オゾン (9)オゾンによるノロウイルス対策2
オゾン (9)オゾンによるノロウイルス対策2
「(8)オゾンによるノロウイルス対策1」では、下記報告の研究の背景、ノロウイルスの培養と保存、オゾンの生成と分析までをご説明させて頂きました。
タイトル:Characterization of Ozone Disinfection of Murine Norovirus
訳:「マウスノロウイルスのオゾン消毒の特性」
研究者」Mi Young Lim, Ju-Mi Kim, Jung Eun Lee, and GwangPyo Ko、他。
研究機関:Department of Environmental Health and Institute of Health and Environment, School of Public Health, Seoul National University, Seoul,
公表雑誌:Appl Environ Microbiol. 2010 Feb; 76(4): 1120–1124.
今回は、オゾンによるノロウイルス暴露実験、残存オゾンの測定、暴露後のノロウイルスの活性(力価)の測定法について述べます。
実験結果については次回ご説明させて頂きます。
方法3 オゾンによる消毒実験の条件と残存オゾンの測定
オゾン消毒は、2種類の異なるpH(5.6と 7.0)と 2種類の異なる温度(5℃ と20℃)でマウス・ノロウイルスを暴露した。
マウス・ノロウイルスの不活性化は、 1mg / Lの初期オゾン標的濃度になるように、オゾン・ストック溶液をノロウイルス溶液に加えて撹拌し、30秒ごとにノロウイルスのサンプルを少量回収し、残留オゾン濃度およびウイルス不活性化の程度の両方を測定した。
ノロウイルス不活化測定のためのウイルス試料には、0.1%滅菌チオ硫酸ナトリウム溶液を加え、残存するオゾンの殺菌活性を消失させた。
残存した(オゾンで損傷されなかった)ノロウイルスの力価は、プラーク形成(方法4)、STリアルタイム RT-PCR法、及び LT RT-PCR法(方法5)により測定した。
<オゾンの酸化分解とチオ硫酸ナトリウムの反応原理の整理>
オゾンの酸化分解式は次の通りです。
O3 +2H+ + 2e− → O2 + H2O
チオ硫酸ナトリウムの還元作用は次の通りです。
2(S2O3 2-) → S4O6 -2 +2e−
上の式をノロウイルスとオゾンの反応に置き換えて見ますと、下の通りです。
O3 + +2H+ +2e− +ノロウイルス → O2 + 酸化されたノロウイルス
まだ残っているオゾンとノロウイルスの反応を止めるために、チオ硫酸ナトリウムを加えると次の通りです。
O3 + 2H+ +2e− + 2(S2O3 2-)→
O2 + S4O6 -2 +2e− + H2O
・・・上の化学式で、左の赤色部分は、右側のチオ硫酸の還元力でオゾンの分解を止める事を示しています。あまり解り易くないかも知れません。
方法4 マウス・ノロウイルスのプラーク形成
・・・この方法4と下の方法5は、オゾン処理したノロウイルスの活性評価法についての説明です。
プラーク形成単位( plaque-forming unit、PFU)とは
1個のプラークを形成するために必要な ウイルス数が 1プラーク形成単位です。
プラークとは、様々な領域で使用される用語で、歯の歯垢(しこう)や動脈硬化の血管内脂質や血栓になる前の血管内盛り上がり部分もプラークと言います。
細菌学やウイルス学では、物理的な一個の細菌あるいは一つのウイルス粒子ではなく、細菌やウイルスを培養した際に一塊(ひとかたまり)となる場合を「1プラーク」と言い、細菌やウイルスが機能的に増殖する最小単位を言います。
この実験におけるプラークは、シャーレの底一面に培養細胞をシート状に培養したところに、ノロウイルスを蒔いて吸着・感染させた後、ウイルスが広がらないように寒天やメチル セルロースで覆って37℃で36~48時間培養します。
培養後、ノロウイルスが吸着したところに点状の細胞変性が起こり、これをプラークとして数えます。(下図は山口県環境保健センターのサイトから引用させて頂きました)
このウイルスの培養環境にオゾンを一定量混ぜて、ノロウイルスが破壊されれば、プラークは減少しますので、こうしてオゾンの影響を調べます。
プラークの形成は、培養細胞が生きた状態で染色する「生体染色法」で簡単に下のように顕微鏡で判別できます。
白い点がプラークです。
方法5 マウスノロウイルスのRNA抽出およびLT RT-PCR(逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応)法とST RT-PCR法
RT-PRC法((リアルタイム逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応法)について
以下に述べるリアルタイムRT-PCR法(リアルタイム逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応法)の概要は、下の資料を参照して下さい。
遺伝子検査キットカタログの5~6ページには検便の、10ページには食品の、ノロウイルスの遺伝子検出法が要約されています。・・・遺伝子検査の原理と操作手順の理解のため、ご参照下さい。
また、ST RT-PCR法、LT RT-PCR法の STは short template(短いDNAの鋳型)、LTは long-template(長いDNAの鋳型) のノロウイルスRNA部分を意味しています。
・・・・このサイトでは遺伝子検査の原理と操作の詳細について、省略させて頂きます。
このサイトのここでの目的は、オゾンの除菌効果であり、オゾン処理されたノロウイルスの活性がどの程度低下したかを知ることと考えます。
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR法)の概要は、次の通りです。
ノロウイルスがRNAウイルスであることから、ノロウイルスのRNAを鋳型としてDNAを合成することを逆転写すると言います。
逆転写で合成されたDNA(これをcDNAあるいはテンプレートと言います)を使ってPCR反応を行うことを「RT-PCR法」と言います。
PCR法とは、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)の略語で、DNAを増幅するための原理や手法を「ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)」と言います。
具体的には、ノロウイルスから「RNA抽出キット」を使ってRNAを抽出後、逆転写酵素を使って逆転写を行い、そのDNA分子の中で、目的のDNA断片だけを選択的に全自動で増幅(PCR反応)させることができる装置を使って、目的の遺伝子を増やすことができます。より詳細な手順は、こちらを参照して下さい。
方法の説明が長くなってしまいましたが、次回は結果についてご紹介させて頂きます。