毛虫による皮膚炎 (9)ヒトリガ蛋白に対する特異的IgE抗体検出法
毛虫による皮膚炎 (9)ヒトリガ蛋白に対する特異的IgE抗体検出法
これまでヒトリガの体液及びアレルギーの原因と思われる物質の分析は次の様に説明してきました。
「(6)ヒトリガ毛虫の体液分析」・・・毛虫5齢期の体液で、フタル酸ジイソオクチルとオクタン-1-オールが明らかにされました。
「(7)ヒトリガ蛹(さなぎ)の体液分析」・・・さなぎの生育段階からは、ヒスタミン、4-メチルヒスタミン、イミダゾール、2-メチル-5-プロパン-2-イルシクロヘキサ-2,5-ジエン-1,4-ジオン(揮発性物質)、オクタン-1-オール、1,4-ベンゼンジカルボン酸、ジメチルエステルが検出されました。
「(8)ヒトリガ体液のペプチド質量分析」・・・ ヒトリガ成虫の体液では、ペプチド(0.5〜1.4kDa)が7つ、蛾の排泄物中には、4.279kDaのペプチドが検出されました。
今回は、ヒトリガによってI型アレルギーを発症していた場合、血清中に現れるヒトリガ特異的IgE抗体の検出法の原理についてご説明します。
タイトル:Population Explosions of Tiger Moth Lead to Lepidopterism Mimicking Infectious Fever Outbreaks
訳:「ヒトリガ(タイガー・モス)の大量発生は、感染性発熱の大流行を招く」
研究者:Pallara Janardhanan Wills, Mohan Anjana, Mohan Nitin, Raghuveeran Varun,他。
研究機関:MIMS Research Foundation, Malabar Institute of Medical Sciences (Aster MIMS), Kozhikode, Kerala, India
インドのケラーラ州にある医科学研究所。
ICFO-Institut de Ciències Fotòniques, Barcelona, Spain スペインのバルセロナにあるスペイン カステイダフェルスの研究機関
公表雑誌:PLoS One. 2016; 11(4): e0152787.
アレルギーの原因物質(タンパク質)が明らかにされていない状態での特異的IgE抗体証明の概略
ヒトリガに対する特異的IgE抗体は、スギ花粉症のように簡単に調べる事ができません。
ところが、ヒトリガに対するアレルギー症状については、蛾(ガ)に含まれる原因物質がまだ明らかにされていません。
そこで下に示す手順の概略をご説明します。
1) ヒトリガの蛋白成分をゲル電気泳動により分けます。
但し、この時点で分けられたヒトリガの蛋白成分はゲル(寒天のようなもの)の中に留まっています。
2) そこで、分けられたヒトリガの蛋白質を膜の上に移します(転写します)。
3) 次に、膜状のヒトリガ蛋白質に患者血清を反応させ、特異的 IgE抗体が存在すれば転写した膜の上で反応します。
4) 患者血清中にヒトリガに対する特異的IgE抗体が反応していれば、抗ヒトIgE抗体にペルオキシダーゼを結合させたものを反応させ、ペルオキシダーゼ反応で発色させて証明します。
上記の原理を踏まえながら、もう具体的に以下にご説明させて頂きます。
方法6 ヒト血清中のヒトリガに特異的なIgE抗体の証明方法
下の図は、免疫ブロット法で、ヒトリガノ蛋白質を電気泳動により、荷電状態で分離後、患者血清を反応させ、患者血清中にヒトリガの蛋白質に対する特異的IgE抗体の存在を証明した結果です。
<ヒトリガ蛋白質の電気泳動と特異抗体の証明法の原理の説明>
(a)ヒトリガ蛋白質の電気泳動
1)ヒトリガの蛋白質をゲル電気泳動にかけることで、様々な分子量の蛋白質を分けることが出来ます。
2)分けられたヒトリガ蛋白質をタンパク質染色色素であるクーマシーブリリアントブルーで染色した結果が下の写真のB、C、Iの写真の青色の列で示されています。
3)電気泳動により、荷電状態と分子量によりBでは7~80kDa(キロダルトン)の蛋白質が染まっています。
また、CとIでは6~103kDaの蛋白質が染まっています。
(b)転写の意味
電気泳動で分離したヒトリガの蛋白質をゲルの中からメンブレン(膜)の上に移す理由は、ゲル中の蛋白質は拡散しやすいこと、患者血清中の抗体がゲルの中に入るのに時間を要し、抗体の量も多く必要になるので、電圧をかけて膜の上に移動(転写)させます。
転写させることで、メンブレン(膜)上にヒトリガの蛋白質が固定され、抗体はメンブレン表面のタンパク質と反応しやすくなり、抗体量が少なくても短い反応時間で抗原抗体反応を終えられます。
(C)ヒトリガ特異的IgE抗体の検出
1)下の写真のB,C,Iで青色に染まったヒトリガの蛋白質は、それぞれ転写されています。
2)転写された膜(メンブラン)に患者血清を反応させます。この時、患者血清中にヒトリガの蛋白質に対するIgE抗体があれば、膜状の蛋白質(抗原蛋白)と抗原抗体反応を起こします。つまり、次の様に現せます。
ヒトリガの蛋白質(抗原) + 患者血清中に特異的IgE抗体が存在する
→ ヒトリガの抗原蛋白質と血清中の特異的IgE抗体が反応します。
3)上で反応後、洗浄してから、抗-ヒトIgE抗体(ペルオキシダーゼ)を反応させ、ペルオキシダーゼ反応でジアミノベンチジンを発色させた結果が下の図のB,C、K、Eの茶色の列です。
今回は、結果示しますが、その説明は次回とさせて頂きます。