ハチ毒アレルギー (1)スズメバチは一度ヒトを刺したら死ぬか?
ハチ毒アレルギー (1)スズメバチは一度ヒトを刺したら死ぬか?
子供達にとっては楽しい夏休み真っ盛りの頃です。
初夏から秋にかけ、子供達は夏休みをはさんで野山や農園に出かける家庭もあるかも知れません。群馬大学の調査報告 http://jja.jsaweb.jp/am/view.php?pubdate=20040330&dir=2004s&number=04s_es110000 によると、ハチ刺傷による年間死亡者数は、日本では30-40名と報告されています。
また、ハチに刺された既往があり、再刺傷を経験した場合にアナフィラキシーショックを引き起こす可能性は、約3-12%と報告されているそうです。
更に、ハチ毒アレルギー患者が再刺傷を経験した場合、約50-60%の患者は前回よりも症状が悪化することが報告されているようです。
そこで今回は、一般的なスズメバチについての理解を深めておきましょう。次にハチ毒アレルギーについて注意点をご説明したいと思います。
1)スズメバチは一度ヒトを刺したら死ぬか?
回答:死にません。
2)刺されたらアンモニアを塗るをよい?
回答:誤解です。オシッコをかけてもまったく効果はありません。
他にも渋柿の汁、アロエ汁、タマネギ汁、スズメバチ酒などを塗る方法が民間療法として言われていますが、いずれも効果は疑問です。
スズメバチの毒液はほとんど中性に近く,アンモニア(アルカリ性)で中和出来ません(尿自体も中性に近く、仮に中和するには刺傷組織内にアンモニアを浸透させなければなりませんが、出来ません)。
痛みをやわらげるには抗ヒスタミン剤の内服薬を処方していただきましょう。刺されたらすぐ口で毒を吸い出すのもいくらか効果がありますが、頭など皮膚の硬い箇所に刺された場合には、吸い出せません。
3)人が刺されて死ぬのはハチ毒成分のせいか?
回答:ハチ毒の成分によって死ぬのではありません。
スズメバチによる死亡原因はほとんどがアレルギー性のショックによるものです。ハチ毒アレルギー体質の人では、過去に刺されたときに体内にハチ毒に対する抗体が産生されています。そして、2度目に刺された事でハチ毒に過敏に反応して血圧低下や浮腫などのショック症状を起こします。
ハチ毒には溶血作用もありますが数カ所刺されたくらいの毒量では、痛みはあっても命に別状ありません。 ハチ毒の主な成分は、アミン類,低分子ペプチド,酵素類の3つの区分されます。詳しくは、http://www2u.biglobe.ne.jp/~vespa/vespa053.htm を参照して下さい。
4)二回以上刺されると危険か?
回答:危険度は上がります。
ここで二回と言うのは、一日に二回というのではなく、数ヶ月以上の間隔を開けて刺される場合の事です。すべてのヒトが、二回以上ハチに刺されるとハチ毒に対してアレルギー症状を引き起こすのではありません。
しかし、ハチに刺される経験が二回目以上の場合、もしハチに刺された部位以外にもじんましんが現れたり、腹痛、嘔吐、寒気、めまい、意識混濁または意識不明、呼吸困難などのいずれかが現れた場合には、アレルギー症状やショック症状の現れの可能性があります。
(一般的なワクチンの接種と同様に、二度、三度と接種を繰り返す事で、より免疫効果が上がります。同様にハチに刺されるたびにハチ毒に対する(IgE)抗体も上がっている危険性が考えられます。)
5)ハチ毒アレルギーが現れるまでの時間は?
回答:ハチ毒アレルギーショックで死亡する場合は、刺されてから1時間以内です。
蜂に刺されて間もなく、上記の4)で示した症状のいずれかが出始めたら直ちに病院へ行きましょう。その際、病院には30分以内に到着して下さい。なぜなら、多くのアナフィラキシーショックは15分以内に現れているからです。15分を過ぎて、ショック症状が広がってからでは、生命の危険性は次第に高くなります。
ショックが15分以内に現れ、1時間以内に亡くなるかも知れません。ショックが現れてからでは動けなくなる可能性もあります。ショックが現れる前に病院に向かいましょう。
6)ハチ刺傷による痛みに耐えられれば大丈夫か?
回答:とんでもありません。痛みとショック症状は別物です。
もしハチ刺傷による痛みに耐えられても、ショック症状はコントロールできません。 我慢していることでショック症状は、より危険な状態に進行していく危険性があります。そのまま軽いショックで治まれば幸運ですが、重いショック状態に陥るかも知れません。念のためと考えて、早めに受診して下さい。
7)登山やトレッキングの際にハチに刺されたら?
回答:救急処置の準備をしておきましょう。
下山していては間に合いません。下山中にショック症状が現れれば、身動きできなくなる危険性もあります。そこで必要なのが事前の準備です。次のものをご用意下さい。
- インセクトポイズンリムーバー(虫毒吸引器) http://www2u.biglobe.ne.jp/~vespa/remover.htm と言うものがあります。
- アドレナリン自己注射器「エピペン」の自己注射キット 保険適用外なので高価ですが、命には代えられません。2万円程をケチって命を落とす危険性を背負いながら山を登るかどうかは、あなた自身の判断です。 http://www.epipen.jp/download/2009_manual.pdf
- 他にも抗炎症作用のあるステロイドやヒスタミンの塗り薬も用意しておきましょう。詳しくは、かかりつけ医にご相談下さい。
8)刺されたハチの種類が異なれば大丈夫か?
回答:ハチの種類が異なっても安心できません。
一回目に刺されたハチと二回目に刺されたハチの種類が異なれば、ハチ毒成分も異なるため、アナフィラキシーショックを起こしにくいと考えられそうです。しかしながら、、刺されたハチの種類が異なってもハチ毒成分の中には共通成分も含まれています。初回のハチ刺傷で、どのようなハチ毒成分に対して抗体が産生されたかはわかりません。従って、刺されたハチの種類が異なっても、安心できません。
他にもご質問がございましたら、お寄せ下さい。