腎機能の理解
腎機能の理解
ここでは、糖尿病性ケトアシドーシスを理解する上で必要な腎機能について、押さえておきたいと思います。
何で今更、そんなことをと思われそうですが、以下の質問にお答え頂ける方は、どれくらいいらっしゃるでしょうか?
1) 腎臓の機能単位としてネフロン(下図イラスト)では、腎動脈からの血液が輸入細動脈から糸球体を経て輸出細動脈に流れるとき、どうして(どうやって)濾過されるか?については、ほとんど説明されていません。
2) 多くの教科書で、「糸球体で血液が濾過され、尿が作られる」と淡々と説明されています。
その通りなのですが、よほど輸入細動脈に穴が空いていなければ、どうして濾過されるのでしょうか?
3) また、輸出細動脈と静脈の関係や、尿細管内の原尿成分から尿細管周囲の血管に水分や電解質が再吸収されますが、この尿細管周囲の血管はどこの血管に戻されるのでしょうか?
4) 糸球体で濾過された後、輸出細動脈内では血液の液体成分が減っており、輸入細動脈内の血液は、血球成分が多いので、詰まってしまわないのでしょうか?
これらを理解するための基礎として、いかに説明を添えました。
腎臓の基本機能
腎臓の代表的な働きは尿をつくることです。
一つの腎臓にはネフロンという組織が約100万個あり、その一つ一つで尿がつくられています。
ネフロンは、糸球体とよばれる毛細血管のかたまりとそれを包む部分(ボウマン嚢、糸球体囊、あるいは糸球体包)および尿細管からなります(模式図)。
糸球体でろ過された血液(原尿)は尿細管を経て尿となり、尿中へは血液中の老廃物や不要物が余分な水分とともに排泄されます。下のイラストは、旭化成ファーマのサイトから引用させて頂きました。
腎臓を理解するには「尿を濾過する糸球体と尿細管機能」を理解することが基礎
尿細管は、糸球体と腎盂(じんう)をつなぐ、管(ホース)です。
曲がった形状で、たくさんの毛細血管が取り巻いており、糸球体に近い場所にある管を近位尿細管、ヘンレループの後に続く管を遠位尿細管と言います。
そして糸球体で血液成分から濾過された尿成分の中から、「尿細管を取り巻く血管内に再吸収していますので、単なる管(くだ)や尿の通り道としてのホースではありません」。
この尿細管を構成する細胞には、次のような特有な機能が備わっているからです。
そこで、上の図を使いながら、腎臓を通る血管から濾過される成分と尿細管で再吸収される成分を整理しておきたいと思います。 ここが腎臓の基礎であると共に、医療従事者にとっても基礎です。
1. 腎臓に流れた血液は、糸球体で血球とタンパク質を除く成分が濾過されます。
濾過されて尿細管に入ったものを「原尿」と言います。
すなわち、糸球体では原尿が作られ、この原尿には、血球とタンパク質がは含まれていません。
・・・従って、浸透圧は水分摂取と抗利尿ホルモン(ADH)を介した尿量により調節されていますので、
水分摂取量が少ないと、体液量の減少により浸透圧が上昇することでADH(抗利尿ホルモン、バゾプレシン)の分泌が亢進する。
糸球体では糸球体のそばにあると言う意味で「傍糸球体細胞」からレニンが分泌され、このレニンは、アンジオテンシンを活性化することで、糸球体に入る血管の血圧を上昇させます。
・・・すなわち、傍糸球体細胞のレニンは、糸球体に入ってくる輸入細動脈の内壁でレニンを出すことで、血圧を上げて、血球とタンパク質以外を原尿として絞り出していると考えられます。
・・・絞り出していると考えると、糸球体内の毛細血管の浸透圧は高いと考えられます。
・・・また、アンジオテンシンの元となるアンジオテンシノゲンは肝臓や肥大化した脂肪細胞から産生・分泌される。
尿細管の水分再吸収が促進され、尿は少量となり濃縮されて尿浸透圧は上昇、血清浸透圧は低下する。
2. 糸球体で濾過された原尿(アンジオテンシンで血液から絞り出された尿成分)は、近位尿細管に流れます。
近位尿細管では、濃度勾配により、原尿成分からイオンになっていない物質であるグルコース、アミノ酸、ビタミン類は、100%再吸収され、
イオン状態の水、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンは、ナトリウムイオンに引きつられて、約80%が再吸収されます。
(考え方として、糸球体を離れ、近位尿細管を取り巻く毛細血管(輸出細動脈)は、血圧が低く、浸透圧勾配で再吸収されます)
3. 近位尿細管で原尿から上記の成分が再吸収された後、ヘンレのループ(係蹄:けいてい)では、ナトリウムイオン、カリウムイオン、クロールイオンが再吸収されます。
ヘンレは、発見者であるドイツ人の名前です。ループと言うより、細いヘアピンカーブで、近位尿細管の再吸収を補っていると考えられます。
・・・・さて、尿細管で再吸収された血液はどこにあるもあるのでしょうか?
