特定健診の新たな検査:non HDL-C (3)LDL-Cとnon-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク
特定健診の新たな検査:non HDL-C (3)LDL-Cとnon-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク
「(2)調査研究の概要」では、以下の研究の目的と概要についてご紹介しました。
今回から、LDL-C及びnon-HDL-Cの治療管理状態と冠動脈イベントのリスクについてご説明させていただきます。
タイトル:Relationship between coronary artery disease and non-HDL-C, and effect of highly purified EPA on the risk of coronary artery disease in hypercholesterolemic patients treated with statins: sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS).
訳:「スタチン治療を受けた高コレステロール血症患者における冠状動脈疾患とnon-HDL ‐ C の関係および冠状動脈疾患のリスクに対するEPAの効果:日本EPA脂質介入研究(JELIS)のサブ分析」
研究者:Jun Sasaki, Mitsuhiro Yokoyama, Masunori Matsuzaki, Yasushi Saito, Hideki Origasa, Yuichi Ishikawa, Shinichi Oikawa, 他。
研究機関:国際医療福祉学、兵庫脳神経センター、他。
公表雑誌:Journal of atherosclerosis and thrombosis. 2012;19(2);194-204.
結果1 LDL-Cまたはnon-HDL-Cを指標として治療(管理)目標を達成できた割合と達成できなかった割合における冠動脈イベントのリスクの比較
「(2)調査研究の概要」で述べたとおり、今回の調査対象は、総コレステロール値が高くて、冠動脈疾患のない調査対象者を絞り込み、EPA投与群と非投与群に分けました。
そして今回、高血圧、糖代謝異常、糖尿病、喫煙、HDL-C<40未満、脳卒中、閉塞性動脈硬化症の患者さんが下表の赤枠で示した管理目標値に到達出来たかどうかを調べています。
<表1の見方>
下の表1では、赤色四角で囲んだ(A) は、LDLーCに注目して、EPA服用群と非服用群(non-EPA群)における各主要な危険因子(年齢、性別、高血圧、糖代謝異常、糖尿病、HDL-C<40未満、喫煙、閉塞性動脈硬化症)別に治療目標値に到達できた割合(%)と到達できなかった割合を示しています。
また、下の青色の四角で囲んだ(B)は、non-HDL-C に注目して、EPA服用群とnon-EPA群における各主要な危険因子別に治療目標値に到達できた割合(%)と到達できなかった割合を示しています。
<表1から解ること>
上の表1の赤色四角で囲んだ(A) LDLーCに注目した治療目標値に対する達成率は、EPAの服用の有無に関わらず、ほとんど変わらないと判断されます。
・・・但し、高血圧の患者さんのLDL-Cは、EPA服用群及び非服用群のどちらもそれなりに管理目標値に達していますが、両群間の差は認められません。
また同様に、青色の四角で囲んだ(B) non-HDL-C EPAに注目した治療目標値に対する達成率も、EPAの服用の有無で達成率には差がないと判断されます。
・・・・・ここで「判断されます」と述べましたが、その根拠は、達成群よりも達成できない割合の方がわずかに高く、P値(危険率)が低く過ぎるからです。
結果3 LDLーCの治療目標値達成出来た患者及び治療目標値を達成できなかった患者における冠動脈疾患発症率
<表2の見方と解釈>
下の表2で、青色四角で囲んだ(A)non-EPA は、EPAを服用しなかった患者がLDL-Cの治療目標値に達成できた群と達成できなかった群で、冠動脈イベント発症率をカテゴリーI、II、III 別に示しています。
(A)non-EPAにおいて重要な点は次の3点です。
1)この青色四角で囲んだ(A)non-EPAのデータで重要な点は、青色の楕円で囲んだHR(ハザード比の値)と95%CI(信頼区間)です。
2)LDLーCの治療目標値を達成できた群の冠動脈疾患発症率を「1」とすると、治療目標値に達しなかった群の冠動脈イベント発症率は、HR(ハザード比)が示すように、約2.02倍であったことがわかります。
3)また、各カテゴリー別では、95%信頼区間(95%CI)が示すとおり、1.36~3.06倍もの冠動脈イベント発症率が高いことが示されました。
・・・すなわち、EPAを服用しなくても、LDL-Cの治療目標値をしっかりと視野に入れた治療が動脈硬化による冠動脈疾患の発症を抑制できることを意味しています。
次に上の表2の赤色四角で囲んだ(B)EPA投与群において、LDL-Cの治療目標値に達成できた群と達成できなかった群で、冠動脈イベント発症率をカテゴリーI、II、III 別に示しています。
(B)EPA投与群において重要な点は次の1点です。
1)EPA服用群における冠動脈イベントの発症率は、治療目標値に到達できた群を「1」とすると、到達できなかった群では、ハザード比(HR)が示す1.06倍で、95%信頼区間が0.70~1.62であったことから、EPAを服用することで管理目標値に達しても達しなくても、冠動脈イベントの発症率には差がないと判断されます。
・・・・と言うことで、LDLコレステロールが高くて主要な危険因子(性別、年齢、喫煙、血清コレステロール、冠動脈疾患の家族歴、低HDLコレステロール血症;<40mg/dL)の内、いくつかある場合にはEPAの服用で冠動脈疾患のイベント発症率を抑制できることが期待されます。
まとめ
1)高コレステロール血症の主要な冠動脈イベントの原因となる疾患別(高血圧、糖代謝異常、糖尿病、HDL-C<40未満、喫煙、閉塞性動脈硬化症)にEPAがLDL-C及びnon-HDL-Cを改善させるかを比較しましたが、表1の通り、EPA摂取の有無によるLDL-Cやnon-HDL-Cの値を改善する事はありませんでした。
2)次に、LDL-Cの管理目標値に基づくカテゴリー分類で冠動脈イベントの発症率を調べたところ、表2(A)の通り、non-EPA群ではLDLーCの治療目標値を達成できた群の冠動脈疾患発症率を「1」とすると、治療目標値に達しなかった群の冠動脈イベント発症率は、ハザード比(HR)が示すように、約2.02倍で、その95%信頼区間から、1.36~3.06倍もの冠動脈疾患発症率が高いことが示されました。
3)また、EPA服用群における冠動脈イベントの発症率は、表2(B)の通り、管理目標値に到達できた群を「1」とすると、到達できなかった群では、ハザード比(HR)が示す1.06倍で、95%信頼区間が0.70~1.62であったことから、EPAを服用することで管理目標値に達しても達しなくても、冠動脈疾患の発症率には差がないと判断されます。
私見
総コレステロールが高くて、「高血圧、糖代謝異常、糖尿病、HDL-C<40未満、喫煙、閉塞性動脈硬化症など」がある場合、サバ缶を食べましょう!
食べる量は、「(2)調査研究の概要」の方法で示したとおり、EPAの量は、1800mg・EPA/日 です。