床ずれ (11)古田法遵守による褥瘡治療評価4
床ずれ (11)古田法遵守による褥瘡治療評価4
「(8)古田法遵守による褥瘡治療評価1」では、調査研究の方法についての説明だけで終わりましたので、今回は、早速その結果の一部をご紹介させて頂きます。
「(9)古田法遵守による褥瘡治療評価2」では、被険者に対してDESIGN-Rで褥瘡の深さによる4つのグループに分け、各グループについてさらに「古田法遵守・非遵守」による分類を行ったところまでご説明しました。
「(10)古田法遵守による褥瘡治療評価3」では、DESIGN-Rによる褥瘡評価の「深さ」による被険者の分類と古田法遵守・非遵守の分類結果について「絶対標準化差(%)」を指標として古田法遵守群と非遵守群の背景のバラツキを評価しました。
今回は、「絶対標準化差(%)」を10%以内と成るように古田法遵守群と非遵守群の被験者の背景を揃えることで古田法遵守の有効性を明らかにしようとする過程について、「傾向スコア・マッチング法」を利用していますので、この方法の概略についてご説明させて頂きます。
なお、統計手法についての解説は、報告全体の理解の上で「詳細な統計法の解説ではございませんので」小さく示しました。
タイトル:Active topical therapy by “Furuta method” for effective pressure ulcer treatment: a retrospective study
訳:「効果的な褥瘡治療のための「古田法」による局所療法:後ろ向き研究」
研究者:Katsunori Furuta, Fumihiro Mizokami, Hitoshi Sasaki, and Masato Yasuhara
研究機関:Department of Clinical Research and Development, National Center for Geriatrics and Gerontology, 7-430 Morioka-cho, Obu, Aichi 474-8511 Japan Department of Pharmacy, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Japan
公表雑誌:J Pharm Health Care Sci. 2015; 1: 21. Published online 2015 Jul 16. doi: 10.1186/s40780-015-0021-8
方法4 傾向スコア(プロペンシティスコアpropensity score 、PS)マッチング法を用いた解析方法 ・・・統計方法についてリンクしてます。
<「絶対標準化された差」とは> ・・・・「絶対値にかかわらず標準化された(平均値の)差」について
調査結果を一定条件で比較するために、比較するグループ間のパラメータ(要素、ここでは年齢や栄養状態、褥瘡の重症度、基礎疾患など)の差をなくすことで、治療効果のみを評価できます。
このグループ間のデータを選び出す手法を傾向スコア・マッチングと言い、
グループ間の差を評価する指標を「標準化された差」と言います。
また、「統計分野における標準化」とは、平均が0、分散が1となるようにデータを変換することを意味しています。これを正規化、あるいは基準化とも言います。
<古田法遵守と非順守の平均値に関する「標準化された差」>
この調査研究では、「古田法遵守群」と「非遵守群」の患者さんの背景が様々な要因によって異なる事から、
2群に分けた際に影響する因子を計算する方法(傾向スコア)として、ほぼ同じ傾向スコア得点の患者同士を比較することで、被験者の異なる背景を排除しようとする方法を使っています。
今回の調査研究で調整した傾向スコアの要因には、年齢、性別、ヘモグロビン、アルブミン、ベースライン時のDESIGN-Rスコア、および観察期間などの患者特性を検証した結果が、前回示した表1です。
しかし、表1の赤字で示した部分の「絶対標準化された差」は、10%を越えており、群間の差が大きいため、「古田法遵守群」の有効性を充分に評価できません。
そこで、傾向スコアマッチングを行った結果が下の表2です。
結果4 傾向スコアマッチングによる古田法遵守群と非遵守群の特性の差
前回示した表1では、何カ所かに10%を越える「絶対標準化された差」が見られていましたが、「傾向スコア・マッチング」処理後の上の表2では、10%を越える「絶対標準化された差」は認められません。
・・・つまり、古田法遵守群と非順守群の間の差をなくすことが出来ました。
・・・上の表2で各グループの絶対標準化差を見ますと、10%を超えていません。
<傾向スコアとは>
年齢、性別、BMI、喫煙の有無、労災有無など様々なパラメーターをスコア化して、同じスコアの患者同士をマッチングさせます。
これまでの年齢・性別によるマッチングよりも、より多くの因子を加味してマッチングさせることにより、群間のばらつきを無くすことができます。
ここでの調査研究では、「古田法遵守群」と「非遵守群」の間の年齢や栄養状態などの患者特性あるいは背景が異なることから、これら年齢や栄養状態などの要因の「傾向スコア propensity score 」を算出します。
その上で、同じ傾向スコアの得点の患者同士を比較することで、「遵守群」と「非遵守群」のデータを比較・解析することで「古田法遵守群」による治療効果が「非遵守」の被険者と異なるかどうかを評価しようとしています。
この時、「遵守群」と「非遵守群」の間で似たような特性の患者さんのペアとして選び出すことを「傾向スコアマッチング」と言います。
この傾向スコアマッチング処理の結果、上に示した表2のd2,D3、D4と5、DUの各群における絶対標準化差は、10%を超える特性は見られないことが解ります。
関連情報:ロジスティック解析と傾向スコア解析 天理医学紀要2016 19(2)71-79 大林 準
<傾向スコアとマッチングの目的について>
上記の例では、「古田法遵守による治療効果」と「非遵守による効果」を比較する際、年齢や性別、栄養状態などで差が大きければ、正味の「古田法の有効性」評価の精度が下がります。
そこで、同時にいくつもの共変量である年齢や性別割合及び栄養状態を揃えられないので、まず年齢で差が少なくなるようにマッチングしていきます。
そして次に性別割合のマッチング、栄養状態のマッチングというように順番に影響を除去していきます。
当然、被険者数は共変量(要因)の数が増えるほど低下しますが、「遵守群」と「非遵守群」の背景の違いを除去できるため、「古田法遵守の効果」をより高い精度で評価できるようになります。
これを傾向スコア (Propensity score) を利用した共変量調整法と言い、マッチング法を使って被険者のペアを選び出し、「絶対標準化された差」が10%以下になるように評価対象を選ぶ方法です。
計算法に関する論理的な解説は、別の機会に必要があればご説明させて頂きたいと思います。
ここでは、傾向スコアマッチング法により、「古田法遵守群の治療効果に関する評価精度」を上げることが目的で行われた処理である事をご理解頂ければ良いかと考えます。
その結果、絶対標準誤差は、どの項目も10%以内に治まっています。
次回は、古田法遵守群と非遵守群の治療効果の違いについて検討した結果をご説明させて頂きます。