4. ヘンレループで再吸収された原尿は、遠位尿細管を流れ、水(抗利尿ホルモンにより促進される)とナトリウムイオン(副腎皮質から分泌されるアルドステロンにより促進される)が再吸収され、ナトリウムに伴いクロールイオンも再吸収されます。
遠位尿細管におけるナトリウムイオンの再吸収は、アンジオテンシンによって活性化された副腎皮質のアルドステロンの作用で、ナトリウムイオンが再吸収されます。
5. 遠位尿細管で再吸収された原尿は、集合管を経て腎盂に流れます。
集合管でも、抗利尿ホルモンにより水の再吸収が行われます。
腎臓の血管についての基礎を徹底的に理解する
腎臓の血管系は、糸球体濾過に必要な大量の血液とこの血液を送り出す高い血圧を糸球体に供給しています。
その腎臓内部の血管系の特徴は、次の2点です。
以下では、赤字は動脈、靑地は静脈、そして紫色はその中間的な性質として色分けしました。
(1)動脈を通して腎臓に入った血液は,静脈を通して出るまでの間に毛細血管網を2度通過する。
2つの毛細血管とは、糸球体毛細血管と尿細管周囲毛細血管で、両者の間には輸出細動脈が挟まっています。
すなわち、腎動脈→弓状動脈→小葉間動脈→糸球体に入る輸入細動脈→糸球体を出る輸出細動脈→尿細管周囲毛細血管→小葉間静脈→弓状静脈→腎静脈 となる。
この輸入細動脈と輸出細動脈は、内皮細胞ではなく平滑筋細胞から構成されることで、ある程度の血管抵抗をつくることが出来、糸球体の血圧は通常の毛細血管よりもはるかに高い約50 mmHgに制御されています。(通常の毛細血管は、平滑筋を欠く内皮細胞から構成されています。)
平滑筋細胞とは、緊張の保持と収縮を司る筋肉組織で、意志とは無関係に働くので,不随意筋の一種です。例として皮膚の立毛筋,眼球の瞳孔散大筋と膀胱や尿管も平滑筋から成る。
そして輸入細動脈及び輸出細動脈が平滑筋の血管である事からニコチン受容体を持つと考えられますので、交感神経の支配を受け、血圧が上がるといえます。
ここでもう一つ重要なポイントは、レニンの活性化によって生じるアンジオテンシンIIは、輸出細動脈には作用しますが、輸入細動脈には作用しません。
そのため、アンジオテンシンIIが作用した輸出細動脈の収縮で血圧が上がりますので、輸出細動脈内の血液には、小葉間動脈から押し出される力と輸出細動脈の収縮で圧がかかって糸球体内で濾過されると言う機序が働いています。
この理由は、輸入細動脈も収縮はしますが、この収縮は平滑筋である事からカルシウムイオンチャネルを介して平滑筋細胞が収縮します。
この時のカルシウムイオンチャネルは、輸出細動脈に多いため、ギュッと収縮しますが、輸入細動脈ではこのチャネルが少ないため収縮が少ないと説明されています。
これをイラストにしてみますと、以下の通りです。
<糸球体における血液の濾過の機序> ・・・上のイラストを参照しながらお読みください。
糸球体の入り口の輸入細動脈と出口の輸出細動脈の太さは同じなのにどうやって尿を絞り出しているのでしょうか?
