自律神経 (6)自律神経の受容体
自律神経 (6)自律神経の受容体
自律神経の受容体については、このシリーズで何度が触れてきました。
しかし今回は、受容体に焦点を絞って、整理し、復習の意味でこれまでの説明を踏まえつつ、確認しておきたいと思います。
自律神経の神経伝達物質の受容体
自律神経の神経伝達物質の受容体は、それぞれ2種類ずつあります。
交感神経の神経伝達物質(ノルアドレナリン)の受容体には、αとβ受容体(アドレナリン受容体)があり、
副交感神経の神経伝達物質(アセチルコチン)の受容体には、ムスカリン受容体とニコチン受容体があります。
・・・医療関係者の中でも医師と薬剤師以外の多くは、この辺りで挫折しているように思います。
・・・それだけではありません。多くの薬剤師や医師達も、「なぜムスカリンとニコチンがアセチルコリン受容体に結合できるのか?」までは理解していません。
結果的に、ムスカリンやニコチンは、副交感神経がつながっている組織や臓器の機能に影響を与えているので、覚えるしかありません。
アセチルコリン、ムスカリン、ニコチンの化学的類似性
化学的には以下の通り、3つの化合物の化学構造もそれほど似ているようには見えません。
ところが、下図で3つの化学構造上の電子配置と赤丸と青丸の距離が似ており、赤丸は陽電荷をもち、青丸は陰性に荷電し、3つの物質は同じアセチルコリン受容体であるムスカリン受容体及びニコチン受容体に結合できます。
タバコは一日1本でも死ぬか? (7-2)ニコチンがアセチルコリン受容体に作用する機序 で示した通り、ニコチンとアセチルコリンの電子配置がと陽電荷及び陰電荷の距離が類似していることは証明されています。
同様に、ムスカリンについても「Molecular orbital calculation of preferred conformations of acetylcholine, muscarine, and muscarone. Mol Pharmacol. 1967 Sep;3(5):487-94. ed. by Kier LB.」で量子化学計算により明らかにされていると思われます(全文については、入手できていませんので読んでいません)。
少なくとも、量子化学計算から、3つの物質の間の分子内電荷の偏りが似ているだけでなく、陽電荷と陰電荷の距離と空間配置が類似していることから、3つの物質はコリン受容体に相互に一定程度は反応でき、副交感神経の神経伝達物質としての機能を発揮できると推測されます。
<副交感神経の受容体について> ・・・ムスカリン受容体とニコチン受容体
ムスカリン受容体は、副交感神経の神経終末に存在し、副交感神経の効果器の活動を制御し、中枢にもこの受容体は存在しています。
このムスカリンは、毒キノコから発見された神経毒成分です。
ムスカリンを経口摂取すると、短時間(15~30分後)で腺分泌の亢進による発汗、唾液や涙の分泌増加が見られます。・・・これらは副交感神経作用が過剰に刺激された状態です。
大量に摂取すると、消化管運動や消化液分泌の亢進による腹痛や下痢、気管支平滑筋の収縮による呼吸困難、瞳孔括約筋収縮による瞳孔の縮小(縮瞳)が起こります。さらに心拍数を減らし呼吸困難で死亡することもあります。半数致死量は0.2mg/kg(静脈内投与)です。 ・・・下図を参照して下さい。
・・・・このような毒キノコを食べたときは、ムスカリン受容体をブロックする「アトロピン」が副交感神経の作用を抑制し、胃腸管の運動抑制、心拍数の増大などの作用を期待して用いられます。
覚え方:ムスカリン受容体は居心地平気(胃、心の洞結節と房室結節、腸、血管と気管支の平滑筋)と覚えましょう。説明:イ→胃、ゴコ→心、チ→腸、ヘイ(キ)→血管平滑筋、気管支平滑筋
ニコチン受容体は、自律神経(交感神経と副交感神経)の節前線維終末(副腎髄質での神経終末を含む)及び運動神経終末に存在している。
ニコチンはタバコの葉に含まれる毒性物質で、主に脳内の受容体に対し結合し、神経伝達物質(ドーパミン、アドレナリン、β-エンドルフィン)の分泌を促進します。
