わかりやすい血圧の話 (4)水銀柱で測ってきた血圧
わかりやすい血圧の話 (4)水銀柱で測ってきた血圧
水銀柱で測る血圧を水柱で測ると
少し前まで、血圧の測定は水銀を押し上げる高さで測ってきました。
腕にカフを巻き、加圧して血流を止めた後、カフを減圧し、血液が心臓の拍動に合わせて断続的に流れ始めたときに発生する血管音(コロトコフ音=K音)を聴診器やカフに内蔵したマイクロホンで確認することから、コロトコフ法による血圧測定と言います。
K音発生開始時のカフ圧を「最高血圧」、K音が消えたときのカフ圧を「最低血圧」としています。
ウキペディアによれば、水銀の比重は、13.534 g/cm3とあります。
つまり、腕で測定する血圧は、腕の血管(太さ約5~8ミリ)を通る血液の圧を水銀圧で測定した数値です。
他方、大動脈の太さは2.5㎝もありますが、腕の血管(末梢の動脈)は5ミリ前後、そして細動脈では0.5ミリ程です。シャープペンの芯くらいです。
水銀柱で測定される血圧「「120mmHg」は、比重が13.534ですので、
水柱(水の高さ)で測定しますと、水銀柱120ミリ×13.534(比重)=1624ミリ(=162.4㎝=1.624メートルの水柱)の高さに相当します。
・・・これでは血圧を測りにくいので水銀を使って来ました。
動脈の太さと神経
大動脈 ・・・心臓からの高い血圧を緩衝しています。
大動脈 は心臓の左心室から押し出された血液が最初に通る血管で、弾性繊維が豊富な血管壁であるため、伸縮することで心臓から送り出されてくる血液の圧変化を緩衝しています。
心臓の収縮時には、左心室から大動脈に押し出されてくる高い圧力(収縮期血圧)により、血液は末梢に向かって流れるとともに、大動脈壁を押し広げます。
心臓が弛緩する期間(弛緩期)には大動脈弁が閉じ、心臓からの血液の押し出しは途絶えますが、押し広げられた大動脈壁がもとに戻ろうとする力により血圧(弛緩期血圧)が保たれます。
細動脈 ・・・血圧と関連します。
細動脈は、各臓器に血液を供給するための細い動脈です。
平滑筋層と言う内臓の筋肉ですので、自律神経(交感神経)の支配を受け、自動的に調節されます。
この平滑筋が適度に収縮することで緊張を保ち、血管の断面積を調節することで、血管抵抗の役割を担っています。
従って、細動脈平滑筋層の緊張度を変化させる物質は、臓器に届ける血圧を調節して、過大な血圧が臓器や組織に負担にならないように調節しています。
このように細動脈の平滑筋は、交感神経により調節されており、交感神経が興奮すると神経伝達物質のノルアドレナリンが血管平滑筋に作用して収縮を起こし、血管抵抗を増大させます。
また、ノルアドレナリンは心拍出量も増大させるため、この両方の効果により血圧を上昇させますが、細動脈は臓器に過大な血圧が負荷とならないように調節する役割を担っています。
さらに様々なホルモン(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン)や薬物が細動脈平滑筋に作用して血流や血圧を調節しています。
このように細動脈が平滑筋で構成されると言う事からも、細動脈は自律神経の交感神経により調節され、またホルモンの影響も受けながら血圧を調節しています。
毛細血管 ・・・血圧とは関係ありません。
毛細血管は、内皮細胞のみからなる細い血管で、この部分の血管壁を通して血液中の酸素や栄養物が組織中の不要物と交換されます。
酸素や二酸化炭素、水、イオン、尿素、グルコースなどは毛細血管壁を通って移動できます。毛細血管の直径はわずか5〜7ミクロンですが、本数がきわめて多いため、総断面積は動脈の数百倍とされています。毛細血管にもわずかながら平滑筋がありますが、交感神経よりはむしろ局所で産生される生理活性物質により血管径が調節されています。
静脈 ・・・血圧と関係ありません。
静脈 vein は血液が心臓へと戻る通路で、循環血液の約75%が静脈系に存在しています。
静脈は動脈や毛細血管により隔てられており、血圧は低くなっています。
また血液の逆流を防ぐために静脈弁が備わっており、骨格筋の動きにより加圧された血液を元の心臓の方向に流します。このしくみは特に下肢において重要です。
細動脈の血圧
高血圧のヒトは、大動脈圧や腕のような末梢の動脈圧が高い値を示します。
