血圧変動と認知症のリスク (5)正常血圧でも血圧の変動が大きいとアルツハイマー型認知症のリスクは上がる
血圧変動と認知症のリスク(5)正常血圧でも血圧の変動が大きいとアルツハイマー型認知症のリスクは上がる
「(1)血圧の変化と認知症の関連」では、血圧と認知症発症率の調査の背景と方法について述べました。
「(2)収縮期血圧の変動と全ての認知症発症率」では、収縮期血圧の変動係数と全ての認知症発症率との関係から、血圧の変動係数が大きいQ4、Q3の群は、認知症の累積発症率が高い結果を示しました。
「(3)収縮期血圧の変動と血管性認知症、アルツハイマー型認知症」では、上の(2)で示した「全認知症の累積発症率」を血管性認知症とアルツハイマー型認知症に分けて、収縮期血圧の変動係数との関係を調査しました。
その結果、アルツハイマー型認知症の累積発症率は収縮期血圧の変動係数との関連が強く、血管性認知症の発症率には収縮期血圧の変動係数との関連性は低いことが明らかにされました。
「(4)血圧の変動係数と各認知症発症リスク」では、収縮期血圧の変動係数が最も少ない群(Q1)の認知症発症率を「1」とした時、変動係数の最も大きな群(Q4))の認知症発症率がどの程度かを解析しました。その結果、血管性認知症及びアルツハイマー型認知症のハザード比とその95%信頼区間は、それぞれQ1に比べてQ4で血管性認知症の発症リスクが高いことが明らかにされました。
今回は、血管性認知症及びアルツハイマー型認知症と正常血圧における収縮期血圧の変動係数の関係をご説明させて頂きます。
タイトル:Day-to-Day Blood Pressure Variability and Risk of Dementia in a General Japanese Elderly Population
訳:「一般の高齢者における日常の血圧変動と認知症のリスク」
研究者:Emi Oishi, MD, Tomoyuki Ohara, MD, PhD, Satoko Sakata, MD, Masayo Fukuhara, MD, PhD,他。
研究機関:疫学および公衆衛生学科、医学および臨床科学科、神経精神科、およびコホート研究センター、九州大学大学院医学研究科
上記報告の要約を紹介したサイトは、家庭血圧の日間変動性は,血圧値そのものとは独立して認知症発症リスクと関連する
結果6 収縮期血圧、その変動係数と血管性及びアルツハイマー型認知症の発症リスク
<図2の見方と解釈>
下の図2の一行目は、項毎に訳を入れておきました。
血管性認知症の部分について説明しますと以下の通りです。
1)最左端列の収縮期血圧の変動係数が7.6以下、一行目の収縮期血圧135以下のイベント数(認知症発症数)/患者数が示す血管性認知症の発症リスクは、4/436 を「1」としています。
2)青色のアンダーラインで示した部分は、収縮期血圧の変動係数が7.6以上、血圧は135以上では、HR(ハザード比)が 3.4 で、その95%信頼区間が「1」を超えていることから、
血圧135以上で変動係数が7.6以上の群では血管性認知症の発症リスクが上記の 上記の 1) に比べて高い事が示されました。
3)次にアルツハイマー型認知症では、収縮期血圧の変動係数が 7.6 未満で、収縮期血圧が135未満のアルツハイマー型認知症の発症リスクは、16/436 で、これを「1」としています。
4)赤色のアンダーラインで示した変動係数7.6以上では、収縮期血圧が135未満(<135 )でもHR(ハザード比)は2.46、その95%信頼区間は1.17-5.15と「1」を超えています。
5) この3)と4)の結果から、収縮期血圧が135未満の正常血圧でも収縮期血圧の変動係数が7.6以上ではアルツハイマー型の認知症の発症率が2倍以上になる事が明らかにされました。
まとめ
血管性認知症では、収縮期血圧が135以下で、その変動係数が7.6以下の群に比べ、収縮期血圧が135位上のグループでは、血管性認知症の発症リスクは上がるのに対して、
アルツハイマー型認知症では、収縮期血圧が正常範囲とされる135以下であってもアルツハイマー型認知症の発症リスクが上がることが明らかにされました。
・・・・このことから、認知症予防には正常血圧であっても、収縮期血圧の変動係数の上昇を抑制する治療や生活習慣の工夫が求められそうです。