毛虫による皮膚炎 (12)ラットに対するヒトリガ曝露実験による病理所見
毛虫による皮膚炎 (12)ラットに対するヒトリガ曝露実験による病理所見
「(9)ヒトリガ蛋白に対する特異的IgE抗体検出法」では、特異的IgE抗体の検出方法について詳しく紹介し、
「(10)ヒトリガ蛋白質に対する特異的IgE抗体の証明」では、その結果についてご説明させて頂きました。
そして前回の「(11)ヒトリガを使ったラットでの動物実験による全身状態」では、ヒトリガに曝されたラットで発現した全身症状をご紹介しました。
今回は、動物実験で発現した炎症の病理所見をご説明させて頂きます。
タイトル:Population Explosions of Tiger Moth Lead to Lepidopterism Mimicking Infectious Fever Outbreaks
訳:「ヒトリガ(タイガー・モス)の大量発生は、感染性発熱の大流行を招く」
研究者:Pallara Janardhanan Wills, Mohan Anjana, Mohan Nitin, Raghuveeran Varun,他。
研究機関:MIMS Research Foundation, Malabar Institute of Medical Sciences (Aster MIMS), Kozhikode, Kerala, India
インドのケラーラ州にある医科学研究所。
ICFO-Institut de Ciències Fotòniques, Barcelona, Spain スペインのバルセロナにあるスペイン カステイダフェルスの研究機関
公表雑誌:PLoS One. 2016; 11(4): e0152787.
方法 組織処理および染色
肺、肝臓および腎臓の小片を10%緩衝ホルマリン中で組織を固定し、パラフィン包埋した。
包埋(ほうまい)については、こちらのリンク先の「包埋とは」を参照して下さい。
その組織を顕微鏡観察用に切片にし、HE染色後に顕微鏡下で病理学的変化(二重盲検)を調べました。
なお、トルイジンブルー染色は肥満細胞検出のために、Leishman-Giemsa染色は骨髄および脾臓の巨核球検出のために用いました。
結果 ラットに対するヒトリガ曝露実験による炎症部位の病理所見
上の写真で最上段の(A)と次の段の(B)は、脾臓及び骨髄で血小板数の減少に伴い、血小板の前駆細胞である巨核球が写真中央に観察されています。
この時、(A)と(B)の右側は、ヒトリガの毒素(Toxin)に曝されたラットの血小板前駆細胞(巨核球)です。
(A)と(B)の左側(コントロールの巨核球)に比べて、右の巨核球では、核の周囲が不規則に多分葉核化している様子が観られ、突出した核小体が観察されます。(参考として下が正常なヒトの二つの巨核球の写真ですが、必ずしも同じように染色されるわけではありません)。
上のグラフの(C)と(D)は、骨髄のリーシュマン-ギムザ染色で、一つの視野に観られる巨核球数を比較しています。
ヒトリガにさらされたラット(茶色の棒グラフ)では、青色で示されたコントロールの棒グラフに比べ、巨核球数が増えていることを示しています。
この結果から、ヒトリガ曝露により脾臓及び骨髄で巨核球数が増えた結果、血小板数の減少が示される事を示唆していると考えられます。・・・・つまり、ヒトリガ曝露により巨核球の分化が阻害される可能性が考えられそうです。
また、(E)の右の写真は、ヒトリガに曝露されたラット肺で間質性肺炎を起こしていることを現しています。
(下の写真は、上の報告とは関係ありません。下の写真の「肥厚した肺胞隔壁が、間質性肺炎の特徴を現していることを示すために引用させて頂きました。)
(F)の右側(Toxin)は、ヒトリガに曝露されたラットで肝細胞に風船化(膨化)が観られ、肝細胞の一部が壊死を起こしていると説明しています。(この報告の写真ではありませんが、下の写真が典型的な肝細胞の風船化を示しています。アルコール性肝障害で観られるそうです。)
(G)の右側は、ヒトリガに曝露されたラット腎の尿細管細胞が破壊された事を示しており、亜急性腎尿細管壊死の写真として説明しています。
下の写真は、参考写真として示したもので、この報告とは関係ありません。
左が正常な腎臓の尿細管と糸球体(右寄り)、
右側の写真が急性腎不全で尿細管壊死の状態を示しています。
(H)はトルイジン青で染色したもので、赤色の矢印が示している肥満細胞は、肺組織内に散在しています。
(I)の棒グラフは、対照群(コントロール)と毒素群(n = 120)の肺組織の観察で、一視野に観られた肥満細胞数を比較した結果です。ヒトリガに曝露された毒素群(Toxin)では、肺組織で肥満細胞数が増えていたことを示しています。
棒グラフの(C)、(D)及び(I)の中で記された星印は、統計的に有意な差があることを示しています。
<まとめ>
上の結果では、ヒトリガ曝露により観察された病理変化を赤字で示しましたので、ご確認頂きたいと思います。