自律神経 (7)神経に及ぼすニコチンの影響
自律神経 (7)神経に及ぼすニコチンの影響
ニコチン受容体は、末梢神経の中でも主に自律神経の副交感神経の受容体の一つです。
しかし、他にも交感神経の神経節及び運動神経の神経伝達にも関わるだけでなく、中枢神経系にも影響を及ぼすことから「神経(伝達)に及ぼすニコチンの影響」について概要をご説明させて頂きます。
ニコチン ・・・リンクしてます。
ニコチンは、タバコに含まれる主な成分として知られていますが、医療関係者であればニコチンの摂取(タバコの喫煙)による健康への影響を理解しておく必要があります。
より具体的には、治療薬の有効性に及ぼすニコチンの影響を考える必要があるからです。
その一方で、ニコチンには医薬品として、多動性障害、強迫性障害、統合失調症、うつ病、アルツハイマー病などの認知能力や行動制御に問題を生じる疾病に治療効果が認められています。
従いまして、どの薬にもある有益な作用と副作用を比較した時、ニコチンは明らかに副作用の発生頻度が高い薬物であることから、日常的に喫煙によりニコチンが補充されている場合には、薬物治療を行う際、喫煙習慣が障害となる治療薬は少なくありません。
その具体例については、「喫煙により影響を受ける薬」を参照して下さい。
副交感神経におけるニコチン受容体
「治療薬の有効性に及ぼすニコチンの影響」を理解するには、自律神経系を理解することで、以下のような作用についても無理なく判断できると思います。
末梢神経系への作用:アセチルコリンは、自律神経の副交感神経の神経伝達物質であり、また交感神経の神経節における神経伝達物質ですね。
このことから、喫煙により摂取されるニコチンは、アセチルコリンのニコチン受容体にニコチンが結合することは容易に考えられます。
またアセチルコリンは、運動神経の神経伝達物質でもありますので、運動神経のニコチン受容体にも喫煙に伴う影響が考えられます。
その結果として、以下のような作用が現れます。
1)心臓は副交感神経が優位に支配しており、アセチルコリン受容体(ニコチン受容体)にニコチンが結合し、副交感神経の作用が増幅され、心拍数が低下します(下図参照)。
ニコチンの摂取量が多い場合には、心臓の交感神経節のアセチルコリン受容体にもニコチンが結合し、心拍数を増加させ、血圧を上げる可能性があることも考えられます。
2)血圧(血管平滑筋)の支配は交感神経が優位に支配していますが、神経節ではアセチルコリンが神経伝達物質で、神経節のアドレナリン受容体にニコチンが結合することで血圧は上昇します(上図参照)。
3)消化器系は副交感神経が優位に支配しており、ムスカリン受容体にニコチンが結合することで消化管平滑筋の運動を亢進させ、胃もたれなどの消化器症状を改善します。
しかしながら、多くの喫煙は「胃もたれの改善」のための喫煙ではありませんので、ニコチンの摂取が継続されることが胃潰瘍の原因にもなり、摂取量が多い場合には下痢を生じることもございます。
4)中枢神経系への作用で呼吸の亢進、おう吐。高用量では興奮、中毒量では痙攣を生じます。
少し副交感神経から外れますが、「脳内の報酬系」と呼ばれる主観的な快体験を起こす神経回路が刺激され、ドーパミン、セロトニンの分泌が亢進し、快楽を得られます。
<脳内報酬系に対するニコチンの影響>
喫煙により吸収されたニコチンは脳内のアセチルコリン受容体(アセチルコリンの神経核参照)に結合し、長い時間受容体に結合し続けて受容体を過剰に刺激します。
その結果、脳内アセチルコリン受容体の感受性は低下します。
従って、喫煙者は外部からニコチンを摂取しないと脳内アセチルコリン受容体を介する神経伝達、ドーパミン分泌が低下し、満足感を得にくくなります。
そのため喫煙数時間後にニコチン濃度が低下すると、脳内アセチルコリン受容体を介する神経伝達、ドーパミン分泌の低下からイライラや不安感等の禁断症状を感じます。
そこでまた喫煙することで、数秒でニコチン濃度は上昇し、脳内アセチルコリン受容体を介してドーパミンが放出され、禁断症状は消え、頭がスッキリし、満足感を得られます。
5)骨格筋にあるアセチルコリン受容体であるムスカリン受容体にニコチンが結合すると、摂取量によっては筋肉の収縮が起こり痙攣を生じる可能性もあります。
運動神経の神経節では、アセチルコリンが神経伝達物質でした。
また、運動神経の終末でもアセチルコリンが分泌されますので、この両方(神経節と神経終末)に、アセチルコリンの受容体があります。
これらの受容体にニコチンが結合することで、筋肉の収縮はより継続的に運動したり、働いたりできます。
結果的には、意欲に基づく自発的なアセチルコリンよりも、ニコチンに頼る(ニコチン依存の)仕事や運動に移行しやすくなります。 ・・・上の<脳内報酬系に対するニコチンの影響>が現れます。
6)気道は昼間、交感神経により拡張し、夜間は副交感神経の支配が有意となり収縮します(上図参照)。
気道ではコリン性気道の制御が優位であることから、抗コリン薬が気道閉塞症状の軽減に用いられています。
従って、タバコによるニコチン摂取は治療を阻害し、呼吸器系の疾患があるにも関わらず、ニコチンに依存していまいます。
7)膀胱は昼間、交感神経優位で夜間は副交感神経が有意に作用します(上図参照)。
過活動膀胱では、夜間の頻尿を抑えるため、上図の通り、副交感神経のアセチルコリンが膀胱を収縮させます。
そこで、抗コリン剤が膀胱の平滑筋にあるムスカリン受容体をブロックすることで膀胱の収縮を抑制します。
過活動膀胱で抗コリン剤を服用しても、日常的に喫煙をしている場合(ニコチンを摂取していると)、抗コリン剤の効果は発揮されません(阻害されます)。
<私見>
いくつかの臓器における自律神経支配に及ぼすニコチンの影響についてご紹介させて頂きましたが、その内容は自立神経の伝達物質と受容体についての知識である程度理解できますので、覚える必要はございません。
医療従事者の中でも、パラメディカルスタッフの方々が自律神経系の理解を通して、医師がどのような受容体に作用する治療薬で症状を改善しようと考えているかの理解に役立てば幸いです。
アセチルコリンが関係する疾患
進行性の筋力低下が認められる疾患です。
筋肉の(副交感神経の受容体の一つである)ニコチン受容体に対する自己抗体により受容体が破壊される自己免疫疾患です。
その結果、アセチルコリンが伝えられる運動神経及び自律神経の神経伝達物質である事を考えますと、上のリンク先の様々な症状を理解できます。
結果的に、アセチルコリンを少しでも補う目的で、アセチルコリンの分解を抑制するコリンエステラーゼ阻害剤が用いられています。
アセチルコリンの活性が低いことが解明されており、その原因は、脳内におけるアセチルコリン受容体であるニコチン受容体が大豊皮質及び海馬領域でより多く減少し、ムスカリン受容体の減少は少ないとされています。
アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼ阻害剤で、アセチルコリンの分解を抑えようとしていますが、その効果は期待されたほどではないのが現状です。