医者を青くするもの (補足)フラノクマリン構造を持つハーブ・アンゲリシンの評価
医者を青くするもの (補足)フラノクマリン構造を持つハーブ・アンゲリシンの評価
「医者を青くするもの (95)イチジク5」で、イチジクに含まれるフラノクマリンの化学構造が肝臓ガンを発症させるアフラトキシンB1の基本骨格を構成していることから、発ガン性に対する指摘がなされています。
また、欧州医薬品庁はハーブとして使用されているアンゼリカと言う植物に含まれるフラノクマリンには、光毒性だけでなく発ガン性に対する懸念を確認するため、安全性の再評価を行ったことを示しました。
その報告は次の通りです。
タイトル:REFLECTION PAPER ON THE RISKS ASSOCIATED WITH FUROCOUMARINS CONTAINED IN PREPARATIONS OF ANGELICA ARCHANGELICA L.
訳:「アンゼリカに含まれるフラノクマリン関連物質のリスク評価報告」
評価組織:COMMITTEE ON HERBAL MEDICINAL PRODUCTS (HMPC)、ハーブ医薬品委員会
さて、上記の報告内容をご紹介させて頂く前に、必要な予備知識を整理しておきましょう。
アンゼリカとは
セイヨウトウキ(西洋当帰 Angelica archangelica)はセリ科の二年草で、別名をアンゼリカと言い、下図の植物です。
この植物(ゼンゼリカ、あるいはセイヨウトウキ)が産出する揮発性の油(精油、エッセンシャルオイル)が特有の芳香を持つことから、ハーブとして使用されています。
そして精油成分の一つに「アンゲリシン」と言う、下記のフラノクマリン構造が含まれています。
アンゲリシン
フラノクマリン
上の構造を比較して頂きますと、各構造中の左の五員環(フラン環)の結合位置が少し異なっているだけです。
従って、上のタイトルである「アンゼリカに含まれるフラノクマリン関連物質のリスク評価報告」とは、上の写真・アンゼリカに含まれるアンゲリシンと言うフラノクマリン類の安全性について評価を行った事を意味しています。
下に示した構造は、イチジク中に含まれるフラノクマリンで、光パッチテストで皮膚炎を起こす原因物質である5-メトキシソラレン(左下、5-MOP)と、8-メトキシソラレン(右下、8-MOP)の化学構造を示しています。
上記に示したタイトルのリンク先4ページにある「フラノクマリンの発ガン性」に焦点を絞ってご紹介します。
フラノクマリンの発ガン性
WHOの外部組織である国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)は、以下の結論を示しました。
1) 8-MOPは、紫外線放射によりヒトに発ガン性を示す。
2) 5-MOPの発ガン性については、ヒトでは充分な証拠は示されなかった。
3) ところが、マウスの皮膚に紫外線Aと太陽光を照射した実験では、 5- MOPで発ガン性が証明された。
4) その結果、5-MOPもヒトに対して発ガンの可能性が指摘された。
5) アンゲリシンとそのメチル誘導体に対して、紫外線Aを照射した動物実験では発ガン性については、限られた証拠しか得られなかった。
6) 加えて、アンゲリシンはヒトに対して、発ガン性を示さなかった。
7) 紫外線Aの照射で、8-MOPと5-MOPは、ヒト細胞の試験管内実験でも染色体異常や予定外のDNA合成を誘導した。
8) 他方、アンゲリシンの遺伝子毒性は、他の二つのメトキシソラレンよりも弱かった。
ヒトに対する毒性
1) 経口8-MOP投与に紫外線A(UVA)照射を行う乾癬の治療で、UVAの用量と時間に依存して扁平上皮細胞皮膚ガンを引き起こします。
2) その発ガンの確率は、8~10年の追跡調査で、6~12倍であった。
これらの結果から、 フラノクマリンのヒトに対する遺伝子毒性による発ガンの危険性は、ハーブの準備中にフラノクマリンに暴露することで、ヒトに対する健康リスクを評価する必要がある。 ・・・つまりアンゲリシンのハーブ・エキス製造過程における暴露を調べる必要がある。
その一方で、野菜に含まれるフラノクマリンのリスクは、非常に少ないか取るに足らないという結論に達しました。
<私見>
同じフラノクマリンでも皮膚に接触した状態で紫外線にさらされれば、発ガン性のリスクにつながりますが、野菜に含まれているなら摂取後に紫外線にさらされることがないので、心配ないと言う事のようです。
ハーブとしてのアンゲリシンについては、通常のハーブとしての使用では問題ないものの、アンゼリカからハーブのエッセンシャルオイル製造過程での暴露の程度を評価する必要があるだろうという指摘です。
イチジクを食べたあとは、しっかりと口の周りを洗い、数日間、マスクを着用して紫外線を避けるほうが良さそうです。