血圧変動と認知症のリスク まとめ
血圧変動と認知症のリスク まとめ
血圧変動が高いことが認知機能障害および認知症の危険因子であることが報告されています。
そこで家庭における血圧測定によって日々の血圧変動と認知症発症リスクとの関連を調査した下記の報告をご紹介します。
タイトル:Day-to-Day Blood Pressure Variability and Risk of Dementia in a General Japanese Elderly Population
訳:「一般の高齢者における日常の血圧変動と認知症のリスク」
研究者:Emi Oishi, MD, Tomoyuki Ohara, MD, PhD, Satoko Sakata, MD, 他。
研究機関:疫学および公衆衛生学科、医学および臨床科学科、神経精神科、およびコホート研究センター、九州大学大学院医学研究科
・・・・・上記報告の要約を紹介したサイトは、家庭血圧の日間変動性は,血圧値そのものとは独立して認知症発症リスクと関連する
<要約>
認知症のない60歳以上の1674人について5年間(2007〜2012年)、血圧と認知症の状態を追跡調査しました。
血圧は、収縮期血圧と拡張期血圧の変動係数(CoV)として計算し、変動係数の大きさから4つに区分して認知症の発症リスクを比較しました。
<結果>
追跡調査中に、194人の被験者が認知症を発症しました。
その内、血管性認知症が47例、アルツハイマー型認知症が134例でした。
収縮期血圧の変動係数が少ないQ1群の認知症発症率を「1」としすると、
いずれのタイプの認知症も血圧の変動係数が大きいQ4群の認知症発症リスクは、Q1群に比べて高い結果が示されました。
<結論>
日常の血圧変動の増加が、日本人高齢者におけるにんち全原因認知症、VaD、およびADの発症の重要な危険因子であることを示唆しています。
・・・・・・上記要約の具体的根拠を下の各項目で解説します・・・・・・・・・
(2)収縮期血圧の変動と全ての認知症発症率 ・・・収縮期血圧の変動が大きい被験者群ほど、全ての認知症の累積発症率が高いことが示されました。
(3)収縮期血圧の変動と血管性認知症、アルツハイマー型認知症 ・・・「全認知症の累積発症率」を血管性認知症とアルツハイマー型認知症に分けて、収縮期血圧の変動係数との関係を調査しました。
その結果、アルツハイマー型認知症の累積発症率は収縮期血圧の変動係数との関連が強く、血管性認知症の発症率には収縮期血圧の変動係数との関連性は低いことが明らかにされました。
(4)収縮期血圧の変動と各認知症発症リスク ・・・血管性認知症は、「全ての認知症」のハザード比とその95%信頼区間は、Q1に比べてQ4で血管性認知症の発症リスクが高いことを示しています。 次に、アルツハイマー型認知症では、「全ての認知症」及び「血管性認知症」の結果と同様でえ、Q1に比べてQ4でアルツハイマー型認知症の発症リスクが高いことを示しています。
(5)正常血圧でも血圧の変動が大きいとアルツハイマー型認知症のリスクは上がる ・・・血管性認知症では、収縮期血圧が135以下で、その変動係数が7.6以下の群に比べ、収縮期血圧が135位上のグループでは、血管性認知症の発症リスクは上がるのに対して、
アルツハイマー型認知症では、収縮期血圧が正常範囲とされる135以下であってもアルツハイマー型認知症の発症リスクが上がることが明らかにされました。
・・・・このことから、認知症予防には正常血圧であっても、収縮期血圧の変動係数の上昇を抑制する治療や生活習慣の工夫が求められそうです。
私見
血圧の変動、なかでも収縮期血圧(最高血圧)における日々の変動を小さくすることで、認知症のリスクを減らすことが可能かも知れません。
では、「日々の収縮期血圧の変動を少なくする」には、どうすれば良いでしょうか?
例えば、高血圧の亢進を抑えるという考えはいかがでしょうか?
収縮期血圧の亢進を抑えるには、高血圧の治療をきちんと受け、生活習慣や食生活を改めることです。さらに血管を柔らかくする事である程度、認知症のリスクを抑制できる可能性が考えられそうです。
では、血管を柔らかくするにはどうすれば良いでしょうか?
その機能を有する物質の一つに一酸化窒素(NO)がございます。
ここでは簡単に触れておきます。
一酸化窒素(NO)には、血管拡張作用があり、NO の不足は血管内皮細胞機能の低下や高血圧に関係します。
また動脈硬化症の抑制、血小板凝集抑制作用による血栓症の抑制にも関連します。
NO は平滑筋の Ca2+ 感受性を抑制し、心臓にある冠血管の攣縮(れんしゅく、痙攣性の収縮)を予防します。
NO を発生させる物質や NO 合成に関わる 一酸化窒素合成酵素(Nitric Oxide Synthase , NOS) の発現を制御する物質は高血圧症、動脈硬化症、血栓症、肺高血圧症などの疾患の治療薬として期待されます。
狭心症治療薬のニトログリセリンや硝酸イソソルビドは細胞内でNOを発生することで血管平滑筋を弛緩させています。
血流依存性血管拡張反応(Flow-mediated dilation、FMD)は、血管内皮からのNOを放出させることで、血管が拡張する反応です。
これを調べるには、血圧計のカフで腕を一端締め、その後緩めると内皮細胞はNOを放出し血管が拡張する様子を超音波で測定します。血管拡張が少ない場合は内皮機能が低下しているとされます。
補足 血管性認知症とは
脳梗塞や脳出血などによって発症する認知症です。
脳梗塞や脳出血の部位や障害の程度によって、症状が異なります。
手足の麻痺などの神経症状が起きることもあります。
上のリンク先に示したクロス集計表に左下のような二通りの収縮期血圧のデータを入れ、「計算」ボタンを押すと右下に示した結果が得られました。
右下の計算結果から、概ね日々の血圧の変動は、長期的に測定しても10mmHg以下の変動になるような食生活や生活習慣を維持することで、認知症の発症リスクを減らせるかもしれません。