特定健診の新たな検査:non HDL-C (5)non-EPA群における血清脂質濃度と冠動脈イベントの発生率とハザード比
特定健診の新たな検査:non HDL-C (5)non-EPA群における血清脂質濃度と冠動脈イベントの発生率とハザード比
「(2)調査研究の概要」では、以下の研究の目的と概要についてご紹介しました。
「(3)LDL-Cとnon-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次の3点が明らかにされました。
1)高コレステロール血症の主要な冠動脈イベントの原因となる疾患別(高血圧、糖代謝異常、糖尿病、HDL-C<40未満、喫煙、閉塞性動脈硬化症)にEPAがLDL-C及びnon-HDL-Cを改善させるかを比較しましたが、表1の通り、EPA摂取の有無によるLDL-Cやnon-HDL-Cの値を改善する事はありませんでした。
2)次に、LDL-Cの管理目標値に基づくカテゴリー分類で冠動脈イベントの発症率を調べたところ、表2(A)の通り、non-EPA群ではLDLーCの治療目標値を達成できた群の冠動脈疾患発症率を「1」とすると、治療目標値に達しなかった群の冠動脈イベント発症率は、ハザード比(HR)が示すように、約2.02倍で、その95%信頼区間から、1.36~3.06倍もの冠動脈疾患発症率が高いことが示されました。
3)また、EPA服用群における冠動脈イベントの発症率は、表2(B)の通り、管理目標値に到達できた群を「1」とすると、到達できなかった群では、ハザード比(HR)が示す1.06倍で、95%信頼区間が0.70~1.62であったことから、EPAを服用することで管理目標値に達しても達しなくても、冠動脈疾患の発症率には差がないと判断されます。
「(4)non-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次のことが明らかにされました。
1)高コレステロール血症患者でEPAを服用しない場合、表3(A)の通り、non-HDL-Cの管理目標値に達した場合を「1」とすると、管理目標値に達しない患者群の冠動脈イベント発症率は、1.46~3.03倍も高いことが示されました。
2)また表3(B)の通り、EPAを服用している高コレステロール患者では、non-HDL-Cの管理目標値に達しなくても、冠動脈イベントの発症率は、管理目標値に達した患者群と同程度の低い冠動脈イベント発症率であった。
・・・これらの結果から、EPAを服用することでnon-HDL-Cの管理目標値にコントロールできなくても冠動脈イベントの発症率を下げられそうであることが明らかにされたと考えられます。
タイトル:Relationship between coronary artery disease and non-HDL-C, and effect of highly purified EPA on the risk of coronary artery disease in hypercholesterolemic patients treated with statins: sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS).
訳:「スタチン治療を受けた高コレステロール血症患者における冠状動脈疾患とnon-HDL ‐ C の関係および冠状動脈疾患のリスクに対するEPAの効果:日本EPA脂質介入研究(JELIS)のサブ分析」
研究者:Jun Sasaki, Mitsuhiro Yokoyama, Masunori Matsuzaki, Yasushi Saito, Hideki Origasa, Yuichi Ishikawa, Shinichi Oikawa, 他。
研究機関:国際医療福祉学、兵庫脳神経センター、他。
公表雑誌:Journal of atherosclerosis and thrombosis. 2012;19(2);194-204.
結果5 non-EPA群における血清脂質濃度と冠動脈イベントの発生率とハザード比
下の表4は、高コレステロール血症患者の non-EPA群におけるいくつかの血清脂質濃度が1標準偏差増加した場合の冠動脈イベント発生率のハザード比を示しています。
表4の1行目は、左から、1SD(1標準偏差)、HR(ハザード比)、95%信頼区間とp値と書かれています。
また、最左列は、上からTC(総コレステロール)、LDL-C、ln TG(中性脂肪の自然対数変換)、HDL-C、non-HDL-Cの脂質パラメータが示されています。
すなわち、EPAを服用しなかった高コレステロール血症の患者群において、冠動脈イベントの発症率のハザード比(HR)を「1」とすると、脂質パラメータが1標準偏差(1SD)増加することで、冠動脈イベントのリスクがどの程度増加するかをHR(ハザード比)で表しています。
<表4から解ること> ・・・・次の4点が重要です。
1) HDL-Cが「1標準偏差(17mg/dl)」上がると、冠動脈イベントの発症リスクは、HR(ハザード比)が0.60ですから、約40%下がることを意味し、その95%信頼区間は、0.47-0.76 であったことから、HDL-Cが1標準偏差上がることで、冠動脈イベントの発症リスクは、約47%~76%にまで下がることを意味します。
2) 他方、non-HDL-Cの95%信頼区間は、1.11-1.66と「1」をまたがずに上回る冠動脈イベント発症リスクが示されていますので、
non-HDL-Cが「1標準偏差(37mg/dl)」上がると、冠動脈疾患の発症リスクは、111%~166%も上がることを意味しています。
3) その一方で、他のTC(総コレステロール)、LDL-C、 自然対数変換した中性脂肪(ln TG)のいずれの95%信頼区間も、「1」をまたいでいることから、
総コレステロール、LDL-C、対数変換した中性脂肪がそれぞれ「1標準偏差」増加しても、冠動脈疾患の発症リスクには影響を及ぼさなかったと考えられます。
4) これらの結果から、LDL-Cを調べるよりも、non-HDL-Cを治療の管理目標値として有効性である事が明らかにされたと考えられます。
用語の補足説明
このサイトを閲覧いただいている方でしたら、ハザード比については、何度も解説させていただいています。
日本語では、相対的リスク比あるいは相対的危険度と言われています。
こちらのリスク比とオッズ比 のリスク比もハザード比と同じ意味です。
心血管イベント
イベントというと、一般的にはお祭り、コンサート、ショーなどの催し物を意味しますが、医学では以下の通りです。
心血管イベントとは、心血管疾患が主に動脈硬化により血管内腔が狭くなり、臓器への酸素を含んだ血液の供給が不足する状態です。
この心血管イベントは、背景となる疾患により冠動脈疾患、脳梗塞、末梢動脈閉塞の明らかな臨床所見が見られることをイベントとしています。
具体的な臨床所見については、こちらを参照して下さい。
私見
心血管イベントの発症率と脂質のパラメータを上手に non-HDL-C と関連づけたように思われます。
そして、LDL-Cよりもnon-HDL-Cが下がった方が心血管イベントを減らせる指標になる事を明らかにしています。
加えて、心血管イベントの低下は、LDL-Cよりも non-HDL-C の低下と関連していたことを証明しています。