経皮ワクチン (5)麻疹ワクチンのマイクロニードルパッチ接種と皮下接種の比較
経皮ワクチン (5)麻疹ワクチンのマイクロニードルパッチ接種と皮下接種の比較
「(1)ワクチン接種デバイスの開発」では、マイクロニードル法による経皮ワクチンが期待される背景についてご説明させて頂きました。
「(2)経皮ワクチンが期待される(免疫学的)根拠」についてご紹介いたしました。
「(3)麻疹生ワクチンの調整と賦形剤」では、マイクロニードルに麻疹生ワクチンを塗布する際の賦形剤の検討結果について、マイクロニードルに麻疹生ワクチンを塗布する際の賦形剤の検討した結果、CS(カルボキシメチルセルロースとルトロール)にトレハロースを含有した賦形剤をリン酸緩衝液(PBS)に溶解してマイクロニードルに塗布すると、一週間後も培養細胞に感染できることを確認しました。
「(4)マイクロニードルへ麻疹ワクチン・コーティング後の保管温度の影響 」では、CS(カルボキシルメチルセルロースとルトロール)に7.5%のトレハロースを添加した賦形剤とウイルスを混ぜ、25度で保管することで30日間、麻疹ワクチンとしてのウイルス力価の保存を培養細胞に対する50%感染力で確認でき、WHOの基準を保持出来た事を示しました。
今回は、麻疹ワクチンをコーディングしたマイクロニードルを使った動物実験をご紹介させて頂きます。
タイトル:Measles vaccination using a microneedle patch
訳:「マイクロニードルパッチを使った麻しん予防接種」
研究者:Chris Edens, Marcus L. Collins, Jessica Ayers,他。
研究機関:Coulter Department of Biomedical Engineering at Georgia Tech and Emory University, Georgia Institute of Technology, Atlanta, GA 30332, United States ジョージア工科大学とエモリー大学、バイオエンジニアリング。
Division of Viral Diseases, National Center for Immunization and Respiratory Diseases, Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, GA 30333, United States 米国疾病対策予防センター 、他。
公表雑誌:Vaccine. 2013 Jul 25; 31(34): 3403–3409.
方法4 予防接種方法の比較 ・・・同量の麻疹ワクチンをマイクロニードルパッチ接種MN)と皮下接種(SC)で比較した
マイクロニードルを用いた麻疹ワクチン接種の有効性をコットンラット(Sigmodon hispidus)を使って動物実験を行ないました。
6週齢の雌コットンラットを5匹ずつに対して、以下のように7群に分け、背部の毛を取り除き、マイクロニードルを使って麻疹ワクチンを接種しました。
ワクチンの接種量は、培養細胞の50%を感染させるワクチン量の1,000倍量(全容量、結果のグラフでは「A」)とその20%量(結果のグラフでは「B」)でワクチン効果を調べました。
(1)マイクロニードル(MN)を用いた全用量・・・・背部の毛をハサミと脱毛クリームで除去した部位に10分間マイクロニードルパッチを貼り付けて接種(■)。
(2)低用量ワクチン接種(全容量の20%)でマイクロニードルを使って接種したグループ(MN、Bのグラフの■印) ・・・・少量接種での有効性を評価するため
(3)皮下注射(SC)法による全用量接種(SC)。グラフでは△印。
(4)皮下接種(SC)法による低用量ワクチン接種グループ(SC) 。△印。 ・・・・少量接種での有効性を比較し、また評価するため
(5)皮下接種(SC*)は、マイクロニードルに塗布・乾燥させたワクチンをPBS(リン酸緩衝液)に溶かし、これを皮下接種したグループを「SC*」群(▽)とした。
(6)皮下接種低容量群(SC*)は、マイクロニードルから溶出されたワクチンの20%の低用量ワクチン皮下接種群(SC*)。・・・より少量ワクチンでの接種の有効性評価のため
(7)ワクチンをコーティングしていないマイクロニードルを用いた模擬ワクチン接種(偽ワクチン群)。
動物の背部の無毛領域の皮膚に皮下注射またはマイクロニードルで麻疹ワクチンを接種しました。
偽群(上の実験群:7)には、ワクチンをコーティングしていないマイクロニードルを同様に接種しました。
そして、上記のワクチン接種20日後に麻疹抗体価と中和抗体価を測定し、両抗体価が類似していたことを確認しました。
結果3 マイクロニードルパッチを用いた麻疹ワクチン接種の免疫原性と皮下注射によって送達された同じワクチン用量の免疫原性とを比較
・・・・この場合の免疫原性とは、抗原としてのワクチンを接種して抗体価を上げる力を指していますので、ワクチン抗体を誘導する力の比較と考えましょう。
図4の(A)は、ヒトに皮下接種する量と同量のウイルス量(Full Dose)を皮下接種及びマイクロニードルで接種してイます。 ・・・・この接種量は、培養細胞の50%に感染するウイルス量の1000倍量です。
