特定健診の新たな検査:non HDL-C (7)LDLーCとnon-HDL-Cに対する治療管理目標値と冠動脈イベントのリスク
特定健診の新たな検査:non HDL-C (7)LDLーCとnon-HDL-Cに対する治療管理目標値と冠動脈イベントのリスク
「(2)調査研究の概要」では、以下の研究の目的と概要についてご紹介しました。
「(3)LDL-Cとnon-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次の3点が明らかにされました。
1)高コレステロール血症の主要な冠動脈イベントの原因となる疾患別(高血圧、糖代謝異常、糖尿病、HDL-C<40未満、喫煙、閉塞性動脈硬化症)にEPAがLDL-C及びnon-HDL-Cを改善させるかを比較しましたが、表1の通り、EPA摂取の有無によるLDL-Cやnon-HDL-Cの値を改善する事はありませんでした。
2)次に、LDL-Cの管理目標値に基づくカテゴリー分類で冠動脈イベントの発症率を調べたところ、表2(A)の通り、non-EPA群ではLDLーCの治療目標値を達成できた群の冠動脈疾患発症率を「1」とすると、治療目標値に達しなかった群の冠動脈イベント発症率は、ハザード比(HR)が示すように、約2.02倍で、その95%信頼区間から、1.36~3.06倍もの冠動脈疾患発症率が高いことが示されました。
3)また、EPA服用群における冠動脈イベントの発症率は、表2(B)の通り、管理目標値に到達できた群を「1」とすると、到達できなかった群では、ハザード比(HR)が示す1.06倍で、95%信頼区間が0.70~1.62であったことから、EPAを服用することで管理目標値に達しても達しなくても、冠動脈疾患の発症率には差がないと判断されます。
「(4)non-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次のことが明らかにされました。
1)高コレステロール血症患者でEPAを服用しない場合、表3(A)の通り、non-HDL-Cの管理目標値に達した場合を「1」とすると、管理目標値に達しない患者群の冠動脈イベント発症率は、1.46~3.03倍も高いことが示されました。
2)また表3(B)の通り、EPAを服用している高コレステロール患者では、non-HDL-Cの管理目標値に達しなくても、冠動脈イベントの発症率は、管理目標値に達した患者群と同程度の低い冠動脈イベント発症率であった。
「(5)non-EPA群における血清脂質濃度と冠動脈イベントの発生率とハザード比」では、高コレステロール血症患者の non-EPA 群で、いくつかの血清脂質濃度が1標準偏差(1SD)変化した場合の冠動脈イベントの発症率がどう変化するかを1年間調査した結果から、次のことが明らかにされました。
1) HDL-Cが「1標準偏差(17mg/dl)」上がると、冠動脈イベントの発症リスクは、HR(ハザード比)が0.60ですから、約40%下がることを意味し、その95%信頼区間は、0.47-0.76 であったことから、HDL-Cが1標準偏差上がることで、冠動脈疾患の発症リスクは、約47%~76%にまで下がることを意味します。
2) 他方、non-HDL-Cの95%信頼区間は、1.11-1.66と「1」を上回る冠動脈イベント発症リスクが示されていますので、
non-HDL-Cが「1標準偏差(37mg/dl)」上がると、冠動脈疾患の発症リスクは、111%~166%も上がることを意味しています。
3) その一方で、他のTC(総コレステロール)、LDL-C、 対数変換した中性脂肪(ln TG)のいずれの95%信頼区間も、「1」をまたいでいることから、
総コレステロール、LDL-C、対数変換した中性脂肪がそれぞれ「1標準偏差」増加しても、冠動脈疾患の発症リスクには影響を及ぼしていないと考えられます。
4) これらの結果から、LDL-Cを調べるよりも、non-HDL-Cを治療の管理目標値としての有効性が明らかにされたと考えられます。
「(6)冠動脈イベントの発生率に及ぼすEPAの効果」では、高コレステロール血症の患者さんの治療において、LDL-Cとnon-HDL-Cの動きから4つのサブグループに分けて、4つのサブグループに分け、各サブグループの特徴についてご説明しました。
今回は、前回ご説明した4つのサブグループをEPA摂取群と非摂取群(non-EPA群)に分けて、冠動脈イベントの発症率を調べた結果をご照会させていただきます。
タイトル:Relationship between coronary artery disease and non-HDL-C, and effect of highly purified EPA on the risk of coronary artery disease in hypercholesterolemic patients treated with statins: sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS).
