糖尿病性ケトアシドーシス (4)血液が酸性になるとどうなるか?
糖尿病性ケトアシドーシス (4)血液が酸性になるとどうなるか?
「(1)糖尿病性ケトアシドーシスとは」では、糖尿病性ケトアシドーシスの概要についてご説明させて頂きました。
「(2)糖を取り込めない時のエネルギー源3つ」では、食事由来の糖を利用できない1型糖尿病のエネルギー源について、糖質(グリコーゲン)、蛋白質、中性脂肪の3大栄養素がエネルギー源となることを示した上で、グリコーゲンと蛋白質がエネルギーとして利用される代謝経路をご説明しました。
「(3)脂肪が分解されてケトン体となる過程とは」では、1型糖尿病でインスリンが分泌されない時にはグルカゴンが分泌され、このグルカゴンによって、グリコーゲン分解、蛋白質分解による糖新生及び「リパーゼ活性化による中性脂肪の分解」が促進されることをご説明しました。
さらに、中性脂肪からアセチルCoAを経てケトン体が産生され、このケトン体が全身の臓器や細胞で再びアセチルCoAに戻されてTCAサイクルに利用されることを詳しく解説しました。
・・・・すなわち、ケトアシドーシスで産生されるケトン体は、TCAサイクルを回すアセチルCoAの原料という意味でエネルギー源であることをご説明いたしました。
さて今回は、血液の酸性化によってどのような事が生体に生じるかをご一緒に考えて見ましょう。
この血液酸性化(ケトアシドーシス)への変化で生じる身体の状態を理解していただくことで、「ケトアシドーシスで生じる身体の異常や症状」についての理解が進むと考えられるからです。
組織や細胞の代謝によって細胞内のミトコンドリアで二酸化炭素が産生されます。
この二酸化炭素(CO2)は血液(水)に溶けて、赤血球内で炭酸脱水酵素によって重炭酸イオン (HCO3-) と水素イオン (H+) になり、水素イオンが増加することにより酸性が強眼られます。
こうして赤血球内のヘモグロビンから、酸素分子(O2)が遊離し、細胞膜を通って体細胞に酸素が供給されます。
そして二酸化炭素と水は次のように反応します。
CO2 + H2O H2CO3
H+ + HCO3–
上の反応式から、血中のCO2 が上昇すると化学反応は右に移動します。
そして、血中の水素イオン(H+)濃度は上昇し、酸性に傾くとpHは低下することがわかります。
他方、CO2が減少すると、化学反応が左に移動し、血中H+イオン濃度は減少し、pHは上昇します。
これに糖尿病性ケトアシドーシスでは、ケトン体が動員されますので、さらに血液を酸性に誘導します。
この内、二酸化炭素は肺から呼気として排出され、
重炭酸イオンは腎臓で再吸収されることで、水素イオンが減り、恒常性が維持されています。
このように、血液のpHを正常値に保つためには、肺と腎臓の働きが関わりますので、これらの臓器に障害がある場合には、身体への負担はより大きくなります。
血液が酸性(アシドーシス)になると身体はどうなるか?
アシドーシス(血液の酸性化)は、種々の原因や疾患に関連して生じ、呼吸性と代謝性に区別されます。
いずれにせよ、血液のpHが酸性に傾くことで、次のような様々な影響が現れると考えられます。
(1)血管を構成する細胞の膜にあるイオン調節蛋白として知られる「ナトリウム・カリウムポンプ(Na+/K+ポンプ)」が蛋白質である事から、当然、ポンプとして機能を発揮する最適なpHが存在します。
このポンプは、(血管を構成する)細胞内におけるATPの加水分解に伴うエネルギーを使って細胞内からナトリウムイオンを汲み出し、カリウムイオンを取り込む働きが低下します。
・・・・こうしてNa・Kポンプ機能の低下の結果、細胞内から細胞外(血管内)へのK+移動による高カリウム血症を生じます。
(2)高カリウム血症に伴い、心臓の機能にも影響が現れ、心電図の変化では活動電位の低下が現れるほか、心臓は自律神経により調節されているためカルシウムチャネルやカリウム、ナトリウムのチャネルも存在しますので、心収縮力の低下、徐脈あるいは頻脈、循環不全、不整脈、低血圧など、様々な影響が考えられます。
(3)電解質バランスが崩れることで全身の代謝系にも影響が現れ、糖尿病性ケトアシドーシスではケトン体由来のエネルギー代謝(の低下による)にも影響すると考えられます。
(4)ついにはカルシウム依存性の神経伝達や筋収縮が低下することで、呼吸の低下に伴い呼吸困難や意識レベルの低下なども考えられます。
・・・・すなわち、呼吸を調節する脳の呼吸中枢が刺激される結果、呼吸はより速く、深くなります(呼吸性代償)。
そして呼吸がより速く、深くなると、呼気中の二酸化炭素の排出量が増加します。
・・・→さらに過呼吸や嘔吐により、胃から大量の塩酸が失いながら、身体は血液をアルカリに向かわせようと反応します。
これらの結果として、糖尿病製ケトアシドーシス(代謝性アシドーシス)の状態では、吐き気、嘔吐、疲労が生じる他、呼吸が通常より速く、深くなります。
次に眠気を感じ、意識がもうろうとして吐き気が強くなり、血圧の低下、ショック、昏睡、そして死に至ります。
血液のpHとカリウムイオン濃度の関係 ・・・・カリウムの影響を考える。
正常とされるpH7.4付近におけるカリウム濃度は、だいたい4.0 mEq/L とされています(正常範囲は、pH7.35~7.45で3.5〜5.0mEq/L)。
このカリウム濃度(4.0 mEq/L)は、pHが(7.4)よりアルカリ側では、小さくなり、pH7.5付近では 3.5 mEq/L と低下します。
逆にpHが7.3まで下がり、酸性化(アシドーシスが進むと)カリウム濃度は、4.5 mEq/L とわずかですが増加します。
そしてpH7.2では、5.0と次第に高カリウム血症に向かいます。
pH7.5(ややアルカローシス)・・・・カリウム濃度3.5 mEq/L
pH7.4(正常中央値) ・・・・カリウム濃度4.0 mEq/L
pH7.3(ややアシドーシス) ・・・・カリウム濃度4.5 mEq/L
pH7.2(アシドーシス) ・・・・カリウム濃度5.0 mEq/L
従って、血清pHの値が大きくなればなるほど(アルカリに傾くと)、カリウムの値は小さくなり、低カリウム血症になります。
そして血清pHの値が小さくなればなるほど(酸性に傾くと)、カリウムの値は大きくなり、高カリウム血症を招きます。
カリウムは、細胞内液の主要な電解質ですが、細胞外となる血清中にはわずか4.0mEq/L であるのに対して、細胞内液には、100mEq/lもあります。
血液中のカリウム濃度の正常範囲は3.5〜5.0mEq/Lですが、5.5mEq/L以上になると高カリウム血症と診断され、心停止を招く危険性がございます。
・・・すなわち、1型糖尿病でケトアシドーシスに陥ると、カリウム濃度が上昇しますので、高カリウム血症で考えられる症状が現れますが、その説明は次回とさせて頂きます。