毛虫による皮膚炎 (6)ヒトリガ毛虫の体液分析
毛虫による皮膚炎 (6)ヒトリガ毛虫の体液分析
前回の「(5)ヒトリガの顕微鏡観察」では、まだヒトリガの形態的特徴を示したに過ぎません。
今回から、いよいよヒトリガが有する炎症性物質についての結果をお示しできます。
タイトル:Population Explosions of Tiger Moth Lead to Lepidopterism Mimicking Infectious Fever Outbreaks
訳:「ヒトリガ(タイガー・モス)の大量発生は、感染性発熱の大流行を招く」
研究者:Pallara Janardhanan Wills, Mohan Anjana, Mohan Nitin, Raghuveeran Varun,他。
研究機関:MIMS Research Foundation, Malabar Institute of Medical Sciences (Aster MIMS), Kozhikode, Kerala, India
インドのケラーラ州にある医科学研究所。
ICFO-Institut de Ciències Fotòniques, Barcelona, Spain スペインのバルセロナにあるスペイン カステイダフェルスの研究機関
公表雑誌:PLoS One. 2016; 11(4): e0152787.
結果2 毛虫体液の高速液体クロマトグラフィー及びガスクロ-質量分析 ・・・毛虫体液の化学分析
蛾の液体の高速液体クロマトグラフィーを行い、ガスクロマトグラフィ-と質量分析(GC-MS)を行った。
また、分泌物中のヒスタミンおよびイミダゾールを、高速液体クロマトグラフィーで定量した。
(A)GC-MS分析では、毛虫の5齢期の体液でオクタン-1-オール(下図左)及びフタル酸ジイソオクチル(下図右)の存在が証明されました。
<蛾(ガ)の齢期について> ・・・蛾の成長過程について
昆虫類の幼虫は、脱皮を重ねて成長しますが、その発育段階を「齢期」と言います。
孵化後第1回の脱皮までを1齢期、それ以後脱皮ごとに順次2齢期、3齢期、と呼び、
成虫あるいは蛹(さなぎ)になる前を終齢期と言います。
何齢期で成虫あるいは蛹(さなぎ)になるかについては、昆虫の種類によって異なり、チョウ (鱗翅、りんし) 類では約一ヶ月の間に5~6齢と決まっています。
オクタン-1-オール フタル酸ジイソオクチル
(B)第4齢期の毛虫体液では、フタル酸ジイソオクチルを確認できましたが、オクタン-1-オールは検出されませんでした。
<補足説明>
さてここで、上記の報告から離れますが、毛虫の体液から検出された物質の生理作用について触れておきます。
オクタン-1-オールの生理作用
ヒトに対する健康への影響については、まだ明らかではありません。
しかしながら、世界調和システム(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals、GHS))では、危険物質として分類されています。
フタル酸ジイソオクチルの生理作用 ・・・下記の項目はそれぞれリンクしてます。
トリプトファン – ナイアシンの代謝経路を阻害し、結果的に糖質・脂質・タンパク質の代謝を阻害し、循環系、消化系、神経系の働きに影響を及ぼし、皮膚炎、口内炎、神経炎、下痢などの症状を生じる。
<私見>
上の結果から、毛虫の主な毒性分の正体は、「フタル酸ジイソオクチル」と言う物質らしく、工業的には塩ビ樹脂(プラスチック製品)を柔らかくする可塑剤として利用されているようです。
他に化粧品では、香水、ヘアスプレー、デオドラントなど香りのするものにはたいてい入っています。
また、洗剤やルームスプレー、虫よけ、マニキュアをなめらかにするためにも加えられています。
他方、生体に及ぼす影響では、ホルモン攪乱物質として知られているほか、喘息、鼻炎、湿疹との関連性も指摘されています。
毛虫にこのような物質が含まれている役割については、まだ明らかではありません。