自律神経 (5)自律神経の神経伝達物質
自律神経 (5)自律神経の神経伝達物質
前回の「(4)全身の活動の視点から」でも少し触れましたが、今回は、自律神経の神経伝達物質とその受容体について簡単に説明させて頂きます。
自律神経の整理
自律神経には、交感神経と副交感神経がございました。
交感神経は、脊髄の胸神経と腰神経(胸腰髄)から、胸部と腰部にある臓器に交感神経を伸ばし、それらの臓器をまとめてコントロールしていました(胸部臓器に関しては、交感神経幹を介して一括してコントロールされます)。
・・・このことから、交感神経は、主に昼間、緊張や興奮時に身体が一斉に準備状態に入れると考えられます。
他方、副交感神経は、脊髄の頸神経と仙骨神経(頸髄・仙髄)から、それぞれの臓器に個別に副交感神経を伸ばし、それぞれ個別にコントロールしていました。
・・・これらの事から、副交感神経は主に夜間、それぞれの臓器を個別に休ませることが出来る仕組みと考える事も出来ます。
<自律神経の神経伝達物質>
上の図で示されているとおり、自律神経の神経伝達物質は次の通りです。
交感神経はノルアドレナリンを分泌し、ノルアドレナリンの受容体には、α受容体とβ受容体があり、これらをアセチルコリン受容体と言っています。 ・・・・ノルアドレナリンの終末の受容体がαとβの「アセチルコリン受容体」なのです。
副交感神経はアセチルコリンを分泌しています。その受容体はニコチン受容体とムスカリン受容体です。
・・・・神経伝達物質だけでも覚えにくい上に、それぞれの神経伝達物質の受容体は、さらに覚えにくいことでよく知られています。
ついでに運動神経の神経伝達物質はアセチルコリンで、受容体はニコチン性のアセチルコリン受容体です。
<覚えにくい理由>
・・・交感神経とノルアドレナリン及び副交感神経及び運動神経のアセチルコリンは、それぞれ関連性がないので覚えにくいのではないでしょうか。
加えて、迷走神経は副交感神経なのにノルアドレナリンの影響を受ける事や、心臓にはアセチルコリンを分泌しますが、脾臓にはノルアドレナリンを分泌し、免疫細胞がアセチルコリンを分泌して免疫系の活性化を抑制するらしい。・・・と言う事でややこしすぎます!
そこで上手く関連性を持たせるような覚え方、あるいは教え方がございます。
但し、ここに文章で説明しても上手く伝わりませんので、ここでは覚え方のご紹介は控えさせて頂きますが、お知りになりたい方は直接お訪ね頂きましたら、ご説明させて頂きます。
さて、散々、ブツブツ言いながらも自律神経の神経伝達物質の受容体について触れておきます。
また、以下の各受容体の話は、読み流すだけで構いません。
アドレナリン作動性受容体 ・・・交感神経の神経伝達物質ノルアドレナリンが結合する受容体
アドレナリン受容体は、α受容体とβ受容体に大別され、それぞれの受容体は、さらに数種類のサブタイプに分類されていますが、ここでは触れません。
血管平滑筋や心筋などに対する3つのカテコールアミン(ノルアドレナリン、アドレナリン、イソプロテレノール)の反応の強さの違いに基づいて、
反応の強さがアドレナリン>ノルアドレナリン>イソプロテレノール の順である受容体をα受容体、
イソプロテレノール>アドレナリン>ノルアドレナリン の順である受容体をβ受容体と名付けられています。
α受容体は、細動脈の平滑筋収縮、瞳孔散大、立毛、前立腺収縮にノルアドレナリンが作用します。
β受容体は、心臓の洞結節に存在し心収縮力増大、子宮平滑筋弛緩、気管支平滑筋拡張、血管平滑筋を弛緩させ拡張(筋肉と肝臓)にノルアドレナリンが作用します。
・・・・こんな面倒な分類は覚えられませんが、これらを前提として、医師はそれぞれの臓器や疾患の治療薬にこれらの受容体ブロッカーを利用しています。
すなわち、覚える必要はありませんが、上記のようなことを背景として治療薬を選択していると言う仕組みがあることをご理解頂きたいと思います。
ニコチン受容体とムスカリン受容体 ・・・副交感神経の受容体2つについて
ニコチン受容体は、タバコに含まれるニコチン成分に特異的に反応することから、その受容体をニコチン受容体(N受容体)と言います。
・・・すなわち、タバコに含まれるニコチンは、副交感神経のN受容体に結合し、アセチルコリンが分泌されたように作用しますので、ややリラックス効果があります。
ところが、交感神経の神経節ではアセチルコリンが神経伝達物質である事から、ニコチンは交感神経の神経節にも結合し、神経伝達物質として作用し、心拍数を増加させ、末梢血管を収縮させ、血圧を上げます。
さらにニコチンは、副腎を刺激し、カテコールアミン(アドレナリン)を遊離させることで,交感神経系が刺激された時のように、血管の収縮と血圧上昇,発汗を誘導します。
またニコチン受容体は随意運動を担う骨格筋にも存在します。
骨格筋は運動神経支配を受けていますので、運動神経の終末では、神経伝達物質としてアセチルコリンが放出されます。
放出されたアセチルコリンは骨格筋上にあるニコチン受容体(NM受容体)に結合し、骨格筋は収縮します。
・・・こうしてニコチンの摂取は、気分的には脳をリラックスさせながら、骨格筋を収縮させるので、疲れたときに一服したくなるのでしょう。
しかし、身体は心拍が増え、末梢血管は収縮し、副腎からはアドレナリンも分泌されることから、血圧は上がります。
ムスカリンは、ベニテングダケという毒キノコに含まれる成分で、副交感神経にも反応することから、その受容体をムスカリン受容体(M受容体)と言います。
ムスカリン受容体は、同じ副交感神経のニコチン受容体とは異なり、心拍数を減らし、心筋の収縮力もへらすことで、血圧を下げますが、気管支や消化管を収縮します。
・・・キノコの毒は心機能を低下させ、下痢をもたらすと考えましょう。毒キノコを食べると解るかも知れませんが、決して食べないで下さい。
私見
今回ご説明させて頂いた内容は、医師の治療薬選択の背景を理解する上で役に立つと思います。
これらの知識だけを覚えても役には立ちません。
ご自身やご家族が服用しているお薬について調べたり、薬剤師に尋ねた際の理解に役立つと思います。
少なくとも医療従事者にとっては、一定程度で常識ですので、時々、振り返って確認しておきましょう。