栄養と寿命 (12)ビーガン食で指摘されている栄養不足<1>
栄養と寿命 (12)ビーガン食で指摘されている栄養不足<1>
より健康的な生活を目的として、食事内容を改善している人々は少なくありません。それどころか多くの人が、より健康的な食事を心がけているのではないでしょうか。そのためにそれまでの奔放な過食を制限することは間違いではありません。
ところがその食事制限も行き過ぎると栄養学的な偏りを生じます。
中には、宗教的な背景もまれではありませんが、栄養学的な欠損に関しては宗教的な事とは別に考える必要が指摘されます。
そしてあまりに厳格に制限された食事を摂取し続ける場合には、よりいっそう栄養学的に適切な食事に改善していくための確かな知識を持つ事が望まれます。
以下は、ベジタリアン食で必要な栄養素と言われている成分についての指摘です。
ベジタリアン食で必要な栄養素
(a)n-3系多価不飽和脂肪 (n-3とは、先頭から三番目の炭素に二重結合を持つ脂肪酸。)
ドコサヘキサエン酸(DHA)は魚、卵、海藻に含まれている必須脂肪酸です。
このDHAは、ヒトの生体内では合成できないので、通常α-リノレン酸から生合成されます。
このような必須脂肪酸は、身体を構成する細胞の細胞膜やホルモンをつくる原料であり、そのため身体のほとんど全ての機能に関係していて、身体にとっては不可欠なものです。
食物から摂取しなければならない必須脂肪酸には、リノール酸・リノレン酸があります(用語説明を参照)。
これらは植物性油に豊富に含まれ、欠乏すると発育不全、皮膚の角化、脱毛、腎障害などを起こすことが知られています。
ビーガン食では、一般的にn-3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)が欠けていることが報告されています。
ノンベジタリアンやベジタリアンの食事は、ビーガンと比較すれば、比較的適切なEPAとDHAの血中濃度が保たれています。
従って、ビーガン食は、DHAを含むサプリメントやDHAを強化した食品からDHAを摂取することが推奨されています。
(b)ビタミンD
ビーガン食により摂取されるビタミンDは、0.88μ g /日で、雑食で摂取される量の四分の一程です。ビーガン食によるビタミンDの状態は、太陽の陽射しを浴びる事とビタミンD強化食品の摂取量の両方が必要であると指摘されています。
また、強化食品が手に入らない地域に住んでいる人は、ビタミンDのサプリメントを利用する必要があります。
ビーガン食を摂取する人々は、(他のベジタリアン食の人々には受け入れられる)ビタミンDのサプリメントを受け入れられていません。
その理由は、動物性食品や乳製品から得られるビタミンDであるからだとされています。その結果、ビーガン食に野菜類由来のビタミンDを摂取しようとしても、摂取できるビタミンDの量は実質的に極めて低い事が問題点として指摘されています。
また、日照時間の短いフィンランドでは、ビーガン食の低いビタミンD摂取量が、長期的に骨密度に影響がある事が示唆され、実際の調査でも背骨や腰部の骨密度は、雑食者やベジタリアン食よりも12%低かった事が報告されています。
用語説明
必須脂肪酸
生体内で他の脂肪酸から合成できないが、体成分の構成のため摂取する必要がある脂肪酸を言います。具体的には、n-6のリノール酸、n-3のαリノレン酸、の二つです。
リノール酸からはアラキドン酸、αリノレン酸からはDHAとEPAが作られます。
さらにアラキドン酸からプロスタグランジン、ロイコトリエンとリポキシンが、EPAからはプロスタグランジン、ロイコトリエンとレゾルビンが、DHAからはレゾルビンとプロテクチンが合成されます(それぞれの物質の作用については別の機会に説明したいと思います)。