その理由は、タバコは一日1本でも死ぬか? (7-2)ニコチンがアセチルコリン受容体に作用する機序 で説明していますが、副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンとニコチンの化学構造は余り似ていませんが、構造上の電子配置が似ていることから、ニコチンはアセチルコリンの受容体に結合します。
覚え方:ニコチン受容体は、タバコは腹水中禁じられる(副腎髄質、中枢神経、筋肉、自律神経節)と覚えましょう。説明:ニコチンと言えばタバコですので、ニコチン(タバコ)の受容体は、フクスイ→副腎髄質、チュウ→中枢神経、キン→筋肉、ジ→自律神経 と関連づけてみました。
自律神経の神経伝達物質に対する受容体 ・・・アセチルコリン受容体(副交感神経のアセチルコリンに対する受容体)。アドレナリン受容体(交感神経のノルアドレナリンに対する受容体)。
ここでは、アセチルコリン受容体(ニコチン受容体、ムスカリン受容体、副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体)及び
アドレナリン受容体(ノルアドレナリンとアドレナリンの受容体)について、きちんと書かれている ストレスと自律神経の科学 のサイトを紹介させて頂きます。
ちなみに、タバコの煙に含まれるニコチンは、ヒトの体内に入ると細胞膜の表面にあるニコチン受容体に結合します。
ニコチン受容体は、アセチルコリン受容体の中でニコチンとも結合できる受容体のことであることから、「ニコチン性アセチルコリン受容体」とも呼ばれています。
ニコチン中毒は、脳内のアセチルコリン(ACh)受容体へのニコチンの高親和性結合が、陽イオンーπ(パイ)相互作用による強い結合が証明されています(下記のタイトル1)。
・・・簡単に言い換えますと、ニコチンはアセチルコリンよりも(上の「神経の中継地点にある)ニコチン受容体に強く結合することから、副交感神経伝達物質であるアセチルコリンよりもリラックス効果を発揮するため、ニコチン中毒になりやすいとされています。
<余談:古くからあるアトロピンというお薬について> ・・・副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンに電子配置が似ています(下図は、引用先にリンクしてます。)
さて、古くからのお薬にアトロピンがございます。このアトロピンは、副交感神経遮断薬としてアセチルコリン受容体に作用して、阻害します。
その結果、胃腸管の運動抑制、心拍数の増大などの作用があることから、胃・十二指腸潰瘍における分泌や運動亢進時に使用されます。
下痢、嘔吐、腹痛時にも使われます。
また、有機リン系の農薬やサリン、タブン、ソマンと言った神経ガスはアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼを阻害します。
この為、受容体に結合したアセチルコリンは分解されず、そのまま神経にシグナルを送り続けて生体機能を撹乱します。
そこで「ムスカリン性アセチルコリン受容体を阻害する抗コリン剤であるアトロピン」を使用することで、アセチルコリンの作用を阻害し、神経毒の過剰な働きを防ぐことが可能になると考えられています。
<参考情報>
タイトル1:Nicotine binding to brain receptors requires a strong cation–π interaction
訳:「ニコチンが脳の受容体に結合するには強い陽イオン – π相互作用が必要です」
研究者:Xinan Xiu, Nyssa L. Puskar, Jai A. P. Shanata, Henry A. Lester & Dennis A. Dougherty
公表雑誌:Nature volume458, pages534–537 (26 March 2009)
まとめ
いろんな方向から、繰り返し自律神経について整理してみましたが、なかなかスッと頭に入りません。
事実である以上、このような仕組みを踏まえることで、一つ一つの事実を把握し、確認していくしかなさそうです。