わかりやすい血圧の話 (6)治療薬の分類と作用部位
わかりやすい血圧の話 (6)治療薬の分類と作用部位
血圧の治療薬の分類
降圧薬(高血圧の薬)の使い方によれば、降圧剤は次のように分類されます。
1) 合併症のないⅠ度高血圧(160/100mmHg未満)の場合は、第一選択薬(Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬)の中から1剤を選んで少量から開始します。
2) II度以上(160/100mmHg以上)の高血圧の場合、通常用量の単剤もしくは少量の2剤併用から開始する。
従って、治療薬の基本は、
Ca拮抗薬、
ARB(レニン・アンジオテンシン受容体ブロッカー)、
ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、
利尿薬の4種類と考えられます。
高血圧の治療薬の分類が解り難い理由、覚えにくい理由
血圧を下げる薬を作用機序から考えますと、以下の3種類かと思われます。
血流量や心収縮力を抑えるもの、
血管を拡張させるもの、
血圧上昇物質を抑制するもの ・・・があります。
以下のように文字色を変えて3分類してみましたが、ここを理解するには、以下の内容を理解する必要がございます。
(A)血流量や心収縮力を抑えるものを理解するには、自律神経系の交感神経のβブロッカーについての理解が必要です。
(B)血管を拡張させるもの(血管抵抗を下げるもの)を理解するには、自律神経系のαブロッカーとカルシウムブロッカーについての理解が必要です。
そして、(C)血圧上昇物質を抑制するものを理解するには、「腎機能の基礎」の理解が必要です。
すなわち、腎臓が単に血液から尿成分をろ過しているだけではないことをご理解いただきたいと思います。
そして、腎臓が自律神経(α受容体、β受容体)、腎臓や副腎のホルモン、及び脳下垂体からのホルモンによって腎機能が調節されている事を把握できているなら、高血圧の治療薬の分類もご理解頂けると思います。
<たとえ話> ・・・高血圧の治療薬の分類が解り難い理由、覚えにくい理由。
以下の高血圧の治療薬の分類が解り難い理由は、腎臓が単に血液から身体の老廃物をろ過するろ過装置として役割しか理解できていないからです。
丁度、ご家庭のお母さんの役割は、子供たちにとっては、食事を用意し、家の掃除や洗濯もしてくれます。
しかしながら、お母さんの役割は、子どもの世話だけではありません。
妻としての役割や、祖父母がいれば嫁としての役割も担うことが求められるかも知れません。
また、外で働いているなら、職場でも役割を求められるでしょう。
地域社会や子どもが通っている学校でも役割を求められることもあるでしょう。
ところが、子どもから見たお母さんは、子どもの好きな物が入った食事を用意し、甘えられる優しい大人としか写ってないかも知れません。
従いまして、以下の分類が上に示した「血流量や心収縮力を抑えるもの、血管を拡張させるもの、血圧上昇物質を抑制するもの」の分類が解り難いのは、丁度、子どもからお母さんの一面しか見えていないのかも知れません。
しかし、祖父母から見るなら、お母さんが家庭や地域、学校あるいは職場で様々な役割を果たしているように、腎臓の働きが「血液のろ過」だけの役割ではないことを、子どもには理解出来ていないのと似ていないでしょうか。
そのために、「腎機能の理解」を学び、身体の恒常性バランスを整える上で、腎臓が様々な役割を担っていることをご理解頂きたいと思います。
それでは、「(A)血流量や心収縮力を抑えるもの、(B)血管を拡張させるもの、(C)血圧上昇物質を抑制するもの」に分類し、腎機能の役割を調整するお薬についてご説明させて頂きます。
(A1)降圧利尿薬……腎臓からナトリウムと水分の排出を促進させ、血流量を減少させる薬。
この薬は、下の平均血圧の式(1)で血流量を減少させることにつながることから、血圧を上げることをご理解頂けると思います。
平均血圧=心拍出量×末梢血管抵抗 ・・・・式(1)
(A2)β遮断薬(ブロッカー)……心臓の交感神経・β受容体に作用し、心拍数と心収縮力を抑制し、血圧を低下させる薬。交感神経のβ受容体に作用する物質はノルアドレナリンです。
