特定健診の新たな検査:non HDL-C (8)LDL-Cまたはnon-HDL-Cが管理目標値に達しなかった患者サブグループBとCの被験者における冠動脈イベントに及ぼすEPAの効果
特定健診の新たな検査:non HDL-C (8)LDL-Cまたはnon-HDL-Cが管理目標値に達しなかった患者サブグループBとCの被験者における冠動脈イベントに及ぼすEPAの効果
「(2)調査研究の概要」では、以下の研究の目的と概要についてご紹介しました。
「(3)LDL-Cとnon-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次の3点が明らかにされました。
1)高コレステロール血症の主要な冠動脈イベントの原因となる疾患別(高血圧、糖代謝異常、糖尿病、HDL-C<40未満、喫煙、閉塞性動脈硬化症)にEPAがLDL-C及びnon-HDL-Cを改善させるかを比較しましたが、表1の通り、EPA摂取の有無によるLDL-Cやnon-HDL-Cの値を改善する事はありませんでした。
2)次に、LDL-Cの管理目標値に基づくカテゴリー分類で冠動脈イベントの発症率を調べたところ、表2(A)の通り、non-EPA群ではLDLーCの治療目標値を達成できた群の冠動脈疾患発症率を「1」とすると、治療目標値に達しなかった群の冠動脈イベント発症率は、ハザード比(HR)が示すように、約2.02倍で、その95%信頼区間から、1.36~3.06倍もの冠動脈疾患発症率が高いことが示されました。
3)また、EPA服用群における冠動脈イベントの発症率は、表2(B)の通り、管理目標値に到達できた群を「1」とすると、到達できなかった群では、ハザード比(HR)が示す1.06倍で、95%信頼区間が0.70~1.62であったことから、EPAを服用することで管理目標値に達しても達しなくても、冠動脈疾患の発症率には差がないと判断されます。
「(4)non-HDL-Cの管理状態と冠動脈イベントのリスク」では、次のことが明らかにされました。
1)高コレステロール血症患者でEPAを服用しない場合、表3(A)の通り、non-HDL-Cの管理目標値に達した場合を「1」とすると、管理目標値に達しない患者群の冠動脈イベント発症率は、1.46~3.03倍も高いことが示されました。
2)また表3(B)の通り、EPAを服用している高コレステロール患者では、non-HDL-Cの管理目標値に達しなくても、冠動脈イベントの発症率は、管理目標値に達した患者群と同程度の低い冠動脈イベント発症率であった。
「(5)non-EPA群における血清脂質濃度と冠動脈イベントの発生率とハザード比」では、高コレステロール血症患者の non-EPA 群で、いくつかの血清脂質濃度が1標準偏差(1SD)変化した場合の冠動脈イベントの発症率がどう変化するかを1年間調査した結果から、次のことが明らかにされました。
1) HDL-Cが「1標準偏差(17mg/dl)」上がると、冠動脈イベントの発症リスクは、HR(ハザード比)が0.60ですから、約40%下がることを意味し、その95%信頼区間は、0.47-0.76 であったことから、HDL-Cが1標準偏差上がることで、冠動脈疾患の発症リスクは、約47%~76%にまで下がることを意味します。
2) 他方、non-HDL-Cの95%信頼区間は、1.11-1.66と「1」を上回る冠動脈イベント発症リスクが示されていますので、
non-HDL-Cが「1標準偏差(37mg/dl)」上がると、冠動脈疾患の発症リスクは、111%~166%も上がることを意味しています。
3) その一方で、他のTC(総コレステロール)、LDL-C、 対数変換した中性脂肪(ln TG)のいずれの95%信頼区間も、「1」をまたいでいることから、
総コレステロール、LDL-C、対数変換した中性脂肪がそれぞれ「1標準偏差」増加しても、冠動脈疾患の発症リスクには影響を及ぼしていないと考えられます。
4) これらの結果から、LDL-Cを調べるよりも、non-HDL-Cを治療の管理目標値としての有効性が明らかにされたと考えられます。
「(6)冠動脈イベントの発生率に及ぼすEPAの効果」では、高コレステロール血症の患者さんの治療において、LDL-Cとnon-HDL-Cの動きから4つのサブグループに分けて、4つのサブグループに分け、各サブグループの特徴についてご説明しました。
「(7)LDLーCとnon-HDL-Cに対する治療管理目標値と冠動脈イベントのリスク」では、前回ご説明した4つのサブグループをEPA群とnon-EPA群に分けて、冠動脈イベントの発症率を調べた結果、次のことが明らかにされました。
1)non-EPA群の中で、LDL-Cとnon-HDL-Cの両方の管理目標値に達したサブグループAの冠動脈イベント発症率は、LDLーCのみ管理目標値に達したサブグループBと両方とも管理目標値に達しなかったサブグループDの冠動脈イベント発症率は、サブグループAに比べて有意に高かったことが示されました。
2)EPA群の中で、LDL-Cとnon-HDL-Cの両方の管理目標値に達したサブグループAの冠動脈イベント発症率は、他のサブグループの冠動脈イベント発症率と差がなく、EPAを服用することで、LDL-Cやnon-HDL-Cが管理目標値に達しなくても冠動脈イベントの発症を抑制できることが示唆された。
今回は、LDL-Cまたはnon-HDL-Cのどちらかが管理目標値に達しなかった患者サブグループBとCの高コレステロール患者の冠動脈イベントに及ぼすEPAの効果についてご説明させていただきます。
タイトル:Relationship between coronary artery disease and non-HDL-C, and effect of highly purified EPA on the risk of coronary artery disease in hypercholesterolemic patients treated with statins: sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS).
