腹囲から内臓脂肪を予測できるか? (6)年齢階層ごとに内臓脂肪面積と腹囲の関係はズレる
腹囲から内臓脂肪を予測できるか? (6)年齢階層ごとに内臓脂肪面積と腹囲の関係はズレる
「(4)「内臓脂肪面積+皮下脂肪面積」と腹囲の相関」では、男女ともに腹囲と「内臓脂肪面積+皮下脂肪面積」の相関係数が高いことをご紹介しました。
そして前回の「(5)腹囲で計測している組織には」では、臍(ヘソ)の水平位で計測した腹囲には、骨も含まれている問題を指摘しました。
今回は、内臓脂肪や皮下脂肪だけでなく、CTで得られる他の生体組織を加え、それらと腹囲の相関を年齢階層別に調べた結果についてご説明します。
タイトル:How can waist circumference predict the body composition?
訳:「腹囲から体組成を予測できるか?」
研究者:Yumi Matsushita, Toru Nakagawa, Michihiro Shinohara、他。
研究機関:Department of Clinical Research, National Center for Global Health and Medicine, 1-21-1 Toyama, Shinjuku-ku, Tokyo 162-8655, Japan
Hitachi, Ltd. Hitachi Health Care Center, 4-3-16, Ose-cho, Hitachi-shi, Ibaraki-ken 317-0076, Japan
公表雑誌:Diabetol Metab Syndr. 2014; 6-11.
結果4 内臓脂肪面積の年齢階層別変化
下の図2の縦軸は腹囲を示しており、横軸は年齢階層別を示しています。
そして、左下が男性、右下が女性です。
さらに、下のグラフの更に下に、内臓脂肪面積が100㎠の人を黄緑色で示し、赤色が90㎠、水色が80㎠を示しています。
従って、下のグラフは年齢階層別に内臓脂肪面積(80、90、100㎠)の変化と腹囲の変化を示しています。
左下の男性のグラフから解ることは、次の通りです。
1) 左下の男性の折れ線グラフでは、年齢階層が上がるに従い、内臓脂肪面積が80~100㎠ と同じであっても腹囲が低下傾向を示していることが解ります。
2) すなわち、年齢が上がると黄緑色の折れ線グラフが示すように、内臓脂肪面積が100㎠ でも腹囲は低下していることを示しています。
3) 現在の特定健診で基準とされている「男性の腹囲85㎝」は、39歳以下では内臓脂肪面積が100㎠ を越えていますが、40歳以上の男性の年齢階層では、腹囲が 85㎠ 以下でも内臓脂肪面積は100㎠ を越えていることが解ります。
4) すなわち、39歳以下の男性の内臓脂肪面積100㎠ は、腹囲85㎝に相当しますが、60歳以上では82㎝であった事が読み取れます。
この結果から、60歳以上の高齢者の内臓脂肪面積100㎠ は、腹囲82㎝に相当しますので、3㎝の差があると考えられます。
右下の女性のグラフでは、次の事が解ります。
1) 右下の黄緑色の折れ線グラフは、腹囲が90㎝ 以下でも内臓脂肪面積100㎠ を越えていることが解ります。
2) 年齢階層が上がると共に、腹囲が下がっても内臓脂肪面積は100㎠ を越える人がより多く含まれることが解ります。
3) すなわち、39歳以下の女性で内臓脂肪面積が100㎠ の腹囲は90㎝に相当しますが、70歳以上では85㎝ と5㎝も差があることが解ります。
<内臓脂肪面積の年齢階層別変化のまとめ>
現在の特定健診でメタボリック症候群の基準とされる男性の腹囲85㎝ と女性の腹囲90㎝ は、内臓脂肪面積が100㎠ を越えるだろうと言う仮定の下で腹囲85㎝と100㎝を判定の基準としています。
しかしながら左上のグラフから、40歳以上の男性の場合、腹囲がメタボリック症候群の判定基準以下の84㎝ でも内臓脂肪面積は100㎠ で、年齢階層が上がるに従い、腹囲がより低下しても内臓脂肪面積は100㎠ を越える確率が上がることを示しています。
また、40歳以上の女性の場合、腹囲がメタボリック症候群の判定基準以下の89㎝ でも内臓脂肪面積は100㎠ を越えており、年齢階層の増加に伴い基準以下の腹囲で内臓脂肪面積が100㎠ を越える事が明らかにされました。
上に述べた紫色で示した結果から、男女とも高齢化に伴い内臓脂肪面積100㎠ の腹囲の基準は年齢階層ごとに分ける必要があると考えられます。
結果5 皮下脂肪面積と年齢階層による内臓脂肪面積の変化
下のグラフの縦軸は皮下脂肪面積を示し、横軸は年齢階層を現しています。
折れ線グラフの黄緑色は内臓脂肪面積が100㎠ 、赤色が90㎠ 、青色が80㎠ を現しています。
そして左下のグラフは男性の変化を、右下のグラフは女性の変化を示しています。
左下の男性のグラフから解ることは、次の通りです。
1) 年齢階層の増加に伴い皮下脂肪面積は60歳頃まで低下するが、その後、皮下脂肪面積の変化はありません。
2) 黄緑色の折れ線グラフが示す内蔵脂肪面積が100㎠ の男性の皮下脂肪面積は、年齢階層の増加に伴い低下しています。
右上の女性のグラフから解ることは、次の通りです。
1) 年齢階層の増加に伴い皮下脂肪面積は60歳頃まで低下し、その後も徐々に皮下脂肪面積が減少傾向を示していました。
2) いずれの色の折れ線グラフ(内臓脂肪面積)も、年齢の増加に伴い減少しますが、皮下脂肪面積は(左側グラフの)男性に比べて多いことが解ります。
<まとめ>
これまでの結果を整理すると次の事が明らかにされたと考えられます。
1) 男性では年齢階層の増加に伴い皮下脂肪面積の低下と内臓脂肪面積の増加により、結果的に「内臓脂肪面積+皮下脂肪面積」は腹囲と良い相関が示された。
2) 女性では、年齢階層の増加に伴い、皮下脂肪面積と内臓脂肪面積が並行して増加し、結果的に「内臓脂肪面積+皮下脂肪面積」は腹囲と良い相関が示された。
3) しかしながら、これらの結果は従来の「内臓脂肪面積の代替えとしての腹囲の利用」では、内臓脂肪面積を反映していないことは明らかであると指摘されます。
4) 従って、メタボリック症候群の判定にあたり、年齢階層ごとの腹囲の基準を設定することで「腹囲から内臓脂肪面積をある程度反映されることが期待される」かも知れません。
いずれにしても腹囲の測定において、臍(ヘソ)の水平位での計測は、骨を含んでいる点については、疑問を禁じえません。