を先に使わないと約束するもので、核保有国では中国とインドが採用している。
安全保障政策上の核兵器の役割は大幅に縮小するものの、他の核保有国に対して核軍縮を促す効果も高いと評価されます。
日本政府の対応は、どうか?
朝日新聞の岸田記者の質問「オバマ政権が,米国が核兵器の先制不使用を検討していると報じています。日本の拡大抑止にも影響が出る話だと思うのですが,大臣は米国の先制不使用についてどのようにお考えでしょうか。」に対して、
岸田外務大臣臨時会見記録で、岸田外相は「米国としっかり意思疎通を図っていくべき課題であると思います。」と述べたことが公表されています。
・・・・この岸田外相の発言は、岸田氏個人の発言と言うよりは、外務大臣としての発言であることから、やはり日本は「核の傘の中にしっかり入って守られたい」との考えが滲み出ていると受け取れます。
・・・・つまり日米安全保障条約における日本の目的は、「核の傘に入ること」にあると言う意味でしょう。
→そして、当然のことながら、この発言の先には、「核兵器削減」や「核のない世界」に対しては消極的な態度であると読み取れます。
オバマ大統領のメッセージ
2009年4月5日、オバマ大統領はチェコのプラハでの演説で、「アメリカは、核兵器のない世界の平和と安全を追求する。」と世界に向けてメッセージを伝えた(プラハ演説の英語版は、ワシントンポストに掲載されています)。
少なくともオバマ大統領が「核兵器の先制不使用宣言」を出せば、他の核保有国も核兵器に頼る考えを一歩、立ち止まる姿勢を期待できる可能性はある。
いきなり、核兵器を廃絶するには、各国の置かれた立場や過去の利害対立の歴史から、簡単ではない。
しかしながら、今のままでは、核戦争の危険性は永遠になくせないことも事実だろう。
核兵器のない世界を目指して
アメリカ国務省は、2010年「核兵器のない世界」をまとめた。
このリンク先の26㌻の「米ロにおける核弾頭備蓄量の推移」を下に示します。
上のグラフから明らかなように、かつて米ロは、最高で7万発もの核兵器を保有していました。
しかしながら、、1991年12月のソビエト連邦共産党解散を受け、ソ連崩による東西連戦後、急速にその数を減らし、2015年時点で1.5万発にまで減らされてきました。
そしてオバマ氏は上記のプラハ演説後、「ゼロの理論(核兵器のない世界)」をまとめていた。
これらの経緯を経て、2016年5月27日、オバマ氏は広島訪問の際の演説で、「恐怖の論理にとらわれず、核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」と説いた。
核兵器のない世界を目指す理由は?
この姿勢は、かつてドイツのヒトラーがユダヤ人の大量虐殺を行った。しかし戦後、ドイツはその反省と戦争犯罪の補償に向き合ったように、アメリカの一部には、核兵器を使用したことに対する責任を「核兵器のない世界」を目指すことで核兵器使用の謝罪を示そうとしているようにも見えないだろうか。
被爆国としての姿勢
松井一実広島市長は2016年の平和宣言でこの部分を引用し、「信頼と対話による安全保障の仕組みづくりに、情熱を持って臨まなければならない」と訴え、日本政府に対して次のように述べた。
「勇気、情熱。それが最も求められているのが日本政府だろう。核の傘に頼らない安全保障をめざす意思を打ち出し、その目標に向け、米国と協議を進めていくべきだ。」
安倍首相は広島、長崎の平和式典に参列する一方で、平和に向けた害億努力よりも集団的自衛権の容認、安保法制と改憲をも勧めようとしています。
これら現日本政府の姿勢は、核廃絶に向かっておらず、岸田外相の発言も稲田防衛相の姿勢も「核使用の環境を手放す」方向には向いていない。
日本は、世界で唯一の被爆国として、「核兵器のない政界」を目指すのではなく、自ら核を保有あるいは使用できる国に変貌しようとしているのか。
いずれの立場をとるのか?
他の核兵器を持たない国から見れば、日本は期待外れと映るでしょう。
もし「核兵器のない世界」を目指し、松井一実広島市長の被爆者の視点に立つなら、国際社会における日本の役割と評価は大きく変わるのではないでしょうか。
日本は戦争には負けたものの、加害国としての過ちを「再び核兵器によってもたらさない」と断言できるようには見えません。