訳:「スタチン治療を受けた高コレステロール血症患者における冠状動脈疾患とnon-HDL ‐ C の関係および冠状動脈疾患のリスクに対するEPAの効果:日本EPA脂質介入研究(JELIS)のサブ分析」
研究者:Jun Sasaki, Mitsuhiro Yokoyama, Masunori Matsuzaki, Yasushi Saito, Hideki Origasa, Yuichi Ishikawa, Shinichi Oikawa, 他。
研究機関:国際医療福祉学、兵庫脳神経センター、他。
公表雑誌:Journal of atherosclerosis and thrombosis. 2012;19(2);194-204.
結果7 LDLーCとnon-HDL-Cに対する治療管理目標値と冠動脈イベントのリスク
はじめにもう一度、4つのサブグループを示します。
サブグループA: 患者は、LDL-Cとnon-HDLーCの両方とも治療目標値に到達した。
サブグループB: 患者は、non-HDLーCは治療目標値に達せず、LDLーCのみ治療目標値に達した。
サブグループC: 患者は、LDLーCは治療目標値に達せず、non-HDLーCのみ治療目標値に達した。
サブグループD: 患者は、LDLーCとnon-HDLーCの両方とも治療目標値に達しなかった。
<図2の見方>
下の図2Aは、Non-EPA群におけるnon-HDL-C(横軸) とLDL-C(z軸、奥行き)に対する管理目標値(到達、未到達)、縦軸はハザード比(HR)を表しています。
また、図2Bは、 EPA服用群におけるnon-HDL-C(横軸) とLDL-C(z軸、奥行き)に対する管理目標値(到達、未到達)、縦軸はハザード比(HR)を表しています。
さらに図Aのnon-EPA群、及び図BのEPA群のグラフ内に示されている四角で囲まれたA、B、C、Dは、上に示した各サブグループ名を表しています。
そして各サブグループの立体棒グラフには、冠動脈イベントを発症した数/対象患者数、発症率がそれぞれ示されています。
加えて、サブグループAの冠動脈イベント発症率を「1」として、サブグループB、C、Dのハザード比(発症率の比)を縦軸に示しています。
<図2A:non-EPA群における4つのサブグループの冠動脈イベント発症率のハザード比から解ること>
左上の図Aの non-EPA群のグラフから、次のことが解ります。
1)non-EPA群のサブグループA(LDL-Cとnon-HDLーCの両方とも管理目標値に到達した)の冠動脈イベント発症率を「1」とすると、サブグループBとDの95%信頼区間は、それぞれ1.06-4.65、及び1.59-3.96と「1」を超えていることから、LDLーCのみ管理目標値に達したBと両方とも管理目標値に達しなかったサブグループDの冠動脈イベント発症率は、サブグループAに比べて有意に高かったことが示されています。
2)他方、non-HDLC-Cのみ管理目標値に達したサブグループCの95%信頼区間は、0.80-4.01と「1」をまたいでいることから、サブグループAの冠動脈イベント発症率と差がなかったことが解ります。
<図2B:EPA群における4つのサブグループの冠動脈イベント発症率のハザード比から解ること>
1)右上の図2BのEPA群のサブグループA(LDL-Cとnon-HDLーCの両方とも管理目標値に到達した)の冠動脈イベント発症率を「1」とすると、サブグループB、C、Dのいずれの95%信頼区間も「1」をまたいでいることから、EPA摂取群では、LDL-Cとnon-HDL-Cの両方とも管理目標値に達したサブグループAと他のサブグループの冠動脈イベント発症率には差がないことが示されました。
まとめ
1)non-EPA群の中で、LDL-Cとnon-HDL-Cの両方の管理目標値に達したサブグループAの冠動脈イベント発症率は、LDLーCのみ管理目標値に達したサブグループBと両方とも管理目標値に達しなかったサブグループDの冠動脈イベント発症率は、サブグループAに比べて有意に高かったことが示されました。
2)EPA群の中で、LDL-Cとnon-HDL-Cの両方の管理目標値に達したサブグループAの冠動脈イベント発症率は、他のサブグループの冠動脈イベント発症率と差がなく、EPAを服用することで、LDL-Cやnon-HDL-Cが管理目標値に達しなくても冠動脈イベントの発症を抑制できることが示唆された。
私見
要約すれば、サバ缶を食べていれば、LDL-CやnonーHDL-C が下がらなくても心血管イベントは抑制できる!
今回のグラフの解釈の説明は、少しわかりにくかったかも知れません。