医者を青くするもの (133)ワサビ1
ワサビに含まれるツーンとする物質は?
日本ワサビ特有の鼻に「ツーンとくる」刺激成分は、「アリルからし油」と言われるもので、その化学物質は、アリルイソチオシアネート (Allyl isothiocyanate, AITC)と言われる下記の化学構造物です。

(1) アリル化合物とは、下記のような 2-プロペニル (2-propenyl) 構造を持つ化合物の総称で、上の構造では以下の部分です。
-CH2CH=CH2 ←アリル(2-プロペニル)構造
そしてこの部分の二重結合を構成する電子は移動しやすい性質があります。
(2) イソとは、直鎖状構造をノルマル(あるいはノーマル)と表現するのに対して、枝状に分岐している化合物をイソ(枝)と言いますが、ここでは慣用的な使い方に過ぎません。
(3) チオとは、イオウ原子(S)を意味し、
(4) (イソ)シアネートとは、シアン化物イオン (CN– の陰イオン)の酸塩、-O-C≡N(または、N≡C-O-) 構造を意味しますので、
(5) チオシアネートとは、チオシアン酸塩ですので、イオウ+シアン酸塩 と言う意味を持つ、SCN-構造を意味します。
チオシアネートは、SCN S=C=N-R(Rは、アルキル基、すなわちメチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基などの炭化水素た化合物群の総称)です。
ここでは、チオシアネートもイソチオシアネートも同じものを意味します。
従って、アリルイソチオシアネートは、
下記の左側からアリル+(イソ+)チオ+シアネートを意味します。
CH2=CH-CH2- + S + CNイオン → CH2=CH-CH2-N=C=S
(アリル基) (イオウ、チオ) (シアン、シアネート) (アリルチオシアネート)
今回から、ワサビの効果に関する研究報告をご紹介させて頂きます。
タイトル:Anti-obesity effects of hot water extract from Wasabi (Wasabia japonica Matsum.) leaves in mice fed high-fat diets.
訳:「高脂肪食を与えたマウスにおける日本ワサビの葉の熱水抽出物の抗肥満効果」
研究者:Yamasaki M1, Ogawa T, Wang L, Katsube T, Yamasaki Y, Sun X, Shiwaku K.
研究機関:Department of Environmental and Preventive Medicine, Shimane University School of Medicine, 89-1 Enya-cho, Izumo City, Shimane 693-8501, Japan. 環境及び予防医学研究室、島根大学医学部大学院
公表雑誌:Nutr Res Pract. 2013 Aug;7(4):267-72.
背景
糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病では、肥満の予防がこれらの発症リスクを軽減できると考えられています。
実際の所、肥満は主に中性脂肪の過剰蓄積により、脂肪組織と体重の増加をきたします。
そのため、肥満の予防研究は、細胞レベルでは細胞内脂質蓄積の抑制効果が調べられてきました。
例えば、茶カテキンやミョウガ成分がその効果を有することが明らかにされていますし、同様にフラボノイド類、キノコの抽出成分、果物、野菜、そしてハーブに含まれるポリフェノール化合物も注目を集めてきました。
他方、スパイスとして利用されてきた日本ワサビには、アリルイソチオシアネートと言う辛味成分に、抗菌活性や抗酸化作用、抗癌効果が明らかにされています。
過去の研究報告では、ワサビの熱水抽出成分が脂肪細胞の分化を阻害することにより肥満とインスリン抵抗性の予防に有効である事が指摘されています。
そこで今回、ワサビの葉エキスの抗肥満効果を検討することとしました。
抗肥満効果を調べるため、高脂肪食を与えたマウスにアリルイソチオシアネートなどの辛味成分が抗肥満作用をもたらすかどうかを検討しました。
この研究報告の具体的な内容については次回ご説明します。