特定健診の新たな検査:non HDL-C (6)冠動脈イベントの発生率に及ぼすEPAの効果
特定健診の新たな検査:non HDL-C (6)冠動脈イベントの発生率に及ぼすEPAの効果
「(2)調査研究の概要」では、以下の研究の目的と概要についてご紹介しました。
「(3)LDL-Cとnon-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次の3点が明らかにされました。
1)高コレステロール血症の主要な冠動脈イベントの原因となる疾患別(高血圧、糖代謝異常、糖尿病、HDL-C<40未満、喫煙、閉塞性動脈硬化症)にEPAがLDL-C及びnon-HDL-Cを改善させるかを比較しましたが、表1の通り、EPA摂取の有無によるLDL-Cやnon-HDL-Cの値を改善する事はありませんでした。
2)次に、LDL-Cの管理目標値に基づくカテゴリー分類で冠動脈イベントの発症率を調べたところ、表2(A)の通り、non-EPA群ではLDLーCの治療目標値を達成できた群の冠動脈疾患発症率を「1」とすると、治療目標値に達しなかった群の冠動脈イベント発症率は、ハザード比(HR)が示すように、約2.02倍で、その95%信頼区間から、1.36~3.06倍もの冠動脈疾患発症率が高いことが示されました。
3)また、EPA服用群における冠動脈イベントの発症率は、表2(B)の通り、管理目標値に到達できた群を「1」とすると、到達できなかった群では、ハザード比(HR)が示す1.06倍で、95%信頼区間が0.70~1.62であったことから、EPAを服用することで管理目標値に達しても達しなくても、冠動脈疾患の発症率には差がないと判断されます。
「(4)non-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次のことが明らかにされました。
1)高コレステロール血症患者でEPAを服用しない場合、表3(A)の通り、non-HDL-Cの管理目標値に達した場合を「1」とすると、管理目標値に達しない患者群の冠動脈イベント発症率は、1.46~3.03倍も高いことが示されました。
2)また表3(B)の通り、EPAを服用している高コレステロール患者では、non-HDL-Cの管理目標値に達しなくても、冠動脈イベントの発症率は、管理目標値に達した患者群と同程度の低い冠動脈イベント発症率であった。
「(5)non-EPA群における血清脂質濃度と冠動脈イベントの発生率とハザード比」では、高コレステロール血症患者の non-EPA 群で、いくつかの血清脂質濃度が1標準偏差(1SD)変化した場合の冠動脈イベントの発症率がどう変化するかを1年間調査した結果から、次のことが明らかにされました。
1) HDL-Cが「1標準偏差(17mg/dl)」上がると、冠動脈イベントの発症リスクは、HR(ハザード比)が0.60ですから、約40%下がることを意味し、その95%信頼区間は、0.47-0.76 であったことから、HDL-Cが1標準偏差上がることで、冠動脈疾患の発症リスクは、約47%~76%にまで下がることを意味します。
2) 他方、non-HDL-Cの95%信頼区間は、1.11-1.66と「1」を上回る冠動脈イベント発症リスクが示されていますので、
non-HDL-Cが「1標準偏差(37mg/dl)」上がると、冠動脈疾患の発症リスクは、111%~166%も上がることを意味しています。
3) その一方で、他のTC(総コレステロール)、LDL-C、 対数変換した中性脂肪(ln TG)のいずれの95%信頼区間も、「1」をまたいでいることから、
総コレステロール、LDL-C、対数変換した中性脂肪がそれぞれ「1標準偏差」増加しても、冠動脈疾患の発症リスクには影響を及ぼしていないと考えられます。
4) これらの結果から、LDL-Cを調べるよりも、non-HDL-Cを治療の管理目標値としての有効性が明らかにされたと考えられます。
今回は、高コレステロール血症の患者さんの治療において、LDL-Cとnon-HDL-Cの動きから4つのサブグループに分けて、EPAの効果を調べることとしました。
タイトル:Relationship between coronary artery disease and non-HDL-C, and effect of highly purified EPA on the risk of coronary artery disease in hypercholesterolemic patients treated with statins: sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS).
訳:「スタチン治療を受けた高コレステロール血症患者における冠状動脈疾患とnon-HDL ‐ C の関係および冠状動脈疾患のリスクに対するEPAの効果:日本EPA脂質介入研究(JELIS)のサブ分析」
研究者:Jun Sasaki, Mitsuhiro Yokoyama, Masunori Matsuzaki, Yasushi Saito, Hideki Origasa, Yuichi Ishikawa, Shinichi Oikawa, 他。
研究機関:国際医療福祉学、兵庫脳神経センター、他。
公表雑誌:Journal of atherosclerosis and thrombosis. 2012;19(2);194-204.
結果6 冠動脈イベントの発生率に及ぼすEPAの効果
下の表5は、冠動脈イベントの発症率を調べる際に、次の4つのサブグループに患者分けた場合のプロフィールを示しています。前回も示していますので小さく表示します。
サブグループA: 患者は、LDL-Cとnon-HDLーCの両方とも治療目標値に到達した。
サブグループB: 患者は、non-HDLーCは治療目標値に達せず、LDLーCのみ治療目標値に達した。
サブグループC: 患者は、LDLーCは治療目標値に達せず、non-HDLーCのみ治療目標値に達した。
サブグループD: 患者は、LDLーCとnon-HDLーCの両方とも治療目標値に達しなかった。
但し、この4つのサブグループは、EPA服用群と非服用群の両方が混ざっています。
<上の表5から解ること>
1)サブグループB、CとDでは、黒四角で囲んだ通り、糖尿病、糖代謝障害の被験者の割合が高いことが解ります(Dについては、囲みに入れるのを間違えました)。
2)緑色のアンダーラインで示したnon-HDLーCは、緑色の四角で囲んだ通り、サブグループAで最も低かったことが解ります。
3)また、HDL-Cは、青色四角で囲んだ通り、サブグループBとDで、A及びCよりも低いことが解ります。グループ分けの通りです。
4)茶色のアンダーラインで示したLDL-Cは、サブグループAとBでやや低く、CとDでやや高いので、上に示したサブグループの通りでした。
今回、上の4つのサブグループは、EPA服用群と非服用群の両方が混ざっています。
そこで、次回は、EPA服用群と非服用群に分けて、EPAの効果をご説明させて頂きます。
私見
サバ缶には、出番がありません。
さて、LDLーCとnon-HDL-Cの両方が治療目標値に達したサブグループは、HDL-Cも改善している事が解ります。
そしてHDL-Cのみ治療目標値に達したサブグループC の non-HDL-Cは、やや低下していることが解ります。
このデータを見る限り、non-HDL-Cの測定意義は、それほど明確とは言えません。