その機序は次の通りであると考えられます。
1) 上の図で右側の輸出細動脈の平滑筋には、カルシウムイオンチャネルが輸入細動脈よりも沢山ある。
2) そのため、心拍のたび収縮するが輸出細動脈は、「ギュッ」と一気に収縮する。結果的に輸出細動脈は直ちに絞り込まれる。
3) 他方、上の図で左側の輸入細動脈の周囲には、傍糸球体細胞から分泌されるレニンにより収縮しますが、少ないカルシウムチャネルのため、輸入細動脈は「ゆっくり、ギューッ」と収縮する。
4) レニンはアンギオテンシシノーゲンを活性化し、アンギオテンシンⅠをアンギオテンシンIIに変換します。
5)アンギオテンシノーゲンIIは、血圧を上げるホルモンですから、平滑筋で構成される動脈全体に作用して血圧を上げようとしますので、糸球体内の動脈全体も収縮します。
6) 輸出細動脈が絞り込まれている状態で、さらに輸入細動脈はゆっくり「ギューッ」と絞り込まれ、
結果的に行き場を失った糸球体内の血液は糸球体を包むボーマン嚢で濾過されると考えられます。
これらの機序を理解して頂くことで、次の事を理解して頂くことは難しくありません。
a)過活動性膀胱のお薬であるアセチルコリンの作用を阻害(抗コリン作用)を使うと平滑筋細胞にあるアセチルコリン受容体を阻害する事で治療が可能です。
b)過活動膀胱の患者さんが喫煙されますと、ニコチンがアセチルコリン受容体に作用するため、抗コリン剤が作用できず、治療効果が見られなくなります。
これは副交感神経を遮断して交感神経を刺激するお薬ですので、抗コリン薬と分類されます。
c)カルシウム拮抗剤を併用することで、平滑筋の収縮を抑制できることから、血圧の低下及び過活動膀胱の改善を期待できる機序を理解できる。
d)また、交感神経を刺激するお薬として分類される β3刺激薬 を併用することでも、効果が期待できそうです。
・・・さあ、抗コリン剤、β3刺激薬、カルシウム拮抗薬などの組み合わせや併用を考えるなら、治療の幅も広げられそうです。
但し、副作用が現れるリスクも上がってくると考えられますので、背景となる疾患の有無を考慮して「治療を腕!」を見せて頂ける事を期待しています。
<参考情報> 頻尿の薬の作用と副作用
(2)髄質を循環する輸出細動脈は、髄質で尿細管と共に走行し、静脈血化する
腎臓の動脈は、皮質と髄質の境界で弓状動脈となり、そこから皮質表面に向かって放射状に走る小葉間動脈を出し,それがさらに糸球体に向かう輸入細動脈を次々と送り出すので、皮質は主に動脈が走行していることから、血液の酸素濃度は高い。
糸球体では,血液から尿を濾過し尿細管に流し込む一方,濾過の終わった血液を輸出細動脈を通して,尿細管周囲の毛細血管として髄質を下行する。
そして、表在・中皮質糸球体は、皮質の尿細管周囲に向かって血液を送り出す。
他方、髄質に向かう血液は、糸球体の中でも皮髄境界(皮質寄りの髄質)近くの傍髄質糸球体のみから送られる輸出細動脈が下行直血管として近位尿細管に沿って走行する。
この傍髄質糸球体を出た輸出細動脈は、髄質で近位尿細管がループ(ヘンレのループ)付近で毛細血管網を形成し、静脈血化され、遠位尿細管と共に上行し、静脈に注ぐ。