図4の(B)は、Full Dose(ヒトの皮下接種量)の20%を皮下接種及びマイクロニードルで接種した場合の抗体価の変化を示しています。 ・・・この接種量は、培養細胞の50%に感染するウイルス量の200倍量に相当します。
そしてグラフの縦軸は麻疹ワクチン接種10日後〜200日後の抗体価の変化を調べた結果です。
次にグラフ内の記号について説明します。
Sham(◯)は、擬接種で、ワクチンを含みませんので、抗体価は上がりません。
SC(△)は、賦形剤を含まないウイルスの皮下接種群
SC*(▽)は、賦形剤を含みマイクロニードルに塗布する状態のウイルスの皮下接種群。
MN(■)は、マイクロニードル接種群。
<図4の説明>
図4の縦軸は、中和抗体価を「2の自然対数」で示してあります。
10 を底とする対数は、自然対数とされており、直感的に10の何倍かを示していますので、2を底とする自然対数は、直感的に2の何倍かを表していると考えて問題ないと思います。
すなわち、抗体の量あるいは抗体の反応性を力価と表現し、何倍希釈まで抗原と反応できるかにより、抗体の量や反応性を評価しています。
下の図4のグラフの横軸は、ワクチン接種後の日数を接種日(0日)から200日後まで抗体価を調べた経過日数を示しています。
すなわち縦軸は、麻疹ワクチン接種後にラットの血中で増加する中和麻疹抗体の力価を示しています。
この中和抗体の力価は、抗原である麻疹ウイルスを血液に混ぜることで、ラットの血中に増加した麻疹に対する抗体が麻疹ウイルスの活性を中和して失わせる抗体の量に相当します。
従って、麻疹ウイルスに対して、希釈した血清中の抗体が多ければ、培養細胞に感染出来ないことから、抗体量が多いほどラットの血清を2倍、4倍、8倍、・・・と希釈しても麻疹ウイルスは培養細胞に感染出来ません。
このことを利用して、下の縦軸の7は、1倍、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍(Log2 7)まで、7回希釈した時の抗体の希釈回数を示しています。
これが一定量の麻疹抗原に対して、ワクチン接種によって誘導された抗体を中和する抗体量として現されています。
<上のAのグラフから解ること>
・・・図4(A)のグラフは、ヒトに皮下接種する量と同量のウイルス量(Full Dose)を皮下接種及びマイクロニードルで接種してイます。
・・・・この接種量は、培養細胞の50%に感染するウイルス量の1000倍量です。
1) 図4(A)のグラフは、ヒトで麻疹ウイルスワクチンを接種する量と同量のウイルス量で、これは50%の培養細胞にウイルス感染する1000倍量に相当し、上の(A)のグラフでは、「Full Dose」と現しています。
2) このFull Dose のウイルス量に賦形剤を添加してマイクロニードルで接種した場合(MN群、■)には、接種10日後から麻疹抗体価が上昇し、接種30日~40日後には抗体価がピークに達しました。その後も抗体価の低下は他の群の抗体価に比較しても高い状態が維持されていました。
3) 他方、賦形剤を含まない皮下接種群(SC群、△)、及び賦形剤を含む皮下接種群(SC*群、▽)の抗体価は、接種20~40日後にピークに達しましたが、マイクロニードルでの接種群(MN群、■)に比べやや低い程度に見えます。
しかしこの低下は、グラフで見る限り「一(ひと)目盛り」程度の低下ですが、縦軸の対数変換から、抗体価は倍量も低いことが解ります。
4)Sham(擬ワクチン投与群、○ )では、抗体価の上昇は見られません。
<上のBのグラフから解ること>
・・・図4の(B)は、Full Dose(ヒトの皮下接種量)の20%を皮下接種及びマイクロニードルで接種した場合の抗体価の変化を示しています。
・・・この接種量は、培養細胞の50%に感染するウイルス量の200倍量に相当します。
1) (A)のグラフと比較して、どの投与方法でも、ほぼ同様の抗体価の上昇カーブが観察されましたが、抗体価は(A)に比べて一目盛り、すなわち抗大量は半分程度であったことが解ります。
2) マイクロニードルで使用する賦形剤を含む皮下接種群(SC*,▽)では、接種60日後の抗体価の低下が著明であること、また通常の皮下接種群(SC、△)でも抗体価の低下が見られました。
3) これらの皮下接種による抗体価の低下に比べ、マイクロニードル法(MN、■)でも幾分、抗体価の低下がみられたものの、「Full Dose」を皮下接種した場合の抗体価と同程度であった事から、少ないワクチン接種量で、従来の皮下ワクチン接種と同程度の効果が期待されると考えられます。
4)加えて、Aの実験で接種したワクチンの20%接種量(低容量)では、接種60日後には抗体価の傾向が見られました。
5)さらに、A、B両グラフでも、○印が示すワクチン接種のない「接種行為群」では、中和抗体は検出されることはなかったと判断されます。
なお、表1は、ワクチン接種方法別に抗体価を数値として現したデータであり、この報告の主要な部分は上記のグラフからほぼ理解できることから、説明を省略します。