訳:「スタチン治療を受けた高コレステロール血症患者における冠状動脈疾患とnon-HDL ‐ C の関係および冠状動脈疾患のリスクに対するEPAの効果:日本EPA脂質介入研究(JELIS)のサブ分析」
研究者:Jun Sasaki, Mitsuhiro Yokoyama, Masunori Matsuzaki, Yasushi Saito, Hideki Origasa, Yuichi Ishikawa, Shinichi Oikawa, 他。
研究機関:国際医療福祉学、兵庫脳神経センター、他。
公表雑誌:Journal of atherosclerosis and thrombosis. 2012;19(2);194-204.
結果8 LDL-Cまたはnon-HDL-Cが管理目標値に達しなかった患者サブグループBとCの被験者における冠動脈イベントに及ぼすEPAの効果
ここで、冠動脈イベントとは、心臓に栄養を送る冠動脈の壁にコレステロールが付着し、血管が硬く、詰まりやすくなり、その結果として血液の流れが悪くなって生じる狭心症や心筋梗塞の発作を指しています。
<図3の見方>
下に示した図3の縦軸は、主要な冠動脈イベントの累積頻度の割合を示しており、
横軸は、調査期間が0〜5年であることを現しています。
この調査期間において、サブグループBとCをnon-EPA群とEPA群に分けて、冠動脈イベントの累積発症率を調べました。
4つのサブグループをもう一度振り返りますと、以下のとおりでした。
サブグループA: 患者は、LDL-Cとnon-HDLーCの両方とも治療目標値に到達した。
サブグループB: 患者は、non-HDLーCではなく、LDLーCのみ治療目標値に達した。
サブグループC: 患者は、LDLーCではなく、non-HDLーCのみ治療目標値に達した。
サブグループD: 患者は、LDLーCとnon-HDLーCの両方とも治療目標値に達しなかった。
このBとCのサブグループの被験者に対するEPA投与群を茶色の折れ線グラフで示しています。
緑色の折れ線グラフがnon-EPA群として、EPAの効果を冠動脈イベントの累積頻度で比較しています。
<図3のグラフから解ること>
1) 横軸が示す調査期間5年間の最後で、緑色の折れ線グラフが示すnon-EPA群の冠動脈イベントの累積頻度2.5%に比べ、茶色赤色の折れ線グラフが示すEPA群の冠動脈イベント頻度(1.5%)は、図中の赤丸が示すとおり38%(1.5/2.5×100=60%)もの低下効果を現した。
2) 図中の赤四角が示す通り、そのハザード比(HR)は、0.62で、95%信頼区間は、0.43〜0.88 であることから、EPA群では約40%も冠動脈イベント頻度が減少したことを意味しています。
また、図3中央上に書かれているlog-rank test(ログランク検定)とは、生存期間の解析で2群の生存期間に差があるかを検定する方法ですが、ここでは冠動脈イベント頻度に差があるかどうかを検定し、危険率が0.007であることから、5年間の冠動脈イベントの累積頻度には差がないことを示しています。
私見
高コレステロール患者さんで、LDL-Cまたはnon-HDL-Cのいずれかが管理目標値に達し居ていれば、サバ缶を食べなくても5年生存率には差が無さそうです。
但し、冠動脈イベント頻度は、サバ缶で40%も低く出来そうです。