新型インフルエンザ対応ワクチンの状況2018 (4)インフルエンザウイルスの増殖過程
新型インフルエンザ対応ワクチンの状況2018 (4)インフルエンザウイルスの増殖過程
このシリーズを始めてから、次のニュースが新聞に掲載されました。
2018年6月7日、朝日新聞は「型インフル発生時 全国民分ワクチン、半年で製造へ」で、次のように報道されました。
鶏卵でウイルスを培養する従来法では1年半以上かかるため、政府は1千億円超を製薬企業に支援。
細胞培養法という速く製造できる新技術を導入させ、新工場の整備などをした。厚生労働省によると、今年度内に武田薬品工業、化学及血清療法研究所、北里第一三共ワクチンの3者の工場で計1億3千万人分が生産できるようになる。
新型インフル発生時には、行動計画に基づき、3者が速やかに製造を始める。発生から約4カ月後以降に出荷できる見通しという。
そして、厚生労働省が6月6日に公表した資料はこちらの11ページです。
しかし、計画からすでに5年も遅れています。 このところの国会における官僚の答弁から、言い逃れがうま過ぎる彼らのような国家公務員に国民の健康までもゆだねられている事になっている点については不安しかありません。
****************************************************************************************
さて前回の「(3)現在のワクチン製造における問題点」では、現在のワクチン製造におけるいくつかの問題点を指摘しました。
今回は、インフルエンザウイルスが細胞に感染した後、ウイルスを増殖する過程についてご説明させて頂きます。
その理由は、次回移行に解説する「新しいインフルエンザウイルスワクチンの製造過程」を理解する上で参考情報として必要と考えられるからです。
インフルエンザウイルスの構造
インフルエンザウイルスにはA型、B型およびC型の3つの型があります。
中でも変異しやすいのはA型です。
ヒトで現在流行しているウイルスは、 A型とB型で、
ウイルス表面には、下の図で示したように HA(赤血球凝集素)と NA(ノイラミニダーゼ)があります。
それらが組み合わさって新型インフルエンザウイルスが生まれますので、
A型は144種類(=16×9)の発生が考えられます。

また、2種類のB型ウイルスに感染している場合も判別できません。
しかし、A型とB型の同時感染は、現在の簡易検査でも検出できます。
インフルエンザウイルスの増殖過程 ・・・・リンクしてます。以下の内容は島根県感染症情報センターから引用させて頂きました。
(1)インフルエンザウイルスの活性化
インフルエンザウイルスは、体内に入っただけでは感染する力がありません。
呼吸器と腸管にある「プロテアーゼ(蛋白分解酵素)」によって活性化し、感染する力を獲得します。
呼吸器と腸管以外の臓器の場合には、インフルエンザウイルスを活性化するプロテアーゼが無いため、 通常のインフルエンザウイルスは他の臓器に感染することができません。
但し、インフルエンザウイルスがプロテアーゼにより活性化されると、どの細胞にも感染できるようになります。
(2)レセプターへの結合
プロテアーゼにより活性化されたインフルエンザウイルスは、粘膜上皮細胞にあるシアル酸レセプターに結合し、細胞に侵入する足がかりにします。
シアル酸レセプターは、全身の細胞によくあるレセプターなので、プロテアーゼで活性化されたインフルエンザ ウイルスは、どの細胞にも結合することができます。
(3)インフルエンザウイルスの細胞内への侵入
プロテアーゼにより活性化されたインフルエンザウイルスが、シアル酸レセプターに結合すると、細胞の飲食作用によって急速に飲み込まれ、 ウイルスは食胞内に取り込まれ、細胞内へ侵入します。食胞とは、胃袋のようなものです。
(4)食胞内で消化される ・・・食胞内が酸性化すると、食胞の内側の膜とウイルス粒子表面の膜が融合し始めます。
(5)インフルエンザウイルスはRNAを放出し、感染細胞で新たにウイルスを合成
膜融合により細胞内に侵入したインフルエンザウイルスは、自分のRNAを放出、感染した細胞の核に送り込み新たにインフルエンザウイルスを合成させます。
(6)インフルエンザウイルスのRNAから新しいウイルスを増殖する
インフルエンザウイルスが感染した細胞では、ウイルスのRNAから新しいウイルスの部品となる蛋白質(下図で茶色の部品)とRNA(下図で青色の部品)を大量に合成します。
さらに新しい赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)は、下図右上のピンクで示したように、感染した細胞の膜表面に並び新しいウイルスの出芽(放出)に備えます。
(7)新しいインフルエンザウイルスの出芽
新たに作られたインフルエンザウイルスのRNA(下図で青色のもの)は、8本づつセットになって感染細胞表面のHAとNA(下図でピンクで示したもの)に取り込まれ、新しいウイルスとして 膜表面から出芽(放出に備え膨らむ)します。
(8)新しいインフルエンザウイルスが感染細胞上でシアル酸レセプターにつながれている
出芽したウイルスのHA(赤血球凝集素)は、シアル酸レセプターに繋がれています。
他の細胞に感染するために必要なシアル酸レセプターですが、このままでは新しいウイルスは細胞から離れることができません。
このとき、出芽したウイルスのHAはまだ活性化していません。
(9)ノイラミニダーゼ(NA)により感染細胞から放出
最後に新生したウイルスはNA(ノイラミニダーゼ)によって、シアル酸レセプターを切り離し、 細胞から放出されます。
インフルエンザ治療薬として使用されている「タミフル」は、このNAの働きを阻害して新しい インフルエンザウイルスが放出されるのをブロックします。放出できなかったウイルスは細胞の 膜表面に凝集してしまいます。