新型コロナウイルス・ワクチンの承認20210214 (5)抗体価の確認
新型コロナウイルス・ワクチンの承認20210214 (5)抗体価の確認
「(1)ワクチンの承認審査」では、ワクチンの具体的な承認審査機関でファイザー社の新型コロナワウイルス・クチンの審査が成された情報をご一緒に確認しました。
「(2)審査の概要」では、ファイザー社製・新型コロナ・ワクチンの審議結果報告書から、非臨床薬理試験及び臨床的安全性の概略についてご紹介させて頂きました。
「(3)副反応の概要」では、副反応の概要についてご一緒に確認しました。
「(4)発症予防効果」では、ワクチンの有効性を評価の指標として最も注目される「発症予防効果」に焦点を絞ってご紹介させて頂きました。
今回は、ファイザー社の「新型コロナ・ワクチンの有効性」の中の「抗体価の上昇」について見ていきましょう。
ワクチンの有効性 (2)抗体価の上昇 ・・・表 16 SARS-CoV-2 血清中和抗体価(50%中和抗体価)(海外 C4591001 試験第Ⅰ相)、←「審議結果報告書」の30ページ参照。
ワクチンの有効性評価の指標として、感染が流行あるいは蔓延している地域では、上の「(4)発症予防効果」で評価する事が出来ます。
しかしながら、流行が比較的少なくなってきた 2021年2月下旬の日本のような状況下では、感染防御効果ではワクチンの有効性を評価できません。
そこで、流行の少ない国でワクチンの有効性を評価する方法として、血中の(中和)抗体価を調べることで一定程度の評価が可能とされています。
実際にファイザー社が定めたワクチン接種後に有効性が現れる時期は、「2 回目接種後 7 日目以降」と設定しています。
その根拠は、海外における第Ⅰ相試験で SARS-CoV-2 血清中和抗体価の測定を行ったところ、2 回目接種後7 日以降に顕著に高値となったことから(下の表 16)、発症予防における中和抗体価の上昇が、2 回目接種後 7 日以降にワクチン接種効果が発揮されるであろうと考え、第Ⅱ/Ⅲ相パートの主要評価項目の評価期間として設定しています。
その根拠となる表16のデータをグラフ化したのが下に示した2つのグラフです。
<用語説明> 表にある「GMT」について
幾何平均抗体価(geometric mean antibody titer: GMT)を指しています。
平均を計算するのに使用された「n個の数を全て掛け合わせたものは、幾何平均のn乗に等しい」と「リンク先の幾何平均の意味」の項に定義されています。
従いまして、幾何平均とは、互いに掛け合わせることに意味があるようなデータに対して、平均的にはどのような数を掛け合わせることに相当するかを示す指標と言えます。
幾何平均の具体例を参考にしますと理解しやすいと思いますので、こちらを参照して下さい。
(参考)エクセルでべき乗の計算は、「^(ハット・キャレット)」をお使い下さい。3の3乗は、「=3^3」です。
また、3乗根の計算は、「=27^(1/3)」で、簡単に計算できます。
(余談)三角みたいな山型の記号はキャレットと呼ばれ、一般的には文章の校正の際、文字を挿入する際の記号として使われています。
ところが、エクセルでは、「+、-、/、*」と同様に演算子として使われ、その用途はべき乗計算の演算子です。
例えば、「3×3」をエクセルでは「=3*3」あるいはべき乗演算子のハットキャレットを使って、「=3^2」とすることで「3の2乗」を計算できます。
他にも、べき乗計算関数としてPOWERがあります。「3の2乗」は、「=power(3,2)」で簡単に計算できます。
<私見> ・・・中和抗体価で、なぜ幾何平均を使ったのか?
さて問題は、ここで抗体価をなぜ幾何平均を使ったのか? です。
一度に数百人あるいは数千人の抗体価を測定するのが難しくて、例えば測定日を「1回目接種後21日目」に測定できずに、ずれてしまったのなら解ります。
しかし、例数は、上の表16が示すとおり、わずか70例ほどしかございません。
従いまして、ここで幾何平均の抗体価を算出している合理的理由を私は理解できません。
加えて、1行目の「1回目接種前」のデータは、ワクチンを接種していないのですから、通常なら「0」として評価すべき所と考えられます。
あるいはバックグラウンドがあったとしても、次の「1回目接種後21日目」の元データから「1回目接種前」のデータを差し引いた数値を示すべき所です。
すなわち、ワクチン接種前の抗体価を「1回目接種後21日目」以降の元データから差し引くなら、6.9、159、90、90 となります。
抗体価としての評価は「生(なま)データ」で、どう幾何平均抗体価を計算しているのかについて、知る必要があると考えます。
ちなみに、インフルエンザの抗体価は、こちらのリンク先の表2をご覧下さい。「1:8」とは血清を8倍に希釈しても抗体が検出されるという意味です。
また、他のワクチンの抗体価は、こちらを参照して下さい。
(注意)お断りしておきますが、PMDAの「審議結果報告書」の30ページは、上の表の通り、表16には、56~64歳のデータはございません。
その理由は、第1相臨床試験の論文
「Safety and Immunogenicity of Two RNA-Based Covid-19 Vaccine Candidates」の表4のデータを引用していると思われますが、表4は、ワクチンの抗体価として、IgG及び中和抗体価が示されています。
「なぜ、56~64歳のデータをとらなかったのか?」については、わか解りません。そして、56~64歳に接種しても有効であるとしています。
ワクチン接種後の中和抗体価の変化 ・・・下のグラフは「Safety and Immunogenicity of Two RNA-Based Covid-19 Vaccine Candidates」の表4のデータを参考にしていますので、縦軸は抗体価としていますが、上の表16が示す「幾何平均抗体価」のデータと同じです。
<18~55歳におけるワクチン接種後の血中抗体価の変化> <65~85歳におけるワクチン接種後の血中抗体価の変化>
上のグラフで青色、赤色及び黄色の曲線は、接種したワクチン量が10㎍、20㎍、30㎍を示しています。
この抗体価の変化から、実際のワクチン接種は、30㎍とされました。
また、上のグラフのどちらの年齢群でも1回目のワクチン接種21日後、すなわち2回目の接種前の抗体価はほとんど上がっていませんが、2回目接種7日後から14日後には明らかな抗体価の上昇が認められています。