しかし、この高い血圧がそのまま臓器に負荷を与えないように、細動脈レベルでは平滑筋で自動的(自律神経の交感神経作用、ノルアドレナリン)により細動脈の血圧が調節され、正常な血圧のヒトと同じレベルまで細動脈の血圧は押さえられます。
すなわち、高血圧のヒトの細動脈では、さまざまなホルモン(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン)がより多く分泌されていると考えられます。
さあ、これで血圧の理解には、ホルモンであるレニン・アンギオテンシン・アルドステロンとバゾプレシンの理解が必要である事が理解できましたでしょうか。
語源から考えて、腎臓との関連づけをしておく ・・・語源のリンク先
レニン:「腎臓の」と言う意味 の Renal(英語)やラテン語renalisを語源とし、レン(腎臓)+~in(化合物の意味の接尾辞で、促進させるものと言う意味)がありますので、
レニンは、「腎臓に働くホルモン」と言う語源的な意味がありそうです。
アンギオテンシン:アンギオは、ギリシャ語由来の血管を意味し、テンシン(テンション)は血圧や血管の緊張を意味し、アンギオ(血管)+テンシン(収縮させるもの)
テンス(緊張)+~in(化合物の意味の接尾辞で促進させるもの)と言う意味があります。従って、語源的には腎臓の血管を収縮させる物質と言う意味でしょう。
アルドステロン:副腎を英語で、Adrenal と言い、アルドとは少し違います。ステロンはステロイドホルモンを意味します。
さて、アルドとは、アルデヒド基(-CHO)を持つ事に由来した名前です。
ステロンは、ステロイドを意味し、
~オンは、化学物質に接尾語として付けられる「~one」という化合物の意味は、二重結合の「C=O」を意味しますので、アルデヒド基を持つステロイドに二重結合がある物質という意味になります。
バゾプレシン:バゾは血管、プレシンは血圧や圧迫、圧力を意味し、~インは化合物の接尾語で、促進作用物質を意味します。
すなわち、血管収縮物質、血圧上昇ホルモンの意味が考えられます。
その作用機序は、腎の集合管レベルでナトリウムイオンの再吸収を促進することで血圧を上昇させます。また、ナトリウムの再吸収を促進することで、尿細管柱や集合管で水も再吸収されることから抗利尿ホルモン作用があります。
以上で血圧の概要をご説明させて頂きました。
そして血圧を理解する焦点は、腎臓のホルモン系である事も概ねご理解頂けましたでしょうか。
腎臓のホルモンが血圧調節の中心と考えられる理由の一つに、「慢性腎臓病診療ガイド、高血圧編」の9ページに示されている「高血圧治療の進め方」の治療薬の先端順位をご覧下さい。
第1選択薬はアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、
第2選択薬が利尿薬、
第3選択薬がカルシウム拮抗薬とされています。
この点からも、高血圧の治療には、腎機能の理解が必要とされることがわかります。
腎臓のホルモン系の学びは、以下のリンク先を参照して下さい。
その際、以下の関連情報から学ぶ際の注意点は以下の通りです。
・・・・健康なヒトでは、糸球体でろ過される原尿量は、1日におよそ150リットルにも及びます。
すなわち、24時間で150リットルをろ過していますので、
1分間当たりのろ過量は、 150/24/60=0.104リットル(100㎖)となりますので、
下の表1のGFR(糸球体ろ過量)と一致しますね。
しかし、実際の尿量は1.5リットル程度ですから、99%は再吸収されることになります。つまり、輸入細動脈中の血液から99%もの水分が尿細管でろ過されるなら、遠位尿細管には1%程度の水分にまで濃縮された血液が通過することになりますが、糸球体ろ過後の遠位尿細管で、血液が詰まったりしないのでしょうか?
関連情報
オシロメトリック法による血圧測定
上腕にカフ(腕帯)を巻き、空気を送り込んで血管を圧迫し、血流を止めた後、徐々に圧迫をゆるめて、血液の圧力が血管を圧迫しているカフの圧力を上回ります。
この時、血液が心臓の拍動に合わせて断続的に流れ始めますが、カフを加圧した後、減圧していく段階で、心臓の拍動に同調した血管壁の振動を反映したカフ圧の変動(圧脈波)をチェックすることで血圧値を決定します。圧脈波が急激に大きくなったときのカフ圧を「最高血圧」、急激に小さくなったときのカフ圧を「最低血圧」としています。
コロトコフ法とオシロメトリック法による血圧測定の違いに関する研究
eGFR(⽷球体ろ過量)早⾒表 ・・・