β1受容体の分布 ・・・大事なことは赤色部分のみ。
心臓、消化器、脂肪組織、冠血管、大脳皮質に受容体があり、その作用は、心拍数増加、心筋収縮力増加、冠血管拡張、脂肪分解、消化管弛緩です。
・・・・このβ1受容体をブロック(阻害)しますと、心拍数の増加が抑えられ、心筋収縮力の増加も抑制されますので、平均血圧の式(1)で心拍出量を抑えることで血圧を下げることができます。
β2受容体の分布 ・・・大事な点は青色部分のみ。
肺、肝、膵、骨格筋血管、骨格筋、交感神経、白血球、肥満細胞、小脳であり、その作用は、気管支拡張、(骨格筋の)血管拡張、グリコーゲン分解、骨格筋収縮力増大、化学伝達物質遊離抑制です。
(B1)α遮断薬(ブロッカー)……末梢血管平滑筋の交感神経・α受容体を遮断することで腎糸球体の血管を拡張する薬。
α受容体の分布 ・・・血圧に関わる大事な点は青色部分のみ。
主な分布は腎臓の糸球体の血管の平滑筋で、その作用は平滑筋の収縮です。糸球体を構成する血管の収縮をブロックすることで、末梢血管抵抗は下がります。
その結果として、腎臓の近位尿細管細胞ではナトリウムや水分の再吸収を促進し、循環血液量を増加させて血圧を上げます。
・・・・このα受容体をブロックしますと、腎臓の糸球体の血管平滑筋の収縮を抑制しますので、平均血圧の式(1)で末梢血管抵抗を下げるため、血圧が下げられることがわかります。
(B2)Ca拮抗薬(ブロッカー)……血管平滑筋のカルシウムチャネルを遮断して、血管平滑筋を弛緩させ、血管を拡張する薬です。
心臓や血管が収縮する時には細胞内にカルシウムイオンが流れ込みます。
カルシウム拮抗薬は、カルシウムイオンが細胞内に流れ込むのを抑え、血管の収縮を抑えることで血圧を下げます。
(C1)アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬……血圧上昇物質であるアンギオテンシンⅡの産生を抑える薬。
(C2)アンジオテンシンII(A-Ⅱ)受容体拮抗薬……アンギオテンシンⅡ受容体をブロックしてアンジオテンシンIIの反応を抑える薬。ACE阻害薬に比べ、せきなどの副作用が少ない。
(C3)レニン阻害薬 ・・・アンジオテノーゲンをアンジオテンシンI に変える酵素を阻害することで、アンジオテンシンIIの産生を抑制し、血圧を下げる薬。
(C4)抗アルドステロン薬 ・・・アルドステロンは腎臓の遠位尿細管・集合管で水分やナトリウムを血管内へ再吸収させ血液量を増やすで血圧を上げる作用を阻害する薬。アルドステロンの受容体を阻害する結果、水分やNaの再吸収が抑えられ、血圧の上昇を阻害します。
具体的な薬品名と作用部位 ・・・・こちらのリンク先を参照して下さい。
ご自身あるいはご家族が服用されている高血圧の治療薬が上に示した3つの作用の内、どれかについて調べて頂ければ幸いです。
自律神経の概要 ・・・以下の部分は定義ですので、整理して覚えなければなりません。
覚えにくいのですが、以下の事を踏まえますと、腎臓が自律神経の支配下で
どのような役割を担っているかをご理解頂けるかと思います。
自律神経の接合部(自律神経節)と副交感神経終末は伝達物質としてアセチルコリン(Ach)を、神経伝達物質として放出されます。
他方、交感神経終末はノルアドレナリン(Nor)を放出します。
伝達物質としてアセチルコリンを放出する神経をコリン作動性神経線維、そのレセプターをコリン作動性受容体と言います。
ノルアドレナリンを放出する神経をアドレナリン作動性神経線維、そのレセプターをアドレナリン作動性受容体と言います。
ノルアドレナリンはアドレナリンとともに、副腎髄質からも放出されますが、副腎と言う臓器から放出される場合には、神経伝達物質ではなく、「ホルモン」と言っています。
末梢神経の内、運動神経の神経伝達物質はアセチルコリンです。
・・・と書いてはみたものの、これが中々覚えにくいです。
でもどうしても頭に入れたいと思われるようでしたら、直接おたずね下さい。
印象的な覚え方をご紹介させて頂きます。
関連情報 自律神経