栄養と寿命 (11)ベジタリアン食によるの骨の健康状態
栄養と寿命 (11)ベジタリアン食によるの骨の健康状態
ベジタリアン食によるの骨の健康状態
2009年にアメリカの栄養専門誌「Am J Clin Nutr, May 2009; 89: 1627S – 1633S.」に発表されたWinston J Craigの「HEALTH AND NUTRITIONAL STATUS OF VEGETARIANS:Health effects of vegan diets」と言う総説の続きに戻ります。
上記のタイトルは、「菜食主義者の健康と栄養状態:絶対菜食者の健康状態」です。この報告の中で紹介されている「ベジタリアン食による骨の健康状態」に関する箇所をご紹介しましょう。
骨密度の調査
骨の健康状態は、”栄養と寿命 (10)「骨の健康の基礎」を学びましょう」”で示したとおり、様々な元素やビタミン及びタンパク質が関係します。
ノンベジタリアンのような雑食の人とラクト・オボ・ベジタリアン食を摂取する人々の間で、骨の海綿質(髄質)と緻密質(皮質)の骨密度を調べた調査では、両者に違いは認められませんでした。
一方、女性ホルモンである「エストロゲン」は骨を保護し骨量を増やす作用がありますが、閉経により女性ホルモンの分泌低下に伴い、骨量も減少するとされています。
また、閉経後のアジア女性の骨密度に関する最近の調査報告では、脊柱と骨盤の骨密度は、ビーガン食を長期間摂取したヒト達の骨密度よりもかなり低いことが示されています。
骨密度に影響を与える食事
調査対象となったアジア女性は、宗教的な理由でベジタリアンとしての食生活を幼少期からおくって来ていることから、彼女らの食事は、タンパク質とカルシウムの摂取がきわめて低い食事であることが指摘されています。
タンパク質とカルシウムが不十分な食事が継続された場合、高齢になると腰や脊柱における骨折のしやすさと関係していることが明らかにされています。
ラクト・オボ・ベジタリアン食では、一般に十分量のカルシウムが摂取されていますが、ビーガン食では、一般にカルシウムの摂取量が毎日の必要量に達していない事が指摘されています。
この事からもビーガン食を継続することにより、将来における骨折の危険性が大きくなると考えられています。事実、ラクト・オボ・ベジタリアン食に比べてビーガン食を摂取し続けた人々の骨密度は明らかに低下していました。
ビーガン食にカルシウムを補うサプリメントを与えた
そこで、ビーガン食に不足しているカルシウムを補うため、サプリメントを摂取してもらいました。カルシウムの必要量を満たす525mgのカルシウムを毎日のビーガン食に取り入れた食事を摂取した人達の骨密度を調べたところ、ノンベジタリアンの骨密度との差が見られなくなった人もいましたが、依然として骨密度に改善が見られなかった人もいました。
骨密度に影響する栄養素
ビタミンDは腸管からカルシウムの吸収を促進するとともに、血中のカルシウムが低下した時には副甲状腺ホルモンと共同で骨からカルシウムの動員を促進し、血中のカルシウム濃度を高めて生体のカルシウムの恒常性を維持しています。
さらに血中のカルシウム濃度が上昇すると、カルシトニンというホルモンが分泌されて骨からカルシウムの溶出を抑えるように調節されています。
すなわち骨に貯蔵されているカルシウムやリン酸の調節は、単にカルシウムを補充するだけでなく副甲状腺ホルモンやビタミンD、K、B12の他、カリウム、マグネシウム、亜鉛、タンパク質や脂質など様々な栄養素がバランス良く摂取される必要性が示唆されました。
これらの研究報告から、ビーガン食による骨の健康の維持には、骨密度に影響する様々な栄養素の摂取が必要であることが指摘されています。
<私見>
ベジタリアン食を継続すると、早期に心血管疾患や脳血管疾患及び糖尿病・高血圧・高脂血症と言ったメタボ関連疾患には有効性が明らかにされています。
他方、長期的には骨密度の減少をきたし、骨折のリスクが高まる事が指摘されています。ビーガン食はある意味では、偏食ですので、適度に雑食と言うのが良いのかも知れません。ですが、この適度というのが難しそうです。
<用語説明>
副甲状腺ホルモン:副甲状腺にはパラトルモンとカルシトニンというホルモンが分泌されます。
パラトルモンの作用
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- 骨代謝を亢進させて骨のカルシウムとリン酸を血液中に出します。(骨で破骨細胞を活性化、骨芽細胞を抑制することにより、骨からカルシウムとリン酸が血中に供給されます。)
- 食事で摂取したビタミンDを活性型のビタミンDに変え、その結果、腸からのカルシウムの吸収を高めます。従って、血液中のカルシウム濃度が高くなります。
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カルシトニンの作用
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- 血中カルシウム濃度の上昇により分泌が促進され、骨からカルシウムが溶け出すのを抑えます。カルシウム濃度が低下すると分泌が抑制され、骨からカルシウムが動員されます。
- 骨へのカルシウムとリン酸の沈着を促進する。
- 尿中へのカルシウムとリン酸の排泄を促進する。
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