特定健診の新たな検査:non-HDL-C (2)調査研究の概要
特定健診の新たな検査:non HDLC (2)調査研究の概要
今回から、non-HDL-Cを動脈硬化の指標として使うことが有効であるかどうかを調べた以下の報告をご紹介させていただきます。
以下の報告では、高コレステロール血症(総コレステロールが250mg/dl以上)の患者さんで動脈硬化が進んでいるかどうかや、治療により改善したのかどうか を知る明らかな指標としてわかりやすいのが、心臓に栄養を送る冠動脈(下図)の変化を見ることです。
これを冠動脈イベントと呼び、高コレステロール血症の患者さんでLDL-Cやnon-HDL-Cの状態と狭心症発作や心筋梗塞の起こしやすさを比較しています。
タイトル:Relationship between coronary artery disease and non-HDL-C, and effect of highly purified EPA on the risk of coronary artery disease in hypercholesterolemic patients treated with statins: sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS).
訳:「スタチン治療を受けた高コレステロール血症患者における冠状動脈疾患とnon-HDL ‐ C の関係および冠状動脈疾患のリスクに対するEPAの効果:日本EPA脂質介入研究(JELIS)のサブ分析」
研究者:Jun Sasaki, Mitsuhiro Yokoyama, Masunori Matsuzaki, Yasushi Saito, Hideki Origasa, Yuichi Ishikawa, Shinichi Oikawa, 他。
研究機関:国際医療福祉学、兵庫脳神経センター、他。
公表雑誌:Journal of atherosclerosis and thrombosis. 2012;19(2);194-204.
早速、上記の具体的方法をご紹介させていただきます。
研究の目的
この研究は、高コレステロール血症の患者さんで冠状動脈イベント(狭心症や心筋梗塞)発生の一次予防における non-HDLコレステロール の影響とEPA(エイコサペンタエン酸)の効果の関係を調べる事です。
方法1 高コレステロール血症の患者さんの調査研究方法
下の図1に示した通り、この調査研究に参加した 18,645人は、血清総コレステロール(TC)が、>250mg/dlの患者(男性:40-75年;女性:閉経後~75歳)について、5年間(平均4.6年)追跡調査しました。
このうち、冠動脈疾患の病歴のある人は、3,664人であった。
参加者には、抗高脂血症薬を4~8週間の休薬した後、スタチン(血中のコレステロール値を低下させる薬物)とEPA(エイコサペンタエン酸で、高脂血症治療薬)の両方を服用したEPA群(n=9,326人)またはスタチン治療のみ(non-EPA群、n=9,319人)に分けた。
EPAの投与量は、1800mg・EPA/日 を服用してもらった。
但し、脂質データのない被検者(下図の青枠)及び冠動脈疾患で心筋梗塞、心筋虚血を繰り返す被検者、冠状動脈バイパス手術を受けた人やステントを入れた人(下図の紫枠)は除外した。
その結果、non-EPA群(5,806人)とEPA群(5,863人)の合計、11,669人が解析の対象(橙色の枠)となった。
・・・・これで調査対象は、総コレステロール値が高くて、冠動脈疾患のない調査対象者を絞り込み、EPA投与群と非投与群に分け、各群はさらにLDL-Cに基づいて3分類していることが解ります。
LDL-Cの管理目標値のカテゴリー分類について
non-EPA群及びEPA群の各被験者は、下に示したLDL-Cの脂質管理目標値に従って、I(低リスク)、II(中リスク)、III(高リスク)に分類した。
(下図は、日本心臓財団のサイトで紹介している、「脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版」から引用させていただきました。)
このリスクⅠ、II、IIIが、上の図の赤枠内の各群に分類された人数がわかります。
この一次予防の対象者は、カテゴリー分類I、II、III のLDL-Cに対する管理目標値は、それぞれ <160mg/dL、<140mg/dl と <120mg/dLです。
また、下の表で「non-HDL-Cの管理目標値」は、LDL-Cの管理目標値+30mg/dl と定めています。
カテゴリーⅠ・・・低リスク群:LDLコレステロール以外の主要危険因子なし、
カテゴリーⅡ・・・中リスク群:LDLコレステロール以外の主要危険因子が 1 ~ 2個ある
カテゴリーⅢ・・・高リスク群:LDLコレステロール以外の主要危険因子が 3 個以上ある場合。
上記における「主要危険因子」とは、下記の各項に基づいて分離されます。
性別、
年齢(男性≧45歳・女性≧55歳)、
喫煙、
血清コレステロール、
冠動脈疾患の家族歴、
低HDLコレステロール血症;<40mg/dL
また、 1)糖尿病、 2)慢性腎臓病(CKD)、 3)非心原性脳梗塞、 4)末梢動脈疾患(PAD)が一つでもあればカテゴリーIIIに分類されます。
次回以降、LDL-C及びnon-HDL-Cの治療管理状態と冠動脈イベントのリスクについてご説明させていただきます。
私見
チョット見ただけでは、何かややこしそうな実験に見えますが、要は総コレステロール血症の患者さんに対するEPAの効果を冠動脈イベントで観察しようと言う調査です。